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美猿王 十四歳
俺の目の前には、姿形が様々な男女六人が座っていた。
「誰だよ、其奴。牛魔王、今度はガキに目をつけたのか?」
声のした方に視線を向けると、体矢顔中に古い切り傷があるスキンヘッドの男が、俺の事を見ながら太々しい声を出す。
座っていても体だ大きい事が分かるし、俺に敵意を持ってるのも分かる。
「美猿王だよ、俺が招待したんだ。この間、話しただろ」
「あー、猿山の王様か」
スキンヘッドの男の言葉を聞き、ピクッと自分の眉毛が動いたのが分かった。
このハゲ、俺を怒らせたいようだな。
上等だ、喧嘩を売って来てんなら、高く買ってやるよ。
「あ?今、何て言ったんだ?ハゲ」
俺がそう言うと、スキンヘッドの男が持っていた酒を強く机に置いた。
ドンッ!!!
「あぁ?テメェ、誰に口聞いてんだあぁ?!」
グイッ!!!
体が大きいから俺の方に体を寄せるだけで、顔が近付いて来た。
このハゲ、考え無しに胸ぐらを掴んで来やっがたな。
近距離で俺達は睨み合っていると、牛魔王がスキンヘッドの男の顎を掴んだ。
ガシッ!!!
「俺の客だ。丁重に扱えって、言った事を忘れたのか」
そう言って、グッと顎を掴んでいる手に力を入れた。
グググッ…。
「ゔぅ…?!こ、コイツが客だって知らなかっだよ!!!悪かった、悪かったよ!!」
「最初に言ったはずだよな?もう少し、その頭を使え。何の為に、頭があると思ってんだ」
「本当に悪かったよっ、次からは気を付けるから」
「分かったなら、良いよ混世」
混世と呼ばれた男は、牛魔王の言葉を聞きながら黙って何度も頷いている。
この2人の中で、既に上下関係が成り立っていて、混世は上の立場にいる牛魔王に逆らえないらしい。
「ごめんね、美猿王。コイツ悪い奴じゃないんだけど、頭が悪くてさ」
牛魔王が俺に謝罪して来た。
むしろ謝罪と言うか、混世って男の悪口になっているが…とは言わない方が良いな。
「いや、別に」
「コイツは混世って言うんだ。皆んなも、俺のお客は丁重に扱ってくれ」
「へぇ…。その子が牛魔王のお気に入り?」
白髪の長い髪に黄色の瞳で、雪のように白い肌を見せつけるような狐露出度の高いチャイナドレス、狐耳と尻尾が生えている女が声を掛けて来た。
この女は狐の妖怪か。
「お気に入りがどうか知らねーよ。俺は呼ばれたから来ただけだし」
「若!!」
青い顔をした丁が小声で話し掛けて来た。
「何だよ」
「あの人は黄風大王ですよ!!妖怪の中でもっとも長く生きている妖ですよ」
「へぇー、アンタ長生きなんだな」
「若!!」
俺が黄風大王に向かって喋ると、丁が大声を出した。
黄風大王は俺の言葉を何一つ気にしていない様子で、笑いながら無礼を許す。
「構わぬよ、変に気を使われる方が鬱陶しいからの。美猿王の付き人も気にしなくて良い」
「わ、分かりました。」
「私は黄風じゃ。そして、此奴は私の付き人だ」
丁の言葉を聞き終えた黄風大王がそう言うと、後ろから白虎の妖怪が現れた。
「宜しく頼む」
「よ、宜しくお願いします…」
白虎に対しても、丁はガチガチの様子だった。
「美猿王。コイツは黒風だ」
牛魔王が焦げ茶色の髪は前髪が長くて、顔がよく見えない男を連れて来た。
コイツが牛魔王の仲間なのか?
他の奴等よりも弱く見えるし、明らかに戦闘向きじゃないだろう。
俺の視線に気が付いた黒風は、視線を逸らしながら自己紹介をしてきた。
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「よ、宜しく…」
「あ?なんて言ったんだ?声が小さくてよく聞こえるねぇーよ」
「ヒッ!!ご、ごめんなさい…!!」
黒風が物凄い勢いで謝って来た、別に怒った訳ではないので、少し驚いた。
「え?いや、謝らなくても…」
「ヒィ!!」
コイツ…、俺にビビり過ぎだろ。
「アハハハ!!ソイツの事気にしなくて良いよ!いつもこんなんだからさ」
アクセサリー同士がぶつがる音をさせながら、薄い青色の肌をした黒髪短髪の男が話し掛け来る。
この男は容姿だけ見たら、妖怪なんだとすぐに分かる。
「鱗青。黒風の事をあまり虐めるでない」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ。
牛魔王の仲間とやらは、姿も性格も正反対の奴等の集まりだ。
「鯰震の言う通りだ。黒風は人見知りなんだ悪いな、美猿王」
「あぁ。お前の連れは変わってる奴が多いな」
「まぁな。コイツ等は妖だからな」
「美猿王と言ったか。我は鯰震だ」
「どうも」
一応、軽く頭でも下げとくか…。
ペコッと軽く頭を下げといた。
「若…。ご立派です!!」
パチパチ!!
丁は俺の姿を見て拍手をした。
俺が常識ない奴って、思ってんなコイツ…。
大勢の前で褒める事の方が、俺の事を下げている事に丁は気付いてないんだろうんな。
そんな事を考えていると、ふいに肩を叩かれた。
「こっちに座れよ」
そう言って、牛魔王は隣の席を叩くる。
ここに座れって事か?
「あぁ、どうも」
牛魔王の隣に座るや否や、ガラスのグラスを渡して来た。
この男は俺と酒を飲んで、中を深めたいらしい。
「美猿王は酒飲めるの?」
「あー。あんまり飲んだ事ねぇな。うちの山、酒がなかったから」
「え!?じゃあ、何処で酒飲んでたの?」
俺の言葉を聞いた牛魔王は、驚きながら尋ねてくる。
「俺の山に攻め来た他所の猿から、酒とか色々ぶんどった。そん時ぐらいだな」
「アハハ!!そうかそうか!!この酒は美味いぞ」
「へぇ」
「ほら、注いでやるからグラスこっちに向けろ」
「あぁ」
俺は牛魔王の方にグラスを向けた。
トクトクトクッ。
グラスの中に透明色の酒が注ぎ込まれ、強い酒の匂いが鼻を通る。
いつも飲んでいる水っぽい酒じゃないく、ちゃんとした酒の匂いがしていた。
「改めてようこそ、美猿王。君とこして、ゆっくっり話がしたかったんだ」
「ここは、お招きありがとうって言うべきだよな?」
「堅苦しいのは良いよ。乾杯」
「乾杯」
チンッと軽く乾杯し、俺達は同時にグッと酒を喉に流し込んだ。
今まで飲んだ事がない切れのある酒の味で、酒を飲んで初めて美味いと感じる。
ただ酒の味がするだけじゃない、なんと説明したら良いか分からない。
分からないが、これは…。
「な、美味いだろ?」
俺の反応を見た牛魔王はニヤニヤしながら、嬉しそうに言葉を吐く。
馬鹿にする事なく、純粋に反応を見て安堵しているように見えた。
牛魔王は他の奴みたいに、「田舎者」と言って馬鹿にする事も貶す事もこの男はしないのだ・
「あぁ、これは美味いな!!」
「そうかそうか!!もっと飲め!!この料理は知ってるか?食べた事は?」
「素焼きか果物しか食った事しかない」
「素焼きも良いが、調理されているのも美味いんぞ。これとか食べてみろ」
牛魔王に勧められた物を口にし、牛魔王に注がれた酒だけを喉に流し、牛魔王の話だけを聞いて笑った。
花果山で過ごしていた時とは違って、戦い以外にも心が躍る事があるとは知らなかった。
混世以外は俺と牛魔王の周りに来て、一緒に馬鹿騒ぎをし、戦い以外で楽しいと思った事がなかったのに。
こんなに宴が楽しいモノだと思わなかった。
牛魔王と俺はとにかく話が合って、会話が途切れる事はなく、数時間も語り続けていた事にも気付かないで。
酒の瓶が十本目空いた時、牛魔王が赤い盃を出してくる。
顔に集まったほてりを残したまま、俺は牛魔王に盃を受け取り尋ねた。
「何だ?新しい種類の酒か?この盃に入れたら、美味くなるのか?」
「いいや、違う。なぁ、美猿王。俺と兄弟にならないか?」
「「えぇぇぇ!!?」」
混世や黄風大王、黒風大王、鱗青、鯰震、丁が大声を上げ、俺以外の奴等が椅子から転がり落ちる。
何をそんな驚いてるんだ?コイツ等。
そんな事を考えながら、俺は残っている酒を喉に流し込んだ。
「牛魔王!!本気で言ってるのか!?」
そう大きな声を出しながら、混世が牛魔王に近付き、懇願するような聞き方をする。
「そんなに驚くか?」
「当たり前だろうが!!誰とも兄弟になろうとしなかったお前が、美猿王と!?いつもみたいに、冗談を言った
だけだろ?そうだろ、牛魔王」
「お前を笑わす為の冗談を言ったつもりはないが?」
「な、なんだよ、それ」
牛魔王と話していた混世が、俺の方に顔を向けてながら叫び出す。
「コイツと血よりも深い兄弟盃を交わすのか?!俺が盃を交わしたいと言った時は、断ったのに!?コイツとは盃を交わすのか!?」
「そうだ」
「っな!?」
混世のこの慌てようは…。
牛魔王は混世には目にも留めずに、盃に注ぐ酒を選び出してしまう始末。
「丁」
「ハッ」
俺が、丁の名前を呼ぶと直ぐに俺の後ろに来た。
「兄弟盃とはそんなに凄い事か」
「はい。兄弟盃とは血よりも濃いお互いを信頼し裏切る事のない契りの事です。本来、兄弟をする事は珍しいんですよ。特に、それが妖同士なら尚更の事」
「へぇー。だから、混世が慌ててんのか」
「そのようです」
俺と丁がコソコソ話していると、再び混世が俺に罵声を浴びせて来た。
この男は相当、俺の事が気に入らないらしい。
「こんな猿と盃を交わすなんておかしいだろ!?」
「あ?テメェ、さっきから何なんだよ」
「混世。牛魔王の前で、美猿王の事を悪く言うのはやめよ」
俺と混世が言い合いをしていると、溜め息を吐きながら黄風が会話に入ってくる。
「あ?黄風は、黙ってろ」
話に入った黄風を混世が睨み付け、その様子を見てた黒風が慌て出す。
「や、やめなよ…」
「うるせぇ!!割って入って来んなよ黒風」
「黒風はだまっておれ!この男が先に喧嘩を売って来たんじゃ!!!」
黒風は止めに入っただけなのに、八つ当たりしてんじゃねぇよ。
良い加減うるせーなコイツ。
混世を黙らせようと思い、俺は苛々しながら口を開く。
「テメェ、いい加減に…」
「混世」
「「っ!!」」
牛魔王の方を見ると、黒いオーラが背中から出ているのが見えた。
こんな感覚は初めてだ。
混世も顔を青くしていた。
混世が萎縮する程のプレッシャーを牛魔王が与えているのが分かる。
牛魔王は表情には出さずに、心の中で静かに怒りの炎を湧き上がらせ、淡々と言葉を吐くだけで威圧感を出しいてた。
温厚な人程、怒らせたら怖いのは動物でも妖でも同じなのだろう。
「殺すぞ、テメェ」
「あーぁ。牛魔王の事、怒らせちゃったねぇ」
鱗青がヤレヤレと言って頭を掻きながら、苦い顔をする。
ゴンッ!!
ガシャーンッ!!!
ゆっくりと牛魔王が混世が近付き、頭を掴んだまま強く机に叩き付けた。
「ガハッ!!」
混世の口から大量の血が吐き出され、空中に血飛沫が飛び散る。
並べられていた空になっていた皿が床が落ち、気を失った混世はその場で力なく倒れた。
「アハハハ!!やるじゃん牛魔王」
「わ、若…、笑い事では…」
つい、面白くて笑ってしまった。
丁が顔を青くしながら、俺の笑いを止めようとしている。
今まで調子に乗っていた混世が、盃を交わしたかった牛魔王に叱られたのだから面白くて仕方がない。
「美猿王。こんな状態だが、どうだろうか」
牛魔王はそう言って、血塗れの手で酒を持った。
この強い男と一緒なら、つまらなかった日々が楽しくなるのかな。
正直、誰かと親しい関係を持とうと思った事がないから分からなかった。
だが、兄弟と言う言葉の意味が分からないけど、俺の心臓が高鳴ったのは確かだ。
なぜなら俺は、この男に興味を持っている。
それは、動物のように本能的に興味を惹かせたこの男の魅力に、俺が見せられたと言う訳か。
俺もそんな感情を持ち合わせていたとは、思っても見なかった。
「若…。どうなさいますか?」
心配した丁が耳打ちして来た。
丁に聞かれなくても、俺の考えはとっくに決まっていた。
血に濡れた手に持たれた酒瓶は、とても凄く、この場にいる誰よりも魅力的に思えているのだから。
この男の誘いを断る事が、俺には出来そうにない。
口には出さない思いを抱きながら、赤い盃を牛魔王の前に差し出した。
「俺はお前と兄弟になってやるよ、牛魔王。俺を楽しませてくれるのは、この先お前しかいないだろ?」
俺がそう言うと、牛魔王な大声で心底嬉しそうに笑う。
「アハハハ!!やっぱり俺の目に狂ってなかったな兄弟!安心しろ?お前を退屈させねぇよ、違う世界を見せてやる」
牛魔王が俺の盃に酒を注ぎ、俺は牛魔王の盃に酒を注いだ。
そして、牛魔王の右腕と俺の左腕を交互に組み盃に入った酒を喉に流し込んだ。
牛魔王にとっても美猿王にとっても初めて盃を交わした相手であり、血よりも濃い兄弟盃を交わしたので合った。
この事は全ての妖達に広まり、同時に花果山の美猿王と言う名も知れ渡るのに時間は掛からなかったのだ。
この世で最も最悪な兄弟が誕生した瞬間であり、この先の出来事に大きくか関わる男と出会ってしまった事を、美猿王は後悔する事になる。