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マズイマズイ、どうしよう!

私は、泣きそうになりながら教室へと駆け戻った。上履きを投げるのを見守ってくれていたヒナとユリちゃんを放置して。

「由香!」

2人は追い掛けて来てくれたが、私は1人教室へと逃げ込みドアを閉めた。幸いな事に教室は無人。自分の席に突っ伏して頭を抱える。

バチが当たったんだ。嘘なんか吐くから。自分の都合の為に関係ない児島先輩を巻き込もうとしたから。もう泣く!でも・・・

泣いても違う人を直撃した上履きは戻らない。

消えたい。誰か助けて!

トントンと軽くドアを叩く音がした。続けてヒナの小さな声が聞こえた。

「由香、大丈夫?その、どうするか一緒に考えよう?」

ヒナは優しい。そうだよね、どうするか考えないと。

そう思って立ち上がった時、外で男の子の声が聞こえた。

ヒナとユリちゃんが受け応えをしている。「神野先輩」という声が聞こえた。上履きをぶつけてしまった先輩の名前だろう。そして、少ししてガラガラと後のドアが開いた。


「鈴原ちゃん?」

3年生の男の先輩。多分神野先輩。その人が、私の上履きを指に掛けて聞いてきた。私は頷く。頷いたまま顔を上げる事が出来なくなってしまう。羞恥心で顔が赤くなる。

「ルールとかよく知らないんだけどさ、コレ履かせてあげたら成立するの?」

そう言って近づいて来た。私の前でしゃがんで、スリッパに変わっていた私の足に上履きを履かせようとする。

「あ、あの、違うんです!」

声を上げて一歩下がった。待って待って、どうしよう。何で履かせようとするの?

「あ、違った?渡すだけだった?」

いや良いんだけど、そうなんだけど。

「えっと、そうじゃなくて。ルールはそれでokなんですけど、その・・・」

と、とにかく謝らないと。間違えて痛い思いをさせてしまったんだから。

私は急にバッと頭を下げた。

「ゴメンなさい!私が上履きを投げたのは神野先輩にじゃなかったんです!間違って神野先輩の頭に当たってしまって」

怖い。怒鳴られたらどうしよう。でも謝るしかないし、逃げたり泣いたりしてどうにかなる状況でもないし。

「痛かったですよね、思い切り投げたから。本当ゴメンなさい!」

続けて言って顔を上げた。逃げ出したい思いを両手をぎゅっと握りしめて耐える。泣きそう。でも泣かない。頑張ろう。

「謝んなくていいよ。気にしないから」

神野先輩は、優しい声でそう言ってくれた。

言いながら、握りしめた私の手を解きほぐして上履きを持たせてくれる。

そして、頭を撫でてくれた。

優しい。

怖くない。

「次は間違えないように気を付けてね」

バイバイしながら教室を出ていく先輩。あんなに大きくて怖そうなのに、凄く優しい。

男の子、男の人に、こんな風に頭を撫でられたのは初めてだった。


友達の心を繋ぎ止める為に吐いた嘘で、私は恋に落ちた。


次の日、私は3年生の教室の前にいた。神野先輩の姿を探して順番に教室を覗いていく。

3組迄来たところで見付けた。友達と話している。叩き合って笑い合って、仲が良さそうだ。

綺麗な女の子が来た。その子は神野先輩の横にいる人を見ている。話しかけ、あしらわれ、席を立たれた。少し悲しそうなその子に神野先輩が声を掛ける。慰められた表情。

声は聞こえないけど、神野先輩が女の子を慰めてあげているのは分かった。やっぱり神野先輩は優しい。

見つめていると、神野先輩が振り返る。私は慌てて逃げた。


昼休みの校庭は3年生のものだ。大体天気の良い日は大勢の男子でサッカーをしている。もしかしたら神野先輩もいるかも、と思って見に行くと、いた。人数合わせで入ってあげたみたい。

試合が始まる前に一度目が合った。胸が跳ねる。

プレイする姿は、イケメンだけあって普通にカッコイイ。ギャラリーは、誰かがボールを奪ったり、ゴールに迫ったりする度に湧く。今迄は昼休みに校庭に出るなんて考えられなかったけど、今は夢中だ。何だか世界が変わったみたい。

先輩達のグループが勝った。商品が2種類で、誰がどれを貰うかで揉めたようだが、神野先輩はみんなに譲ってから余りを貰っていた。また胸が跳ねた。


教室に帰ると、ヒナとユリちゃんがいた。上履き事変以来、殆ど口をきいていなかったので、私が落ち込んでいないか心配してくれているようだ。

あんなに、2人だけでいる事にモヤモヤしていたのに、今は全く気にならない事に自分でも驚いた。

「由香、大丈夫?」

「突然校庭見に行ったりして、やっぱり辛い?」

掛けてくれる声が優しい。心の中に嬉しい気持ちが湧き上がってくる。

私、何やってたんだろう。嘘付いて、2人を引っ張り回して。

「あのね、聞いてくれる?」

私は、2人に事の次第を説明する事にした。

間違えたシンデレラ

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