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晴れていれば、何も無ければ恐らくとても仲の良い間柄なのに、大好きなのに。雨が2人の違いを映し出しているようで、切なくも綺麗でした。 最後の優ちゃんの赤い手は、優ちゃんの柄を持つ手が感情を乗せたものなか、美咲ちゃんの想いが強かったからなのか、どちらとも取れるなと私は思いました。素敵です。
「雨は汚いから食べちゃだめだよ。」
優君が、私に言う。
優君は、優ちゃんと呼ばれるのが好きだ。
6月の大雨に穿かれて、白い制服から下着が透けてしまっても、優ちゃんの前なら何も怖くない。
優ちゃんの瞳は真っ直ぐに私の横顔だけを捉えている。
山も川も、空も全てが遠い。
雲の顔をした暗闇が、重く深く太陽を隠している。
優ちゃんの真っ黒なスラックスも、雨の重さで細い脚にへばりついている。
「優ちゃんも、一回やってみなよ。
別に口、開けなくてもいいから」
顔を上に向けて、雨をうける。
真っ直ぐに伸びた田んぼ道は、私たちを別の世界に匿ってくれるようだ。
「美咲ちゃんは、どうしていつもそんな変なことばっかりするの?」
心配そうに傘に私を半分入れた。
そんな優ちゃんのことを突き飛ばしそうになる。
優ちゃんはいつも本当のことを隠している癖に。
苛立ちが止まらずに、睨み付けた。
優ちゃんは、悲しそうな瞳でじっと私を見つめる。
「ねえ、誰が変って?ヘンって誰が決めるの?」
ぎゅっと傘を持つ優ちゃんの手を握りしめた。
乾いた手は、柔らかいような、硬いような、でも私の方が強い。
「私は好きなようにするよ。」
優ちゃんの瞳から悲しみが伝わってくる。
それでも、私は優ちゃんのことを傷付けて、離れられなくて、守ってあげられなくて。
いつの間にか、あんなに酷かった雨が小降りになっている。
雲に包まれた柔らかな光を放つ太陽は、まるで優ちゃんみたいで大好きだ。
せめて、柔らかい雲になりたい。
どっちでもない、私たちが生きられるように。
躊躇って、あともう一歩踏み出そうとした私は、握った優ちゃんの白い手が赤くなっていることに気付いて、やめた。