この作品はいかがでしたか?
603
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今日も いつも通り 溶けるような暑さだ 。
なんとなく 駆け足で 向かった 美術室の 戸を開き 、
「 文 、 やっほ 」
『 … あ 、 葉月 。 やっほ 』
美術室の幽霊に 声をかける 、 最近の変な日課 。
母親からは 頑張り屋さんね〜 なんて 言われている ここ最近の美術室通い 。
別に勉強しているわけではなく 、 ただ談笑しながら絵を描いているだけなのだが
“学校に行く”という行動自体が 、 褒められたものであるということであろう 。
「 ーーーーーーーー 」
『 ーーー? ーーーーーー 』
「 ーーーーー!? 」
『 笑笑 、 ーーーーーー 』
「 ーーーーーーーー… 」
いつも通りの くだらない会話 。
そんな会話が 、 なぜか心地よかった 。
しばらくすると 、 文が 立ち上がり 、 美術室の窓枠に手をかける 。
「 ちょっと 文 、 動かないでよ 」
『 … 』
彼は無言のまま 、 遠い空を見ていた 。
『 … ねぇ 、 葉月 』
「 … 何 ? 」
『 俺の話 、 聞いてくれる ? 』
文は 視線を動かさないまま 、 私に問いかけてきた 。
「 … どしたの 」
『 … あのね 』
俺は 、 昔から絵がうまかったんだ 。
両親が 絵に通ずる仕事をしていたのも合って 、 絵を見て、描いて育ってきた 。
俺は 、 小学校で いろんなコンクールに応募して 、 いろんな賞をもらった 。
嬉しかったよ 、 自分の絵が評価されるのはさ 。
… でも 、 同時に妬まれるようにもなって 。
中学に上がった瞬間 、 俺は 酷いいじめを受けたんだ 。
先生は知らなかった 。 こっそり 、 放課後にやられてたから 。
そんな時に 、 声をかけてくれたのが 、 葉月 だったんだよ 。
俺は嬉しかったよ 。 でも 同時に 、 絶望した 。
人生で 初めて 「 好きな人 」 が できて 。
その好きな人を 巻き込みたくなかったんだ 。
だから俺は …
あの日 。 去年の9月1日に 、
この 美術室の窓から 、 飛び降りたんだ 。
文の 話は 衝撃的な ものだった 。
私と 文が 会っていた、というところにも 驚いたが 、 それ以前に
「 いじめ… ? 」
文の 死因が 、 自殺ではないかと前から思っていた 。
だけど 、 その理由が いじめだなんて 。
ましてや 、 私の学年で、そんなことがあったなんて 。
『 … ねぇ 、 葉月 。 驚いたでしょ ? 』
そう言うと 文は ようやく振り返った 。
窓の外から点す 日差しの逆光を浴び 、 そよ風に揺れるカーテンは
彼の魅力を 一層際立てていた 。
『 あの時は 俺 、 黒髪に黒目だったしね 。 死んで変わっちゃったんだ 。 』
『 嬉しかったよ 、 葉月がハンカチをくれたあの日 』
『 俺 … 綾瀬 文 に 優しくしてくれたあの日 。 』
そこでようやく気づいたのだ 。
去年九月 。 うちで 飛び降り自殺が起きて 、 「 綾瀬 文 」 という 子が亡くなった事 。
そして ……
うちでは 、 黙想も何も行わなかった事 。
「 … だから 、成仏… できてないの ? 」
そう言うと 、 やっと気づいてくれたのか 、と言う表情をして
彼は にこりと 目を細めて笑った 。
『 ねぇ 葉月 。 好きだよ 』
『 死ぬ前も 、 死んだ後も 』
そう言うと 彼は 、 私の手を引き ___
透き通った 、 少しだけしか触れられないその唇に
私の唇を 押し当てた 。
コメント
12件
最高すぎて感動しました… 悲しすぎる😭😭😭
ほんともう…綺麗で繊細✨️✨️ 非日常的だけど、意外と日常感あるの最高
今回もめちゃくちゃ良かったぜ!!!! そう!学校に行く事は偉いんだから!!! (↑???) まぁ!!同い年だったんだね!!! 妬み。それは先輩からじゃないの? 聞いてくれよ葉月〜!! 妬みと言ったら先輩or後輩だよ! まぁ、同い年もあるんだけど☆(おい) でも青春だな。最高!!!(おい) 次回も楽しみに待ってるぜ!!!!