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司令部を置いたのは、草が茂る小サイズの星。それでもエインデル城程度はある。
そんな星からシーカー達が見上げるドルナ・ノシュワール。頭だけで、今立っている星のサイズはあるようだ。
頭の3倍はあるちょっと丸い体と、頭と体を合わせた大きさとほぼ同じ大きさの巨大な尻尾は、近づきすぎた今となっては全く見えていない。その両前足は、司令部の星をしっかりと掴んでいる。
遠くから見ているアリエッタには、リスがボールを持っている姿に見えている。
そしてロンデルは見た。ノシュワールの鼻横から伸びる数本の長いヒゲ。その全ての先端が透けているのを。
「目標、ドルナ・ノシュワールのヒゲ! おそらく斬り落とせば元に戻る!」
『おう……おぉう!?』
スラッタルの経緯を聞いていたロンデルは、同じく透けているヒゲを落とすという、判明している解決策をシーカー達に命じた。
すぐさまそれを確認したシーカー達だが、目立つヒゲなので、当然太い。遠目に見ても大木以上の太さを持っていそうなヒゲを見て、ちょっと躊躇った。
そして、掴んでいる星の表面で、小さいのがチョロチョロしているのを見ているドルナ・ノシュワールは、可愛く首を傾げていた。
「ぷ?」
『!?』
ドルナ・ノシュワールが声を発した。その瞬間、一部のシーカー達の動きが止まった。
一瞬何かされたのかと警戒する男達。
「キャー! かわいい!!」
「さっきの気の抜ける音も、もしかしてノシュワールの声?」
「首傾げてるわよ! わはぁ~♡」
大きくなっても小動物特有の可愛さからか、女性陣の殆どと男性陣の一部が悶え始めた。どうやら魅了されたようだ。
「ちっ、動けるやつらだけ行くぞ!」
「飛べる奴は先に行け!」
集めたシーカーには、様々なリージョンから来た者達がいる。ハウドラント人やメネギット人など、自力で空を飛ぶ方法がある者は、先行してノシュワールの顔へと向かう。
残りの動ける者達は、星間移動のシステムなど、何か使える物が無いか探し始める。
「おい、あれって……」
離れた場所に何かをみつけた男は、数人を連れて向かって行った。
離れた星で見ているミューゼ達はと言うと……
「なんだか可愛いねー」
「いや、どうみてもキョウイなんだが……」
「はーい、おやつ出来たのよー」
「ぱひー!」(並べるの手伝うよ!)
「あらあら、我慢出来なかったのよ? いっぱいあるのよー」
ピアーニャの『雲塊』をテーブルに使い、ティータイムを始めようとしていた。
やってきた星には、空中に大小様々な泡が浮かんでいる。地面には丸い花が咲き乱れ、その中から泡が生まれ、辺りをふわふわと漂うのだ。
それを見たアリエッタは、現状を把握していない事もあって、ちょっと困り顔のミューゼと一緒に大喜び。
パフィの背後では、マンドレイクちゃんが泡を捕まえては、鍋に放り込んで火にかけている。アリエッタの家から持ってきた薪は、しっかり有効活用されているようだ。
「はい、シャボレーテの泡で作ったパイなのよ」
どうやら花から出ている泡は食材のようだ。パフィの能力で固めた泡を何枚も被せ、焼き上げてある。上から甘い蜜をかけて出来上がり。
「おいしー!」(なにこれハチミツのパイみたい!)
「……なぜここは、こんなにもヘイワなのだ」
「アリエッタちゃんがいるからでしょ?」
(ん? おかわり欲しいのかな?)「てりあー、どうぞー」
「あら、ありがとう」
不思議な場所、浮かんだテーブル、そして不思議な料理方法で作られた球型のパイ。
アリエッタはそれらを全身で感じながら、遠くの『リス』を眺めて、のんびり過ごすのだった。
のんびり眺められている事など知らないシーカー達は、必死にドルナ・ノシュワールへと近づこうとしていた。
『うおおおおおお!!』
「ぷぅ」
まずは正面からと、突撃。
シーカー達の接近に気付いたドルナ・ノシュワールは、興味深そうに顔を寄せ、鳴いた。すると、泣き声と接近の影響で、衝撃が発生。シーカー達は飛ばされていった。
『わあああああ!!』
「ぷ?」
何か小さいのが飛んでいったと思ったのか、首を傾げている。大きさ的に、ちゃんと見えてはいないようだ。
空中にいるシーカー達が散らされるのを、ロンデルは冷静に見ていた。
「正面からは難しい。そもそも突然動くから、空中からの接近は難しいか? ではどうすれば……」
何をするにしても、まずは接近しなければいけない。たとえ魔法でも、離れすぎていれば命中しないのだ。しかも目標はヒゲ。遠目でかなり太いという事は分かるので、それなりの破壊力は必須である。
そこへ、飛べないシーカーが1人、ロンデルの元へとやってきた。
「副総長! あいつの身体に乗る方法があったぞ!」
「本当ですか!」
「あっちだ!」
シーカーはロンデルを連れて、その場所へと向かおうとする。しかし、
「ちょっと待ったあああ!」
「行かせるわけには参りませんわ!」
『……は?』
なんと、魅了されて動けなかったシーカー達が、ロンデル達の前に立ちはだかった。
「あんな可愛い子を襲うなんて、許せません!」
「ちょっと待ってください……」
「あの子を手懐ければ、あのアリエッタちゃんとも仲良くなれるハズ!」
「そうか、その手があったか!」
「いや無理ですから!」
可愛い生き物達に目がくらんだ女性陣が、謎の理論展開を始めてしまった。ドルナ・ノシュワールの討伐に対して徹底抗戦する構えになっている。
別に魔法的な魅了にかかっている訳ではない。完全に自分の意思で、可愛いモノを守ろうとしているのだ。
「はぁ、貴女達……」
ロンデルはため息をつき、究極の魔法を唱えた。
「減給です」
『ぎゃあああああっ!』
効果は抜群だ。立ちはだかった面々は、全員倒れ伏したのだった。
「こ、これが権力だというの?」
「こんなことって……勝てない……勝てる訳ないっ」
「おのれっ…おのれえっ!」
涙を流しながら恨みがましい目で地べたから見上げる女性陣を、恐怖と哀れみが入り混じった目で見る事しか出来ない男性陣。上司に逆らうという事は、命をかけるという事なのだ。
ここでロンデルがある提案をする。
「何も本物を狩るわけではありません。ヒゲを落とせば減給は無し。早く終わらせればボーナスを出しましょう」
『!!』
立っている男性陣を含めた全員が驚愕の顔になった。そして地べたに這いつくばっていた面々が、ゆらりと立ち上がった。
「ヒゲだけでいいのなら……」
「アタシ達にも勝機はある」
「ボーナス出たら、アリエッタちゃんに美味しいお菓子あげよう」
「副総長、指示を!」
「貴女達はそれでいいんですか……」
またもやため息が漏れるロンデル。肩のフェルトーレンも、触手を使ってやれやれ…といった感じのリアクションをしている。
そんな事をしている間にも、空中にいるシーカー達は接近をする機会を伺っている。近づいても大丈夫なのか、いきなり暴れないか、慎重に見極めようとしているのだ。
「よし、これよりドルナ・ノシュワールの身体に登る。もしもの為に地上には半数残ってください」
『了解』
命じた後、ロンデルはすぐさま近くにある大きな山に向かって駆け出した。
その山は空高くまで続いている。それもドルナ・ノシュワールの頭まで。
「ノシュワールの爪…ここまで大きくなると、山のようですね」
「実際山だ……ん?」
「なんだこれ、岩?」
司令部のある星を掴んでいるノシュワールの前足。その先端にある爪は、岩にしか見えない。それだけでは無い。
「毛かと思ったら草ですね……これは一体」
「ぷぅ」
「! 離れる前に早く乗れー!」
星を覗くように、顔を近づけるノシュワール。いつ前足を離すか分からないので、悠長に観察している暇は無いのだ。
「一気に登れ!」
前足を駆け上っていくシーカー達。それを見た空中の部隊は、なるほどと思い、その前足の近くへと飛んでいった。落ちないようにサポートするつもりのようだ。
「ぷ?」
『うわっ』
ノシュワールの前足が、星から離れた。その動きでシーカー達のバランスが崩れ、数人が転がった。それなりに高く上った為、足を踏み外せば……
「落ちっ……あ?」
落下しなかった。前足の裏側まで転がって、そのままくっついている。
シーカーの男は立ち上がり、見上げると先程までいた小さな星が浮かんでいる。
「これは……副総長!」
元の場所に戻ると、驚愕の顔をしていたロンデルが頷き、コールフォンの子機でピアーニャ達に通信をし始めた。
『はい、こちら……もぐもぐ…ごくん。えっと、ミューゼです』
「……とりあえず総長は?」
ミューゼ達はのんびりおやつタイム中だった。
そんな事よりも報告をしたいロンデルは、ピアーニャに代わるように言う。しかし、
『総長ならアリエッタに捕まってますので、テリア様でいいですか?』
「あ、はい、お願いします」
『聞こえてるよー。なーに?』
自分達が色々やっている横の星で、現状を知りながらも呑気に過ごしている声。それを聞いて、ロンデルはちょっと子機を投げたくなったが、我慢して分かった事を報告する事にした。
その間、隣の星では……ピアーニャがアリエッタと泡の投げ合いをして楽しんでいた。ピアーニャは通信が気になって仕方がなかったが、今回はアリエッタを止める者がいないという不幸に見舞われている。
「ドルナ・ノシュワールの表面は岩や草ね……」
「それってスラッタルの時みたいな?」
「ええ、樹だったでしょ? 可能性として『夢だから違うものになれた』とか『ドルネフィラーの中で変異してた』とか考えてたんだけど」
「今回は『岩になった』とか?」
「いいえ、よく考えてみて。ヨークスフィルンのスラッタルは、バルナバの実を飛ばしてたでしょ? つまり、グラウレスタの動物がヨークスフィルンのバルナバの樹になってたの。で、今回は岩や草、そして落ちない…つまり重力」
ネフテリアは、ドルナ・スラッタルを討伐した時に起こった事から、あらゆる可能性を考えていた。
ロンデルも報告を知ってはいたので、ある程度の予測は出来ていた。
『ネフテリア様、やはりこれは……』
「ええ。ドルナ・ノシュワールは星と同化して、生きて動く星になったのよ」
ドルネフィラーから独立したドルナの能力は、現実の物質との『同化』だったのだ。