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普段の俺ならどんな行動に出るか――頭の中は半分そういうことを考えながら社長に会い、祥子に会い、剣に会っている。
その後、一旦家に帰ってから大栄のみんなが開いてくれる送別会へ向かう。会場は神戸駅付近の居酒屋。飲んだら律の所へ行けないから、絶対に飲まないように気を付けるだけ。様々なパターンが既に脳内には用意されていて、大抵の事なら対応ができるようにしている。
「そっか。じゃあ、暫く博人には会えなくなりそうだね」
「もう俺に会わなくていいからせいせいするだろ」
「そんなことないよ。淋しくなるなって思っただけ。まあ…白状すると、事件当初は博人と会うのが辛かった。君はなにも悪くないのに、俺のせいで迷惑かけちゃって、どんな顔をして会っていいのかわからなくて…ずっと謝りたくてもできなくて、そのうち謝るタイミングを失くしちゃって…でも、いつの頃からか、君に会えるのが俺の中ですごく楽しみになってた。でも、いい加減この歪な関係を終わらせなきゃって思った」
「剣…」
「ずっと、俺のことを気にしてくれてありがとう。でも、これからはもう俺のことは気にしないで。義務に感じて会いに来なくてもいいから」
「別に友達なんだから、好きな時に会えばいいだろ」
「博人…まだ、俺のこと友達だって思ってくれるの? あんなひどいことしたのに…」
「俺はお前しか友達おらんから」
そう言うと剣は嬉しそうに笑った。
「笑うなよ。剣も俺しか友達おらんやろ」
「そうだね」
「淋しい男ふたり同士、これからも仲良くやろう」
「…ありがとう」
俺の中で止まっていた世界が動き出した。六年という歳月は、実に様々な思考や状況を変えてくれた。律に出会ったのが一番大きいが、それでも、耐え忍んできた年月が報われた。
「ねえ、博人。今度……森重さんに会いに行かない?」
「急にどうした」
「森重さん、神戸でまだライブハウスやっているみたいだよ」
「知ってる。このご時世なのによく続けられるって思ったけど。前に、インディーズ時代のサファイアのライブをそこで見てきた。やっぱり音響の腕、すごい。あの人の音で一回演奏したかったなって思った」
「そうなの? 森重さん、元気にしてた?」
「いや、会えなかった。でも、アウトラインに送ったRBのポスター、大事に保管してくれてた。モリテンから譲ってもらったっていうそのポスター、知人が大事にしてるってさ」
「そうなんだ…! それは嬉しいね」
「うん。嬉しかった。モリテンは俺たちのこと忘れたりしてなかったんやなって、改めて思えた」
「ライブハウスに行けたのなら…博人はまた歌おうと思えたの?」
「わからん。一回ステージ去ったし、どこまで歌えるかも見当つかないし。剣こそ舞台でギター弾かへんの?」
剣は俺の言葉にゆるっと笑った。ゆっくりと首を振り、もう弾かない、と言った。
「俺は向いてないよ。RBやってても限界感じていたし、優等生ギターからは脱却できなかった。俺にはギターの才能がないからね」
当時プロデューサーに言われたこと、ずっと気にしていたんやな。まあそれについては俺も同意見やったけど。
「第一線で活躍してたのによく言う。RBのギターは剣じゃないと務まらんやろ」
「慰めはいいよ。博人の曲とアレンジがあったから、君が歌を歌っていたから成り立っていたんだ。俺じゃなくてもRBは売れた」
彼にまっすぐ見つめられた。