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#切ない
橘靖竜
#八雲瑠月
宴が終わって四日が経った頃であった。
牛魔王は、美猿王が住処にしている水簾洞に入り浸っていた。
何故か宴が終了した後、牛魔王は美猿王ともに花果山まで着いて来たのだ。
水簾洞の中に、長老や丁達が美猿王に住みやすいように家具を起き出し、そのお陰でただの洞窟ではなくなり、快適な部屋となっている。
牛魔王も水簾洞をいたく気に入ったようすだった。
水簾洞に住み着く牛魔王を見て、美猿王は疑問に思っていた事を口にする。
「お前さ、いつまでいる訳?」
美猿王の言葉を聞いた牛魔王は、備え付けられていたソファーに寝転び、テーブルに置かれた木の実をむしゃむしゃと頬張っていた。
美猿王は真顔で牛魔王の事を見ながら、口を開く。
「へ?俺等兄弟なのにそんな事言うの?さみしーなー」
そう言って、牛魔王は眉を下げる。
美猿王は牛魔王の顔を見て、思わず眉間に皺が入り怪訝な顔を見せた。
「気持ち悪りぃぞ」
「な!?」
寝転がっていた牛魔王が、美猿王の言葉を聞いて驚きながら体を起こした。
まさか、美猿王にそんな事を言われるとは思ってなかったらしい。
「牛魔王って、案外暇なんだな」
そう言って美猿王は、皮の剥かれた桃に手を伸ばし、口に頬張る。
甘い香りと味が口の中に広がり、幸福感を得た。
牛魔王が何かを企んでる素振りも、誰かを待っている素振りもしないので、美猿王は本当に牛魔王がただ暇を潰しているのだと思っていた。
「おいおい、俺がただ暇を潰していたと思うのか?残念ながら、暇なのも今日で終わりだせ、兄弟」
「あ?」
だが、牛魔王の口から出た言葉は美猿王の予想を、意図も簡単に壊してしまう。
「そろそろ、来る頃か」
そう言って、牛魔王が立ち上がった。
美猿王は牛魔王が何を考えて、何を思ってそう言ったのか理解出来ていない。
「何が来るんだよ、ここに来るのか」
「あぁ、そうだよ。ちょっと待ってろ、来たら教えてやるから」
「…」
美猿王が不服そうしていると、どこから鴉が水簾洞の中に飛んで来たのだ。
バサバサッ!!
牛魔王が手を翳すと鴉が腕に止まり、鴉の足には文が巻かれており、牛魔王は文を開きじっくり中身を見て、暫く黙っいる。
まさか、この鴉を待っていたのか?と美猿王は不思議に思っていた。
「おい、何じっくり見てんだ?」
頬杖をつきながら、美猿王は牛魔王に尋ねると、牛魔王が美猿王の横に腰を下ろして文を見せて来る。
文に目を通すと、書かれていたのは屋敷らしき物の見取り図だった。
「何処の屋敷の見取り図だ?」
「四海竜王の屋敷の見取り図だ。案外時間が掛かったけど、これで完璧だ」
牛魔王が花果山に滞在していたのは、四海竜王の屋敷に保管されている武器庫に潜入する為、自分の屋敷からだと海が遠く、花果山から行った方が近かった為である。
「お前、暫くここに居たのは、見取り図が届くのを待っていたからか?」
美猿王が牛魔王に尋ねると、「正解」と言葉が返って来た。
その言葉を聞いて、美猿王は安堵したと同時に疑問が湧く。
「…って言うか、四海竜王って誰?」
そう言って、美猿王は質問を投げ掛ける。
「はぁ?お前そんな事も知らねーのか…。ここの猿達は一体、何を教えて来たんだよ…」
溜め息を吐きながら、牛魔王が頭を抱えた。
どうやら四海竜王は、誰でも知っている存在のようだ。
「俺に言ってくる事は、大体この山周辺の猿や妖怪の話だけだったな。俺ぐらいしかまともに戦える奴いねーし」
「成る程ねー。ここの連中は美猿王頼みって訳か、お前も大変だなぁ」
「そうなるな、面倒とも思った事がなかったけどな。それより、俺の話よりも四海竜王の話が途中だろ」
「そうだったな、簡単に説明するな」
牛魔王がゆっくりと、四海竜王について説明を始めた。
四海竜王は四海を治めるとされる四人の竜王の事だそう、牛魔王は四海竜王の宮殿にある武具を奪う事が目的のようだ。
「へぇー、四海を治める竜王ね。武具を手に入れてどうすんの」
美猿王は興味なさそうに、牛魔王に言葉を投げ掛ける。
実際に彼は武器やら財宝には興味はないが、どうやら牛魔王は違うらしく意気揚々と話をしだす。
「四海竜王の鱗で作った武器は、どんな攻撃も防ぐ武具でな。手元にあったら便利だし、俺のコレクションとして欲しい」
「ふーん、じゃあ行ってこいよ」
「あ??何言ってんだよ。お前も一緒に行くぞ、連れて行くに決まってんだろ?」
「はぁ?またかよ…」
牛魔王が美猿王の事を誘うのは、これが初めてではない。
これまでも、牛魔王はありとあらゆる悪行を美猿王とし、どこに行くのも彼を同行させていた。
宝を奪うのは勿論、土地を奪う為に人間を殺したりも一緒にしてきたのだ。
美猿王は牛魔王のやる事に口を出さないし、出す気もない。
牛魔王と共に行動する事は、美猿王にとっては楽しみの一つだったが、自分が興味のない物を取りに行くには気が引かないもの。
今回は美猿覆自身は、気乗りしていない事は牛魔王の目から見ても分かるものだった。
牛魔王は美猿王にやる気を出させる為、興味を惹きそうな言葉を吐く。
「お前も素手だけじゃ無理だろ?武具も扱えるようになった方が良いぜ?」
そう言って、牛魔王は美猿王の肩をポンポンッと叩く。
武器か…、確かにこの山を攻めて来た他所の猿達が、持って来てた事があったな…。
あの時は避けても、剣とか槍の刃が掠るから厄介だったのを美猿王は覚えていた。
確かに武器を扱えるようになったら良いよな。
美猿王は今までの戦いの光景を思い出し、牛魔王の案を飲む事にした。
「そうだなー、いつ行くんだ」
美猿王の興味を惹く事に成功した牛魔王は、嬉しそうな顔をしながら言葉を吐く。
「今日の夜中にでも行くぞ」
「行動早!!さっそく行くのかよ」
「思い立ったら即行行動だろ?ほらほら、準備するぞ」
牛魔王は行動に移すのが早い、動かない時はとことん動かない。
共に行動するようになって日が浅いが、牛魔王と言う人間性が分かってきていた。
「夜中まで時間は…あるな。よしっ、移動するぞ」
牛魔王が高級品の懐中時計を見ながら、再び立ち上がり美猿王に視線を向ける。
「何処に?」
「海の入り口」
「は、はぁ…?」
「ほらほら!!夜中までには着かないと!!」
「へーいへい」
美猿王と牛魔王は、海に向かうべく水簾洞を出た。
***
美猿王 十四歳
牛魔王に急かされながら水簾洞を出ると、牛魔王が自分の影を操り大きいバイクを作り出し始める。
牛魔王の能力は、自分の影を自由自在に操る事ができ、影を使って刀や槍、影武者や乗り物も色々作れた。
なんともまぁ、器用な奴だなと思う。
現に、俺の目の前で奇妙な乗り物を作り出しているのだから器用な物だ。
「本当、いつ見ても面白い能力だよな」
「惚れた?」
影のバイクに跨った牛魔王が、ニヤッとしながら呟いた。
「アホか」
コイツと一緒に居るようになって分かった事、子供みたいな冗談を俺にだけいう事である。
俺は牛魔王の頭を軽く叩いてから、後ろに跨ると牛魔王はまだ話を続けてきたのだ。
「惚れても良いからな」
「うるせ!さっさと行くぞ!」
「へーい」
ブンブンブン!!
牛魔王はうるさい音を立てながら、バイクを走らせた。
他愛のない話をするのも、コイツとなら悪くないそう思えるのも、俺が牛魔王に気を許してるだ。
俺自身がそう思える日が来るなんて、夢にも思ってなかった。
山道をバイクで降り暫く走らせると、周りが暗くて見えないが、どやら海に着いたらしい。
「暗くて何も見えねーな」
「そんな急ぐなよ、兄弟」
シュルルルッ!!
バイクの姿をした牛魔王の影が、ランプの形になった。
牛魔王がフゥッと、ランプに息を吹きかけると明かりが付き、暗闇だった浜辺を明るく照らす。
「本当に便利な能力だよなー」
「アハハハ!!美猿王だって身体能力があるじゃん。こっちだ」
牛魔王はそう言って、浜辺を歩き出したので、俺は牛魔王の後に付いて行くように歩く。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
砂浜を歩いていると、満月に照らされた海に海中に続く階段が海から浮き上がっていた。
まさか、自分の山の海で不思議な現象が起きるとは思ってもいなかった。
「海の中から階段が出て来た!?」
俺は思わず驚きのあまり声を出してしまう、我ながら子供っぽい。
「満月の夜にな?海中に続く階段が出て来るんだよ。満月は四日後だったから、美猿王の住処にお邪魔してた訳」
「だから四日間いたのか…」
「正解」
ますます、コイツの考えている事が読めない。
冗談は沢山言う癖に、頭の中で考えている事を言わないのが牛魔王と言う男だ。
本当に食えない野郎だが、だからこそ、この男と一緒にいるのは飽きないのだろう。
「宮殿に行くのは俺等だけか?他の六大魔王は来ないの?」
「来ないよ。お前しか誘ってねーよ」
「混世は牛魔王の事好きそうなのに誘ってないんだな」
俺の言葉を聞いた牛魔王は、苦笑いをしながら言葉を吐く。
「あー混世ね。アイツは使える時に使ってるだけだからあんまり呼ぶ事ねーな。それに美猿王の戦闘力の方が俺には必要だから」
そう言って、俺の顔を見て来る。
牛魔王の目は嘘を言っていなかった、本当に俺が必要なんだと分かる程に。
牛魔王の言葉を聞いて胸が熱くなった。
強い奴に認められたような気がして嬉しくて、それは戦っている時に味わう快感に似ていたのだ。
「たくっ、仕方ねーな!!とことん付き合ってやるよ!」
「アハハハ!!美猿王のそう言う所が好きだぜ」
「は、はぁ!?好きってなんだよバーカ」
「照れるな照れるな!!さっ行くぞー」
「ま、待てよ!!」
さっさと階段を降りて行く牛魔王の後に、慌てて付いて行った。
階段を降りると透明なトンネルが視界に広がり、鼻を摘まずに水中で息が出来るのは謎である。
「何で息が出来るんだ?水の中なのに」
「美猿王さ、この飴食っただろ?」
牛魔王がポケットから出して来たのは、透明な飴が入った袋だった。
確かに、この飴は牛魔王が水簾洞に入り浸っていた時に、何回も口に放り込まれた飴だった。
味は特にしなかった飴を何故、今出す?
「この飴を食ったから息が出来るのか?」
「この飴の原料は、鯰震の鱗から作った飴だ」
「げ、鱗の飴を食わさせたのかお前!?」
うえー、気持ち悪くなって来た…。
ん?
だから息が出来るのか?
何で?
「何でって思ってるだろ、簡単な事さ。鯰震は水の妖怪だからな。水の妖怪の鱗を食べれば一時的にその能力を使えるんだよ。だから美猿王にも食べさせたそれだけだ」
牛魔王は、俺に対して博識なみな言葉をつらつらと並べる。
「何でも知ってんな」
「知識は大事だぜ?色々知っていた方が役に立つ事が沢山ある。これから美猿王が知らない事教えてやるよ」
「それはどうも」
そんな事を話しながら、透明なトンネルの中を歩いた。
透明なトンネルの中に魚は入って来れないみたいで、外で魚が沢山泳いでいる。
大きな鯨も鮫も、クラゲや亀、様々な種類の魚達が夜の海中を満足そうに泳ぎ、海の中は神秘的で、夢物語の中にでもいるようだ。
普段は目にしない美しい景色が、トンネルの外に広がり、暗い水中の道を歩いていると、目の前から煌煌びやかな宮殿が現れた。
「うっわー、眩しい」
目を細めながら、宮殿を見つめる。
海中にあんなキラキラしたものが立っていたとは…、思ってもみなかった。
「あれが、四海竜王の宮殿だ」
「牛魔王が狙ってる例の武器があるんだな」
「あぁ、武器さえ手に入れば長居はしないつもりだ。宝物は腐る程、俺の家にあるしな」
「無駄にあるよな」
そう言いながら宮殿の周りに視線を向けると、色鮮やかな珊瑚が沢山立ってる中で宮殿の門前に、武装した兵が何人か見えた。
この宮殿の門番と言ったところだろう。
「何人か、兵がいるみたいだな」
「ここからは、慎重に行くぞ。なるべく気配を消してだ」
牛魔王の目がスッと変わり、宮殿の間取り図を見つめる姿を見て感心してしまう。
相変わらず、切り替えが早いよな…。
「あんまり騒動を起こしたくないから、裏から入るぞ」
「了解」
「行くぜ、兄弟」
そう言って、牛魔王が俺の前に拳を出して来た。
「ヘマすんなよ?兄弟」
俺達が何かやる前に必ずやる儀式みたいなもの、二人で何かする時は必ずするものだ。
友情を確かめる為にやるのか、絆を深める為にするものか、何かを確かめ合う為にしてるのか、牛魔王に真意を聞いた訳じゃないから分からない。
だが、牛魔王がこの儀式をするのが好きなのは分かってる。
分かってるからこそ、俺は何も聞かずに拳を差し出す。
コツンッ。
俺達は軽く拳同士をぶつけて、兵に見つからないように裏側に回った。
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