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再会した幼馴染は、恋を知らない
ドラマ終了後
CanCam 表紙&巻頭特集撮影
都内スタジオ。
〇〇side
〇〇「おはよ」
北斗「おはよ」
ドラマが終わってから初めての本格ペア仕事。
でも空気は変わらない。
仲間。
ただのバディ。
編集スタッフ「今日は“恋の温度そのまま再現”がテーマです!」
〇〇「再現?」
スタッフ「壁ドン・お姫様抱っこ・キス寸前までいきます!」
〇〇「フルコースじゃん」
北斗「……」
最初は立ちショット。
カメラマン「肩寄せでお願いします!」
〇〇「はい」
自然に半歩近づく。
腕が触れる。
〇〇「北斗、緊張してる?」
北斗「してない」
〇〇「顔固いよ」
北斗「元から」
シャッター音。
カメラマン「いいですね!次、壁ドンいきましょう!」
スタジオが少しざわつく。
〇〇「久しぶりだね」
北斗「……ああ」
壁際に立つ。
北斗が一歩踏み込む。
ドン。
腕が壁につく。
距離、ゼロ。
〇〇は見上げる。
あ、こんな近かったっけ。
〇〇「ドラマのときより静かだね」
北斗「そうか」
〇〇「演技のとき、もっと怖かった」
北斗「……役だからな」
カメラマン「最高!そのまま視線絡ませて!」
北斗の目が真っ直ぐ向く。
その目。
ドラマの屋上と、少し似てる。
でも私は思う。
役に入り込むタイプなんだよな、北斗。
それだけ。
次。
カメラマン「お姫様抱っこお願いします!」
〇〇「スタジオで?」
北斗「いくぞ」
軽く持ち上げられる。
〇〇「軽い?」
北斗「軽い」
即答。
〇〇「それ前も言ってた」
北斗「本当だからな」
私は笑う。
あくまで撮影。
あくまで誌面。
次。
カメラマン「ソファで寄り添いカット!」
〇〇が隣に座る。
自然と肩が触れる。
〇〇「北斗さ」
北斗「ん?」
〇〇「屋上の告白、すごかったよね」
北斗の指が少し止まる。
北斗「……そう?」
〇〇「うん。完全に入り込んでた」
私は本気でそう思ってる。
名演技。
感情の乗せ方がうまい。
それだけ。
北斗は何も言わない。
次。
カメラマン「キス寸前いきます!実際のキスはなしで止めます!」
距離がゆっくり縮まる。
鼻先が触れそう。
〇〇は目を閉じる。
心臓は、落ち着いてる。
ドラマのときのほうが緊張した。
今は平気。
仲間だから。
カメラマン「止め!最高!」
撮影終了。
編集長「今回、確実に売れます」
〇〇、スマホを見る。
〇〇「もうトレンド入ってる」
北斗「早いな」
〇〇「#CanCam表紙」
〇〇「#〇〇北斗」
〇〇「#壁ドン」
〇〇「#お姫様抱っこ」
〇〇「#キス寸前」
〇〇「#距離近すぎ」
ポストが流れる。
・壁ドンやばい
・北斗の目本気すぎ
・〇〇気づいてないよね?
・いや演技でしょ
・ダブル主演強すぎ
〇〇、笑う。
〇〇「北斗またガチ恋って言われてる」
北斗「……演技だろ」
〇〇「だよね」
迷いなく言う。
本当に、そう思ってる。
私も。
ファンも。
知らない。
壁ドンの距離で北斗の鼓動が速かったことも。
お姫様抱っこのとき、落とさないようにじゃなくて、離したくなくて腕に力が入っていたことも。
キス寸前で、本当に触れそうになった気持ちも。
〇〇「また何か一緒にできたらいいね」
北斗、一瞬止まる。
北斗「……ああ」
その「ああ」に混ざった本音を、
〇〇は知らない。
仲間。
それだけだと思ってる。
北斗の恋は、まだ届かないまま
ーーーーーーーーーー
北斗side
スタジオに入ると、もう〇〇がいた。
白のワンピース。
ドラマの雰囲気を残したままの衣装。
〇〇「おはよ」
北斗「おはよ」
いつも通りの距離。
いつも通りの声。
でも俺だけが、少し違う。
編集スタッフ「今日はドラマの名シーン再現もやります!」
北斗「……名シーン」
〇〇「壁ドンとか?」
スタッフ「そうです!」
〇〇「フルコースじゃん」
笑う。
その笑顔に、余計心臓がうるさくなる。
カメラマン「まずは肩寄せで!」
〇〇が自然に半歩寄る。
腕が触れる。
柔らかい。
近い。
〇〇「北斗、緊張してる?」
北斗「してない」
嘘。
〇〇「顔固いよ?」
北斗「元から」
シャッター音が響く。
カメラマン「いいですね!次、壁ドン!」
壁際に立つ〇〇。
俺が一歩踏み込む。
ドン。
手が壁につく。
距離、数センチ。
〇〇を見下ろす。
あの日の社長室、思い出す。
〇〇「ドラマのときより静かだね」
北斗「そうか」
〇〇「撮影のとき、もっと怖かった」
北斗「役だからな」
役。
そうだな。
あのときも、役だったことにしてる。
カメラマン「目線絡ませてください!」
〇〇の目が、真っ直ぐ俺を見る。
こんな近くで見つめられて、平気なわけない。
でも〇〇は、普通だ。
次。
カメラマン「お姫様抱っこいきます!」
〇〇「いける?」
北斗「いける」
抱き上げる。
軽い。
細い。
腕の中にすっぽり収まる。
〇〇「軽い?」
北斗「軽い」
本音。
〇〇「それ前も言ってた」
北斗「本当だからな」
離したくない。
でもカメラマンの「OK」で、ゆっくり下ろす。
次はソファ。
隣に座る。
肩が触れる。
〇〇「北斗さ」
北斗「ん?」
〇〇「屋上の告白、すごかったよね」
心臓が止まりそうになる。
北斗「……そう?」
〇〇「完全に入り込んでた」
入り込んでた。
そう思ってるんだな。
演技だと。
北斗「そうかもな」
それ以上、何も言えない。
カメラマン「キス寸前カットいきます!」
空気が変わる。
距離がゆっくり縮まる。
〇〇が目を閉じる。
俺の呼吸が乱れる。
あの日の屋上と同じ距離。
あのときは、本当に触れた。
今は、触れない。
触れちゃいけない。
カメラマン「止め!」
寸前で止まる。
あと数ミリ。
〇〇は何事もなかったように目を開ける。
〇〇「ドラマのときのほうが緊張したな」
北斗「……そうだな」
俺は、今のほうがきつい。
撮影終了。
スタッフ「最高でした!」
〇〇がスマホを見る。
〇〇「もうトレンド入ってる」
北斗「何が」
〇〇「#CanCam表紙」
〇〇「#壁ドン」
〇〇「#お姫様抱っこ」
〇〇「#キス寸前」
〇〇「#〇〇北斗」
画面をちらっと見る。
・北斗の目本気すぎ
・ガチ恋では?
・〇〇気づいてないよね?
・いや演技だろ
〇〇が笑う。
〇〇「北斗またガチ恋って言われてる」
北斗「……演技だろ」
〇〇「だよね」
即答。
迷いゼロ。
仲間。
ただの共演者。
〇〇「また一緒に仕事できたらいいね」
北斗「……ああ」
その“ああ”に込めた本音を、
〇〇は知らない。
壁ドンも。
お姫様抱っこも。
キス寸前も。
全部、俺にとっては役じゃなかった。
でも〇〇は気づかない。
ファンも気づかない。
それでいい。
仲間でいられるなら。
でも。
このまま一生、仲間のままでいられるほど、
俺は強くないかもしれないんだ。
スタッフ「本日はありがとうございました!」
拍手。
フラッシュ。
笑顔。
そして、解散の空気。
〇〇「おつかれ」
北斗「おつかれ」
それだけ。
さっきまで肩に触れそうな距離で撮っていたのに、もう一歩分、間が空く。
俺たちは本当に仲が悪い。
設定じゃない。
価値観が合わないし、会話も噛み合わないことの方が多い。
〇〇は感情で動く。
俺は理屈で動く。
何度もぶつかってきた。
今日だって、撮影前に軽く火花を散らした。
〇〇「その言い方、トゲある」
北斗「事実だろ」
〇〇「事実でも、言い方ある」
北斗「甘いな」
〇〇「理屈っぽい」
沈黙。
スタッフが空気を読む。
それが俺たち。
不仲は、本当。
でもカメラが回れば、完璧に合う。
それがまた、厄介だ。
メイクを落として、控室前の廊下。
気づけば2人きり。
静か。
〇〇「今日さ」
北斗「ん?」
〇〇「距離近すぎたよね」
北斗「……仕事だろ」
〇〇「壁ドン、久々だったし」
北斗「覚えてたのか」
〇〇「話題になったじゃん」
話題。
あれは俺にとって、ただの話題じゃない。
〇〇が壁に背を預ける。
〇〇「北斗ってさ」
北斗「何」
〇〇「恋愛芝居、やっぱ上手い」
北斗「……役者だからな」
〇〇「うん。でも」
少しだけ目を細める。
〇〇「あの“ずっと好きだった”のとこ、本気っぽかった」
鼓動が跳ねる。
北斗「……演技」
〇〇「だよね」
即答。
一切迷いなし。
〇〇「現実であんな真っ直ぐ言うタイプじゃないじゃん」
笑う。
悪意なんてない。
北斗「……まあな」
〇〇「だから安心してできた」
北斗「安心?」
〇〇「うん。北斗は仲間だから」
仲間。
何度聞いても、慣れない。
〇〇「キス寸前もさ」
北斗「……」
〇〇「全然緊張しなかった」
北斗「俺はした」
つい本音が漏れそうになる。
飲み込む。
北斗「……普通だろ」
〇〇「私は平気。北斗だし」
北斗「どういう意味だよ」
〇〇「信頼してるって意味」
まっすぐ。
そこに恋はない。
〇〇「不仲って言われてるけど」
北斗「事実だろ」
〇〇「まあね」
あっさり認める。
〇〇「でも仕事はちゃんとできる。不思議だよね」
北斗「相性は悪くないんだろ」
〇〇「うん、バディとしては最高」
バディ。
それ以上でも以下でもない。
〇〇「北斗となら、なんでも演じられる」
その言葉が、やけに重い。
北斗「俺じゃなくてもいい」
思わず出る。
〇〇「は?」
北斗「恋愛ドラマの相手なんて、他にもいる」
〇〇は少しだけ眉を寄せる。
〇〇「でもあの空気は北斗じゃなきゃ無理」
胸が一瞬だけ温かくなる。
でも。
〇〇「合わないけど、合うんだよね」
矛盾した言葉。
それが俺たち。
〇〇「だから続けよ、不仲コンビ」
北斗「……」
〇〇「楽なんだよ。変に仲良しぶらなくていいし」
楽。
俺は楽じゃない。
〇〇「北斗、顔」
北斗「何」
〇〇「ちょっと赤い」
北斗「気のせい」
〇〇「はいはい」
笑う。
何も知らない顔。
マネージャー「〇〇、車出るよ」
〇〇「はーい」
少し歩いて、止まる。
〇〇「北斗」
北斗「ん」
〇〇「ありがと。相手が北斗でよかった」
一瞬、期待する。
でも続く言葉は決まってる。
〇〇「仲間として、信頼してる」
北斗「……どういたしまして」
〇〇は去る。
足音が遠ざかる。
廊下は静か。
壁ドンも。
お姫様抱っこも。
キス寸前も。
全部、俺だけが本気だった。
〇〇にとっては仕事。
演技。
バディ。
仲間。
それだけ。
不仲は事実。
片思いも、事実。
どっちも本当。
だから終わらない。
俺は何も言わないまま、
また隣に立つ準備をする。