部屋の窓が明るくオレンジ色に染まり、反対側の窓は青くて、別世界の狭間にいるような気分で椅子に座って物思いにふける。
この世界には不思議だったり神秘的な光景を目にする機会が多くあると思う。
例えば海は青くて綺麗だけど、掬ってみれば透明で色なんてついていないし。
大きめの公園の木々からなる木漏れ日が形になって、一つの作品になったり……
透明で騒がしい水が空から落ちてきたと思ったら、色とりどりの薄く紆曲する虹が出てきたり、幸せの象徴みたいに子供たちが探して緑の中にかくれんぼしている四つ葉等……
こんなに不思議な世界なのに誰も疑問を持たないし、他人が言う言葉を信じて何も疑わない。世界はとても脆くて残酷だから信じるものと信じないものを見極めないといけない。
でも時々疲れてしまう。沢山の情報が脳を駆け巡って、あれも違うこれも違うと掘り返している。
一つ見つければもう一方を捨てて、いつの間にか記憶の隅っこで眠ってしまう。だけどふと思い出す時がある。機嫌が良いのか淋しくて会いに来たのか……テクテクと歩いて持ってる情報を渡してくれる。
可愛がるのも良いけれどすぐにまた消えてしまうかもしれないものを、手に持ったまま新しいものを持つのは難しくて、手の端からこぼれ落ちてしまう。
椅子から立ち上がってベッドに寝っ転がると、いつものように爽やかな声で笑いかける彼の後ろ姿を思い出す。
「……好き」
ふとそんなことを思って声に出してしまう。
「…は?や、何いまの……俺……好き?誰が?………………っ、いやいやいや!!」
頭をブンブン振って何故か言い訳するように話を進める。
「そもそも……アイツとは出会って間もないし!しかも男だし!……欲求不満なんか?」
あまりにも嫌な予感がして、居ても立っても居られなくなり俺は外に飛び出した。
外は電車の音、子供の話す声に車の走る音そして俺の走っている足音……色んな音が俺を追いかけて追い越して不安な気持ちなんか無くなってしまう気がした。
子供たちが随分少なくなった公園を歩いて、新しい発見をする。これは俺の趣味でもあって、不安に押し潰されそうな時によく気を紛らわす為にやっている。
「……ふーっ」
公園の隅っこでいつだかの記憶のように、折れた木の棒で地面にモヤモヤしたものを描く。……ようやく深呼吸してクリアになった頭で考える。
「……俺、好きだったんかな」
「……あぁ”~もぉ!……マジで何なんだよ…」
水飲み場の冷たい水を喉に通して、濡れた口の周りを拭った。
「……よし、今日はどこに行こっかな~」
気分転換に公園から裏道を通って、暗くなり始めた道の小石をなるべく遠くに案内して、海の近くにやって来た。
「……ふぅ、やっぱ結構涼しいじゃん」
風が突き抜けて髪や服を靡かせる。目を閉じてじっと自分の五感で風を感じて息をする。
『なーにしてんの?』
「……多分……お前に会いに来たのかも」
『誘ってる?』
「……キモ」
俺を見つけて追い掛けてきた俺の親友……密かに想いを寄せているであろう人物が声をかけてきて、ようやく自分の行動に納得がいった。
何故か自由に探索するつもりだったのに、いつもの海にいつもの岩の上に座って、無意識に彼を待っていた。
「……なんかさぁ……俺、キモいんだわ」
『んー?何が?』
「引かれたくないなぁ……っんとに」
顔を覆って小さい声で本音を言う。多分海の波の音で聞こえないけど、こういう時に言ってしまわないときっと我慢出来なくなるから。
『……じゃあさ』
「、?」
彼はいつもより近くてパーソナルスペースを保ってくれない。不思議と嫌ではなかったけど……こんなのは全部幻覚みたいなものだと自分を無理やり洗脳した。
『俺んち……来ない?』
「…ん、」
性格はおかしいけど優しくて、声も爽やかで心地良い友達を持ってるのに……彼の友達の俺はこんなに気持ち悪いんだと、自分を非難しながら、 昔の恋人のお前は最低だというセリフに得心がいった。
「こんなこと考えるなんてさ…最低だよな……変んねぇな……俺は」
彼の部屋に入ってすぐに本棚に入っている漫画を手に取り、表紙を確認してページを捲る。
「……お前さ、ちょっと怖いよ?」
『何で?』
彼は首筋にキスをしそうな距離で抱きしめながら見つめている。それは怖くないんだけど……瞬きすらせずに見つめてるのは若干恐怖を煽られる。
「近い……密」
『ん?蜂蜜?』
「……うざ」
俺は本当にコイツが好きなんだろうか……確かに俺は女が好きな筈だ。
何とか答えを知りたくなって、意識とは別に口を開いていた。
「……好きな人がいるんだ」
『…………誰?』
「いや、言わないけど……それが」
彼はじっと俺を見つめる。何か言いたげだけど、何も言わないでただ黙ってる。
「……ぉ、男なんだ 」
『へー、で?』
「どうしたら良いか……分かんないんだよ」
『告れば?……好きなんだろ?』
冷たい反応が返ってきて我に帰る。友達が男が好きなんて聞いたら気持ち悪い以前に、どうしたら良いか分かんねぇよな……
「……うん。」
俺は彼に何も言えずそのまま時間が経って家に帰った。
……次の日に彼は自殺した。
何でそんなことになったのか分からないし、あまりにも急なことで昨日会ったばっかりなのに、自分はこんなにも役に立たない奴だとは思わなかった。
「……何で……バカ」 ポロポロ……
別世界に行ってしまった彼の声が聞こえたような気がした。何を言ってるのか分からないけど、きっと励ましてくれてるんだろな。
『お前が好きだから……こうしたらお前の好きな奴よりお前の記憶に残るだろ?』
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