「花乃、どうしたの?」
大樹は心配そうに私の顔を覗きこむ。
その嫌になるくらい整った顔のアップは今の私には刺激的過ぎて、一気に顔が熱くなる。
「え? 花乃、どうしたの? 顔が……」
大樹が凄く戸惑ってるのが分かる。
ああ……ばれてしまった!
なぜか中学校の時のあの悪夢の一場面が思い浮かんだ。
『お前、近藤の事好きなんだろ!』
幼い大樹の声が聞こえるようだ。
きっと今も気付かれてしまった。私が大樹を好きだって。
「見ないでよ!」
どうして私はこんなに顔に出ちゃうんだろう。
こんな風にならなければもっと落ち着いて自分の気持ちを伝えられるのに。
言葉にするより早く相手に気持ちは伝わっちゃうし、恋愛に慣れてないって自ら言ってるようなものだし、駆け引きとかそんなのも全く出来ないし!
ああもう嫌になる。大樹だってきっと引いてるはず……もう消えてしまいたい。
顔を隠す様に手で覆う。その直後、フワリと身体を何かが包んだ。
「……え?」
何?これ?
「花乃落ち着いて。こうすれば見えないから」
大樹の穏やかな声が耳元に響く。
私……大樹の腕に抱き締められてる? 顔を大樹の胸に埋めている状態で、確かにこれじゃあ顔は見えないだろうけど。
「あ、あの……」
男の人に抱き締められるなんて初めての経験で、さっきまでとは別の意味で私の頭はグラグラするばかり。
どうしよう、この状況。
ほぼパニック状態の私の耳元で大樹が言った。
「ねえ花乃、昨日眠れなかったのはどうして?」
「そ、それは……」
そんなの答えられる訳がない。なぜ眠れなかったかを一から説明したら、告白する様なものじゃない。
大樹は私の返事は期待してなかったのか、今度は別の事を聞いて来た。
「今こうして俺に触れられても嫌じゃない?」
突然変わった質問にホッとした。それなら答えられるから。
「嫌じゃないよ……びっくりしてるけど」
瞬間、背中に回された大樹の腕の力が強くなった。
「あの? 大樹?」
「俺の事、少しは好きになってくれてる?」
「……えっ?」
ま、また告白に戻ってしまうの?
「それともまだ嫌い?」
どうしてそんな考えに? 私は慌てて否定する。
「嫌いじゃないよ! 大樹は優しいし頼りになるし。今日だって一緒に居てくれて本当に良かった。大樹が居てくれたから私不安にならなかったし、心強かった」
「……本当に?」
大樹の声が少し震えている気がする。
「本当だよ。大樹が今側に居てくれて私凄く安心してるよ」
ドキドキもしているけど。
「だからさっき行かないでって言ったの?」
「あ……うん」
そう言うと、大樹は一層ギュッと私を抱き締めて来て、私達はますます密着してしまう。
こ、これはあまりに刺激が強すぎる!
でも離してって言って本当に離されたら、有りえないくらいに真っ赤になってるであろう顔を見られてしまうし。
どうしようと混乱していると大樹が言った。
「俺……花乃にそんな風に言って貰えると思わなかった」
「どうして?」
「だって花乃は俺を嫌ってただろ? 最近は距離が縮んだ気がするけどそれは俺が強引に押してるからだし、花乃は困ってるんじゃないかって時々考えてたから」
大樹の声はいつもと違って苦しそうで、今まで私には見せなかった苦悩の様なものを感じさせた。
そうさせてるのは私なんだよね、ずっと冷たい態度をとり続けて……切ない気持ちが込み上げて来る。
私は夢中で口を開いた。
「私確かにずっと酷い態度だったけど、今は大樹の事が大好きだよ。迷惑なんて思わない、大樹と一緒に居ると私は……あっ?」
広い胸に顔を埋めて言いかけていた私は突然ガバッと身体を引き離されてしまった。
目の前に大樹の顔が有って、あまりの恥ずかしさにカアッと顔が熱くなる。
「な、何で急に?」
断りもなく引き離すなんて反則だ!
顔は見ないって言ったのに……だけど大樹は私の抗議を聞き流し、真剣な目で私を見つめる。
「花乃、今の本当?」
「え? 今のって?」
私……何言ってたっけ? ええと、確か大樹を迷惑じゃないって話したんだよね。
今は大樹が大好きだって……ってあれ?
私、さり気なく告白しちゃってない?
しかも『大好き』。
好きより更に上のレベルの告白!
う、嘘……勢いに乗ったとは言え、私ってばなんて事を……。
もう消えたいくらい恥ずかしくて、でも大樹は私の二の腕をしっかり掴んでいて逃げられなくて、どうすればいいのか分からない。
「花乃、俺を見て」
目を逸らす私に大樹が言う。
「む、無理だよ」
まともに顔なんて見られない。
「どうして?」
「だって、恥ずかしい……」
そう言うと、大樹の手が頬に伸びて来て強引に顔を向き合わされた。
「……!」
凄い至近距離に超絶イケメンの顔が有る。
固まる私に大樹は言った。
「ねえ、花乃は俺を好きだって思ってくれてるの?」
そ、そんなに何度も聞かないで欲しい。
さっき、好きどころか、大好きって言い放った私に対して。
大樹はこういうのに慣れてるんだろうし察してよ!
「花乃?」
大樹がもう一度私を呼ぶ。
もう逃げられない。私は勇気を出してコクリと頷く。
大樹が息を飲む気配がした。
「……それは幼馴染として?」
ま、まだ追及するの?
こんなの酷い。大樹は私の羞恥心をどこまで煽れば気が済むの?
もう半ばパニックで私は声を高くして言った。
「幼馴染とかじゃない! 私、大樹が好きなの……大樹の過去の彼女に嫉妬するくらい大好きなの!」
ああ、恥ずかしすぎる。もう耐えられない。
その時、凄い勢いで大樹の腕に抱き締められた。
「あっ……」
あまりの圧迫感に声が漏れる。
抗議しようとしたけれど、大樹の切ない声が聞こえて来て私は黙り込む。
「花乃……花乃……」
「大樹……」
抱き締められ、大樹の胸に密着すると胸の鼓動が聞こえて来る。
ドキドキと高鳴っていて……大樹も私と同じ位緊張している?
恥ずかしくてどうしていいのか分からないのは私だけじゃないのかな?
上手く出来ないのは私だけじゃないのかな。温かい腕の中でそう思った。
どれくらいそうしていたのか、大樹がそっと私の身体を自分の身体から離す。
名残惜しさを感じる私に、大樹が言った。
「花乃、好きだよ昔も今もこの先も」
真剣な目を見ていると、大樹の心が伝わって来るみたい。
混乱から立ち直った私はとても素直な気持ちになっていて、今度は自然と言う事が出来た。
「私も……大樹が好き、きっとこれからもずっと」
大樹が幸せそうな極上の笑顔になる。
私も……多分真っ赤な顔で、それでも幸せに笑っているはず。
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