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長期任務終盤・天幕内 -仕返し-
吹雪は弱まっていた。
だが天幕の中は、
相変わらず薬品と血の匂いが混ざっている。
ドットーレは記録端末を操作しながら、
淡々と数値を整理していた。
ド「治癒促進薬の効果持続時間……予測より長い」
視線も上げず続ける。
ド「副作用の残滓もある。
次回は配合比率を――」
その時。
端末が、音もなく奪われた。
ド「……?」
顔を上げる。
カピターノが立っていた。
無言
だが視線が鋭い。
ド「何かな、隊長殿」
カ「確認したいことがある」
ド「任務報告なら後で――」
カ「薬の成分表だ」
沈黙
ドットーレは一瞬だけ笑った。
ド「興味を持ったかい?
自ら投与を希望するとは、成長した――」
次の瞬間
彼の手首が掴まれ、寝台へ押し倒された。
ド「……おや」
体勢が逆転する。
カピターノが上から押さえ込む形。
ド「これはどういう実験かな」
カ「お前がやったことの確認だ」
片手で彼の腕を固定。
もう片方の手には――
注射器。
ドットーレの瞳がわずかに細まる。
ド「……それは」
カ「先日、お前が使った薬だ」
ド「正確には改良試作型だ」
カ「興奮作用付きの」
ドットーレは小さく笑う。
ド「まさか私に使う気か?」
カ「確認だ」
ド「人体実験は倫理違反だよ、隊長殿」
カ「お前が言うな」
沈黙
針先が光る。
ドットーレは逃げない。
むしろ観察するようにカピターノを見上げる。
ド「投与量は理解している?」
カ「お前の記録を見た」
ド「過量投与すると危険だ」
カ「分かっている」
ドットーレはそこで、
ほんの少しだけ声を落とした。
ド「……興奮作用も」
カ「分かっている」
数秒の視線交差。
ド「それでも?」
カ「確認だと言った」
そして
針が打ち込まれた。
ド「……ッ」
わずかに肩が跳ねる。
薬液が体内へ流れ込む。
ドットーレは呼吸を整えながら笑った。
ド「なるほど……被験体側の視点か」
カ「観察対象はお前だ」
針が抜かれる。
だが変化は早かった。
呼吸が深くなる。
脈拍が上昇。
ド「……発現速度、早いね」
額にうっすら汗が滲む。
カ「副作用は?」
ド「体温上昇、神経過敏、衝動増幅」
視線がわずかに熱を帯びる。
ド「そして――」
言葉が止まる。
カピターノの手が、
ドットーレの肩を押さえたままだからだ。
距離が近い。
吐息が混ざる。
ド「君……距離が近い」
カ「観察だ」
ド「私の台詞だよ、それは」
ドットーレの呼吸が少し乱れる。
ド「……面白い」
カ「何がだ」
ド「君に押さえ込まれる側になるとは」
体温が上がっている。
明らかに。
ド「興奮作用……確かに強い」
カ「理性は?」
ド「保っている……つもりだ」
だが視線が熱い。
ドットーレの手が
無意識にカピターノの腕を掴む。
ド「君の体温……高いね」
カ「薬のせいだ」
ド「いや……これは」
距離がさらに縮まる。
ドットーレの呼吸が浅くなる。
ド「被験体を観察する時とは違う感覚だ」
カ「……」
ド「押さえ込まれているのに、
優位性を感じる」
小さく笑う
ド「興味深い矛盾だ」
カ「観察結果は?」
ドットーレは数秒黙り――
ド「理性は保たれている」
だが続ける。
ド「だが衝動は増幅している」
視線が仮面越しに絡む。
ド「君はこの距離を維持できるかい?」
カ「できる」
ド「私は難しいかもしれない」
一瞬沈黙。
ドットーレの指が、
カピターノの腕装甲をなぞる。
ド「……なるほど」
吐息混じりに。
ド「これが君の見ていた景色か」
カ「理解したか」
ド「十分に」
数秒
そして彼は小さく息を吐いた。
ド「実験は成功だ、隊長殿」
カ「そうか」
ド「だが一つ忠告しよう」
カ「何だ」
ドットーレは笑う。
ド「次に同じことをするなら――」
わずかに身体を起こし、
耳元で囁く。
ド「拘束はもっと厳重にした方がいい」
カ「……なぜだ」
ド「理性が保つ保証がないからだ」
沈黙
カピターノは数秒見下ろし――
ゆっくり手を離した。
距離が戻る。
だが空気は熱いまま。
ドットーレは寝台に座り直し、
乱れた呼吸を整えながら記録端末を取り戻す。
ド「投与側心理……非常に興味深い」
カ「記録するな」
ド「もちろん記録する」
小さく笑う
ド「仕返しとしては上出来だよ、隊長殿」
カ「……次はない」
ド「それは残念だ」
吹雪は静まりつつある。
だが天幕の中だけは――
まだ薬効の熱が残っていた。