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彼と付き合い始めて、季節は春から夏へ、そして秋、冬へと移り変わっていった。
どんな季節でも、彼と一緒に過ごす時間はあたたかかった。
朝、学校へ向かう電車の中。
スマホにメッセージが届く。
「おはよー☀️ ちゃんと起きれた?」
絵文字つきの軽い言葉なのに、それだけで一日が明るく始まる気がした。
「起きてるよ。もう電車の中」
「偉い偉い👏 俺は今から朝マック🍔」
くだらないやりとり。けれど、心が弾んだ。
バイト先では、相変わらず彼の声が響いていた。
「羽月ちゃん、ミルク多めのお客さん入ったで!」
「うん、ありがとう!」
忙しい時間帯も、彼がいるだけで不思議と心強い。
私がカップを落としてしまったときも、すぐにフォローしてくれた。
「大丈夫大丈夫、俺が片付けるわ。羽月ちゃんは次のオーダー頼む!」
頼れる背中に、胸がじんわり温かくなる。
付き合い始めてから二人で出かけた場所は、数えきれない。
夏祭りでは浴衣を褒めてくれて、花火の音に紛れて手を握ってくれた。
秋には紅葉を見に行って、落ち葉を拾っては「これ羽月ちゃんに似とる」とからかってきた。
「え、どういう意味?」
「綺麗って意味やん!」
「もう……そういうこと急に言うのやめてよ」
「照れてるやろ」
そんな会話を、何度繰り返しただろう。
冬。
クリスマスの夜、喫茶店の閉店後。
バイト仲間たちとケーキを分け合って笑ったあと、帰り道で彼がふいに言った。
「なあ、これ渡したかったんや」
差し出された小さな包みを開けると、中には銀色のブレスレットが入っていた。
細い鎖の先に、月の形をした小さなチャームが揺れている。
「……これ」
「羽月の“月”や。俺とおそろいにしたかってん」
彼の手首にも、同じチャームのついた革のブレスレットが光っていた。
「ありがとう……大事にするね」
涙が出そうになるのをこらえ、笑顔でそう言った。
彼は少し照れくさそうに頭をかきながら、「似合ってるで」と呟いた。
夜になると、電話をつなぐことも増えた。
「今日もおつかれさん。眠そうやな」
「うん、ちょっと課題で疲れた」
「ほな早よ寝や。明日もバイトやろ?」
「うん……柊月くんは?」
「俺も眠いけど……声聞いたら元気出たわ」
そんな何気ない会話をして、「おやすみ」と言って通話を切る。
そのあとも、スマホを胸に抱えたまま眠りにつく夜が何度もあった。
――あたりまえの毎日。
けれど、私にとっては宝物のような日々だった。
柊月が笑ってくれること。
同じ景色を見て、同じ言葉を交わすこと。
(このままずっと、続いてほしい)
そう願わずにはいられなかった。
そして――
1年が経ったある日。
その願いが、音を立てて揺らぐことになるなんて、まだ知らなかった。