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「まあ、ギターの腕だけあれば全員プロになれるかって言われると、そうじゃない。ビジュアルも立派な才能のひとつや。剣の線の細い王子みたいな姿は、アイドルよりも綺麗やし女性が夢中になったのが何よりの証拠やろ。RBは剣が一番人気あったと思うけど」
「そうかな」
「…みんな人気あったから、売れた。全員揃ってなきゃダメだった」
自分で言っていて気が付いた。俺の曲やアレンジがあってこそのRBだったかもしれないが、RBはあの五人で形成されていたから、あの五人のビジュアルがあり、俺たちが奏でた音だから売れたのだ。誰一人欠けてもだめだった。
それ思った時、俺はどこまでも高慢だったことに気が付いた。俺一人が頑張っていてしんどいと思っていたけれど、それは大きな勘違いだった。彼らがいたからこそ俺も輝けた。俺の音を、意思を、みんなが尊重してくれていたからできたこと。辛い時はみんなが俺を支えてくれていたのに、それに気が付かずに――
あの時、自分自身を曇らせてRBを潰したのは、結局未熟な己のせい。それに今、気がついた。
「いつかまた、RBやりたいね」剣の言葉に顔を上げた。
「…そうだな」
そんな日を夢見るのも悪くないな。多分一生ないだろうけれど、夢を見るくらいはできる。【いつかまた】を想像して楽しむことは赦される。
「ねえ博人、また歌ってよ」
「だから歌は…」
「今度は、自分のために」
「えっ…?」
剣の真剣な眼差しに俺は言葉を失くした。自分のために歌う…?
考えたこともなかった。
「確かに今までは、博人が生きるために必死で歌ってきたかもしれない。でも、そこには観客がいて、ファンがいて、俺たちメンバーがいて、事務所とか、いろんなしがらみがあって、君は自由に歌えなかったと思う」
「今日はやけによく喋るな」
剣は俺の一番核心に触れようと踏み込んでくるつもりなのか。
「うん…。どうしても言っておかなきゃいけない気がして。俺は昔から博人がピアノを弾いて楽しそうに歌っているところを見るのが好きだったな、って最近特に思うんだ。だから、今日君に会えたら、もう一度歌って欲しいって伝えるつもりだった」
「そうか」
「歌ってよ。俺、博人の歌、もう一度聴きたい」
「気が向いたらな」
「うん。待つよ。ゆっくり、ここで。ずっと待っているから」
俺はどんなふうに答えていいのかわからなくて黙っていた。
「もしいつかが叶うなら、俺のギターで歌って欲しい。RBは無理でも、ふたりでこっそりライブをやろう。それまでには腕を上げておくから。アコギ練習しておくよ」
「…観客から自信もって代金もらえるくらいの腕に戻ったら…やってもいいけど」
「ほんと? 約束だよ」
剣が笑った。「長い間、お喋りで引き留めてごめん。…体には気を付けてね」
彼は俺が遠くへ行くことに気が付いているのかもしれない。
それでも、この舞台を降りるわけにはいかない。
もう始まっている。全てが今夜にかかっている。
「ありがとう。剣も元気でな」
俺は大切な友人を失くしても、なにを手放しても、どんなことをしても、手に入れたいものを見つけてしまったから。
ただ、そこへ向かって走っていくだけ。