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赤×水
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『Mob女子視点』『』はMob女子の。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『 何をしても届かなかった、ずっと。 』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その日も彼は居た。
 
 
 
 
 
 
 白いTシャツに、水色のジャージ。
 
 
 
 
 
 
 ジャージのチャックを程よく開け、
 
 
 
 
 
 
 いつも通りの腕捲り。
 
 
 
 
 
 
 専属トレーナーの指導を受けながら、
 
 
 
 
 
 
 一生懸命トレーニングしている。
 
 
 
 
 
 
 私はいつも通り、
 
 
 
 
 
 
 ジムのマシンで淡々と汗を流しながら、
 
 
 
 
 
 
 チラチラと彼を見ていた。
 
 
 
 
 
 
 『今日も水君…かわい ~ ~ っっ………』
 
 
 
 
 
 
 水君がジムに通い始めて早3ヶ月。
 
 
 
 
 
 
 私は、通い始めて1ヶ月過ぎた辺りからずっと水君を見ている。
 
 
 
 
 
 
 最初はただの可愛い男の子だと思っていたけど、
 
 
 
 
 
 
 彼の笑顔に、仕草に、
 
 
 
 
 
 
 いつの間にか目が離せなくなっていた。
 
 
 
 
 
 
 赤「はい、水。あと3回。もう少し腰落として」
 
 
 
 
 
 
 彼は水君の専属トレーナーで名は大神赤。
 
 
 
 
 
 
 他のトレーナーさんみたいに、めちゃめちゃマッチョな訳ではない。
 
 
 
 
 
 
 世間で言う”細マッチョ”的な。
 
 
 
 
 
 
 腕の血管は物凄く浮き出てるし、
 
 
 
 
 
 
 Tシャツが捲れて見えた時、
 
 
 
 
 
 
 腹筋がえぐいくらい綺麗に割れてたのを覚えてる。
 
 
 
 
 
 
 赤「よく頑張ったね、水。偉いよ、本当に」
 
 
 
 
 
 
 水「ん…んへへ……、頑張ってよかったぁ…♪」
 
 
 
 
 
 
 赤君に褒められる度、
 
 
 
 
 
 
 嬉しそうに微笑むその顔がわんこみたいで、
 
 
 
 
 
 
 堪らなく愛おしかった。
 
 
 
 
 
 
 『でも…最近なんだか__……』
 
 
 
 
 
 
 彼らの距離が近い。
 
 
 
 
 
 
 まるで友達以上というか…、恋人のような……。
 
 
 
 
 
 
 水君が倒れそうになると、赤君はすぐに支えに入る。
 
 
 
 
 
 
 腰に手を添えて、耳元で何かを囁いているようだった。
 
 
 
 
 
 
 赤「……気を付けて、ここ段差あるから」
 
 
 
 
 
 
 水「ぁッ……うんッ…‼︎ありがとッ‼︎」
 
 
 
 
 
 
 その会話に、私の心は何処かがチクっと痛んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その日のトレーニングを終え、私はジムを出た。
 
 
 
 
 
 
 けれど….…
 
 
 
 
 
 
 『あっ、カゴの中に……スマホ忘れた……』
 
 
 
 
 
 
 慌てて引き返し、裏口からこっそりと中へ入る。
 
 
 
 
 
 
 受付に向かう途中、事務所から人の気配がした。
 
 
 
 
 
 
 水「……ねッ、赤君…、ここじゃだめだよ…ッ」
 
 
 
 
 
 
 赤「し ~ っ……だめじゃないよ、水。俺以外に、こんな顔見せないでねッッ……」
 
 
 
 
 
 
 思わず立ち止まった。
 
 
 
 
 
 
 声の方は、薄暗い事務所の奥。
 
 
 
 
 
 
 半開きの扉の隙間から、
 
 
 
 
 
 
 私は見てしまった。
 
 
 
 
 
 
 赤君が、水君の腰を抱えている。
 
 
 
 
 
 
 水君は壁に背を預け、顔を真っ赤にして震えていた。
 
 
 
 
 
 
 シャツは少し乱れ、肌が露出している。
 
 
 
 
 
 
 水「ッ、赤君、ん……も…そんなの……、」
 
 
 
 
 
 
 赤「ほら、こっち見て、水。……可愛い、本当、好き」
 
 
 
 
 
 
 赤君が優しく水君の頬を撫でる。
 
 
 
 
 
 
 その手つきが、声が、まるで宝物を扱うようだった。
 
 
 
 
 
 
 私が1度も見たことのない、水君の顔。
 
 
 
 
 
 
 蕩けそうな瞳で、
 
 
 
 
 
 
 恋人だけに見せる無防備な表情だった。
 
 
 
 
 
 
 赤「…俺、水の全部を独り占めしたい。……もっと触れたい、だめ…?」
 
 
 
 
 
 
 水「ん、ん ~ ん……だめじゃない………」
 
 
 
 
 
 
 水君の返事があまりに柔らかくて、優しくて、
 
 
 
 
 
 
 私の胸にズシンと何かが落ちた。
 
 
 
 
 
 
 『……そっか……、もう、届かないんだ……』
 
 
 
 
 
 
 誰よりも近くで彼を見ていたのは私じゃない。
 
 
 
 
 
 
 彼を見つめていたのは、トレーナーの赤君で。
 
 
 
 
 
 
 彼の心に触れていたのも、赤君だった。
 
 
 
 
 
 
 薄闇の向こう。
 
 
 
 
 
 
 静かなジムに響く、ほんのり熱を孕んだ声に、
 
 
 
 
 
 
 私は耳を傾ける。
 
 
 
 
 
 
 『辛いなら見なくていい』私もそう思った。
多分………嘘だと思ってしまう”私自身”に、
区切りを付けたいんだよね。
“想いの人にはまた別の大事な人がいる”
って、私自身に教え込む為に。
“私は只、恋愛物語の登場人物になれなかっただけ”
そう思える様に。
 
 
 
 
 
 
 水「……赤君…首元、くすぐったいッ……」
 
 
 
 
 
 
 水「ん……っ、」
 
 
 
 
 
 
 赤「……っ、声我慢して……ばれちゃうよ?」
 
 
 
 
 
 
 赤「キスの跡……、隠せないくらいにしてもいいッ、?」
 
 
 
 
 
 
 水「だ、だめだよ……ッ、明日もトレーニングあるしっ……」
 
 
 
 
 
 
 赤「じゃあ……見えないとこ」
 
 
 
 
 
 
 赤「ちゃんと、俺の恋人って分かるようにしたいっ………」
 
 
 
 
 
 
 水「んッ、……見えないとこならい ~ よ……?」
 
 
 
 
 
 
 くぐもった吐息と、優しい口調。
 
 
 
 
 
 
 けれどその中には、確かな独占欲が滲んでいた。
 
 
 
 
 
 
 私は目を見開きながら、”ふたり”の姿を見る。
 
 
 
 
 
 
 水君のシャツのボタンは外され、
 
 
 
 
 
 
 赤くなった首筋に、赤君の唇が触れる。
 
 
 
 
 
 
 赤「……かわいいね……本当かわいい…」
 
 
 
 
 
 
 赤「……他の子にあんまり優しくしちゃだめだよ」
 
 
 
 
 
 
 赤君が低い声で囁く。
 
 
 
 
 
 
 その声音は、
 
 
 
 
 
 
 ジムで聞くどれよりも優しくて、
 
 
 
 
 
 
 でも何処か支配的で甘くて……
 
 
 
 
 
 
 まさに”恋人”だけに向けるような声音。
 
 
 
 
 
 
 水「でも……〇〇ちゃん、困ってたから……」
 
 
 
 
 
 
 水君の細い声。
 
 
 
 
 
 
 聞いた事のないくらい愛しげで、
 
 
 
 
 
 
 その全てが”恋人”に向けられていた。
 
 
 
 
 
 
 赤「水は俺だけ見とけばい ~ の」
 
 
 
 
 
 水君の頬を片手で包むように撫で、
 
 
 
 
 
 
 もう片方の腕でしっかりと腰を抱いている。
 
 
 
 
 
 
 赤君が水君に唇を重ねる度甘く漏れる声。
 
 
 
 
 
 
 まるで、全てを預けるような声音。
 
 
 
 
 
 
 ___そうか。
 
 
 
 
 
 
 私がずっと憧れていた水君の笑顔は。
 
 
 
 
 
 
 優しさは。
 
 
 
 
 
 
 柔らかい声は。
 
 
 
 
 
 
 私に……、皆に向けられているものじゃない。
 
 
 
 
 
 
 水君が世界1大切にしている、赤君に向けられていたんだね。
 
 
 
 
 
 
 失恋したのは本当にショックだった。
 
 
 
 
 
 
 けど、不思議と涙は出ない。
 
 
 
 
 
 
 あの水君の顔を見たら。
 
 
 
 
 
 
 あの、赤君の愛しげな視線を見たら。
 
 
 
 
 
 
 __敵わないな、って思ったから。
 
 
 
 
 
 
 私はそっと踵を返す。
 
 
 
 
 
 
 スマホはまた明日取りにこよう。
 
 
 
 
 
 
 これ以上、見ては2人に悪いと思う。
 
 
 
 
 
 
 でも、背中に残った赤君の声は、
 
 
 
 
 
 
 ずっと耳から離れない。
 
 
 
 
 
 
 赤「……水が欲しいのは、俺だけでい ~ の。分かった?」
 
 
 
 
 
 
 水「ん……ッ、赤くん……すき……」
 
 
 
 
 
 
 その言葉が、本物の愛に聞こえた。
 
 
 
 
 
 
 聞こえたって言うか………、
 
 
 
 
 
 
 本物の愛なんだろうなぁ…。
 
 
 
 
 
 
 一筋の涙が頬を伝う。
 
 
 
 
 
 
 初めて、恋が終わった音を聞いた。