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「でもどうして一年前から急に話しかける様になったの? それまでは疎遠だったのに」
「それはさ、俺だって花乃に嫌われてるの分かってたから、近付かない方がいいんだろうと思ってたんだよ。花乃をずっと忘れられなかったけど諦めようとしてたわけ」
「それで、いろんな人と付き合ってたの? 次々と女を落として来たの?」
そう言うと大樹はがっくりと項垂れた。
「花乃、井口の話はかなりおおげさだから。付き合った女は居たけどそんな見境無く迫ってないし」
「そうなの? でもよく女の子とその辺歩いてたよね?」
「あれは勝手に押しかけられたの。花乃に目撃されてすっげー軽蔑の目で見られてるのに気付いて弁解したかったけど、余計に花乃にうざがられるの分かってたから何も言わなかった」
ああ……確かにその通り。
以前の私なら、そんな弁解されても多分“何言ってるのこの人?”としか思えなかった。
それにしても大樹って本当にモテ人生なんだな。
家に押しかけられるくらい恋されちゃうなんて……確かにイケメンだもんね。
それに仕事も出来るみたいだし、思い返してみれば高校も大学も私よりずっとレベルの高い所に通ってたし。
それに……優しいし頼りになるし。
女の子が夢中になるのも分かるかも。
じっと大樹を見つめてみる。
大樹は珍しくちょっと顔を赤くして私からふいと視線を逸らしてしまった。
「大樹?」
「俺さ、何度も花乃を諦めようと思ってたんだよ。でもいつまで経っても、どこにいても花乃の事を思い出しちゃって、自分でもやばいって思って他の女に目を向けようとした。でも駄目だった」
大樹は伏し目がちに言う。
「ずっと悩んでたんだけど一年前位に決めたんだ。諦めないで花乃に告白しようって。その為にはまずはもっと近付こうって」
「それで、急に馴れ馴れしくなったの?」
「慣れなれしいって……まあそうだよ。突然告白しても絶対一秒も迷わないで断られるって分かってたから」
「そ、そんなわけ……」
あるかも……だって私、大樹が大嫌いだったし。
「それから昔の事をちゃんと謝りたかった。傷つけてごめんって……もっと花乃の心を開けたら言おうと思ってた。簡単に許して貰えるとは思ってなかったけどちゃんと謝って償おうおって……実際は想像以上にあっさり許して貰えて驚いたけど」
「私だってちゃんと謝って貰ったらいつまで怒ってたりはしないよ。理由だって分かったし、考えてみれば自分のコンプレックスを大樹のせいにしてただけだしね」
「いやでも普通は……」
大樹がちょっと言葉を濁す。
普通は、の先に何が言いたかったんだろう。
気になったけど大樹はその先は言わず、視線を上げて言った。
「過去はヤケになって適当な事してたけど、好きなのはずっと花乃だけだから」
綺麗な瞳で真っ直ぐ見据えられて、心臓がドクリと跳ねる。
「あ……うん」
身体中に熱が広がって行くみたい。顔も熱い。
あれ……もしかして私……顔が赤くなってるかも。ど、どうして大樹に?
好きだなんて前も言われたし、今更なのに。
混乱しながらとりあえず顔を隠すために布団の中に潜り込む。
「花乃?」
戸惑いを含んだ大樹の声が聞こえる。でも、この熱が収まるまでは顔を出せない。
すっごい不自然なことしてるのは分かってるけど、今の私の顔は見せられない!
布団の中に丸まってじっとしていると、今度はさっきよりずっと近くで大樹の声が聞こえて来た。
「ねえ花乃……昔から俺には花乃しかいないよ。こんな事ばっかり言ってたら花乃が戸惑うって分かってるけど、変な誤解はされたくない」
大樹が直ぐ近くで話しかけてるのが分かり、私はビクリと身体を震わせた。
どうしよう……落ち着くどころか、どんどん熱が広がっている。
「俺適当な気持ちで好きだって言ってる訳じゃないから。井口が言ったのは大袈裟だけど嘘じゃない。でも俺がどう思ってたかまでは周りからは分からないだろ? 周りの人間に適当な男だって思われるのはいいんだけど、花乃なだけは真実を知っていて欲しいから」
ふわりと布団越しに大樹の手が触れたのが分かった。
突然胸が苦しくなった。なんだか涙が溢れそうで……これが切ないって気持ちなのかな。
私……今頃になって眠れない理由を自覚した。
いろいろごちゃごちゃ考えてたけど、結局私は大樹が他の女の子と過ごした過去に嫉妬してたんだ。
いつの間にか、私だけを好きで居て欲しいって思ってたんだ。
素直に認める事が出来なかったけど、私……大樹が好きなんだ。
「花乃」
大樹の低くて優しい声が聞こえて来る。
ああ……もうどうすればいいの?
気持ちを自覚しちゃった今、もう大樹の顔をまともに見れない。
普通に出来ない。
言いたい事は沢山有るのに、それを言葉に出来なくて、そんな自分が情けなくて涙が出て来てしまう。
私、全然成長してないじゃん。
そうして私が引きこもっている内に時間が経ち、大樹の気配が遠くなった。
やだ、もしかして出て行っちゃうの? 私が何も言わないから?
このまま離れて行ってしまうなんて……そんなの嫌だ!
「行かないで!」
感情のまま布団を押しのけて上半身だけ起き上がり、私は叫んだ。
「……え?」
ベッドから少し離れたラグの上に座っていた大樹が驚いた様に目を丸くする。
あれ……帰ったんじゃ……なかったのかな?
時が止まった様に見つめあい、それから直ぐに大樹がハッと我に返ったようで、素早く私に近付いて来た。