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「やっぱりね、神野先輩はあの時の様子から由香の事嫌いじゃないと思うのよね」
ユリちゃんが言う。
「うんうん。由香ゴメンね、あの時の様子、覗き見してた」
ヒナが続けて言う。
「全然、謝らないで。私の方が、変に騙すみたいになってゴメン」
私が言う。
私は、2人に説明する為に、全て正直に言った。2人の恋バナについて行けず辛かった事、2人が仲良くなって自分がハズされるのでは、と怖かった事。嘘で好きな人と彼氏を作って、また3人で話せるように戻りたかった事・・・。
2人は、快く許してくれた。それどころか、自分達が楽しいからと言って私のついて行けない話ばかりになってゴメン、と謝ってくれた。そして、神野先輩への恋を応援してくれる、と。
こんな問題起こした私に協力してくれるなんて、嬉しい。
「改めて神野先輩に告白すべきだと思う!」
「そうだよね、そうしないと始まらないよ!由香!」
「うん、でもさ、先輩を呼び出しといて、間違えました!と言ってしまった立場としては・・・」
自分で言って、ズーンと体が重くなる。
「怖気付いても進まないわ。ここは次の作戦よ!」
「ユリちゃん、何か良い案があるのね!」
本人よりも盛り上がる2人。でも有り難いと思う。
「とにかく呼び出す!まずこれ!森のクマさん作戦よ!」
「最新のヤツ来ました!」
拍手する2人。また、変なのが来た・・・。
「本人に追い掛けられた所で白い貝殻の小さなイヤリングを落とすのです!」
「拾った相手は落とし主を追い掛けて返すのです!」
「ど、どうやって追い掛けてもらうの・・・かな?」
勢いのある2人にちょっと引きながら聞いた。
「目を合わせて微笑んで、走り出せば良いのよ。大体付いてくる筈!」
「早速行こう!由香!クマさんになるのよ!」
「ヒナ、なるのはクマじゃなくてお嬢さんの方よ!」
何故か持っていたイヤリングを渡されて、私は3年の教室へと送り出された。
そっと覗くと、さっき貰った賞品のイチゴオレを、児島先輩に上げて何か話してる所だった。
後ろ向いてるのに目を合わせるって、どうやるんだろうか。
そう思いながら背中を見つめていると、急に神野先輩が振り返った。
!
私は慌てて逃げた。目なんか合わせられなかった。なのに、
「待って鈴原ちゃん、逃げないで」
神野先輩は追い掛けて来た。足が速くてすぐに追いつかれ、手を掴まれる。
「神野先輩・・・」
言って私は振り返った。顔は赤くなっているだろう、すごく熱い。でも、次の神野先輩の言葉で一気に体温が下がる。
「あのさ、コジの事見てるんでしょ?俺連れて来てあげようか?」
「!」
そんな、私が見てるのは神野先輩の事なのに。
だけど、そう思われても仕方ない。だって私、あの時間違えたって言ったんだから。神野先輩は優しいから、私の為に動いてくれようとしている。
でも、訂正しないと。見てるのは神野先輩だって伝えないと。
「ち、違うんです。私、その・・・」
「違う?」
先輩の顔が近い。目を合わせるどころか急接近だよこれ。
私の顔はまたまた熱くなる。
「あっ、ゴメンなさい。私、行きます。失礼しました」
私は、恥ずかしさに負けて逃げ出した。
掴まれた手を振り解いた拍子にイヤリングが落ちる。
もう、どうでも良いから、とにかく今は1人になりたい。落ち着いて考えたい。
熱い頬を、緊張で冷たくなった手で押さえながら、とにかく走った。走って走って逃げ出した。
一応、追い掛けて貰えた。イヤリングを落として逃げた。でも・・・
その後、神野先輩は私を追い掛けて来てはくれなかった。
「追い掛けて来てくれなかったよ」
私は泣きながらしゃがみ込んだ。
「由香ー、泣かないでー」
ヒナが私の頭を撫でて慰めてくれる。
「もしかしたら、最後追い掛けるって知らなかったのかも。神野先輩、シンデレラの時もやり方解ってないような感じだったもん」
ユリちゃんも私ぬ肩を優しく叩きながら慰めてくれる。
そんな2人には申し訳無いが、私はもう諦めモードだった。
「児島先輩の事呼んでこようか?って言われちゃった。もう望みないよ」
「由香ー」
2人も私の名前を呼びながら一緒に泣いてくれた。
その後の授業は、一緒にサボってくれた。
私は、泣きながらも3人でサボってしまうと誰もノート取れないな、とか申し訳ない思いも抱えながら泣いた。
私、本人に迷惑な女だなぁ。
放課後、昇降口の向こうに出るのが怖かった。ヒナもユリちゃんも部活。「一緒に帰る」と言ってくれたのを私が断った。これ以上迷惑をかけたく無かったから。
グズグズと靴を履き替えて、足取り重く外に出る。
倉庫脇には2人。そのうちの1人は神野先輩。
どうしても目が向いてしまう。
神野先輩じゃない方の先輩が、私を見ながら神野先輩に話しかけた。それを聞いて、神野先輩が私を見る。そして立ち上がり、こっちに向かって歩いてくる。
もう、逃げ出したりしないで向き合おう。