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私には好き…いや、カッコいいなと思った男子がいる。
私の名前は宇盛手(うもで)鶴(つる)。父が現在も現役の俳優、宇盛手 真二(しんじ)
母も現役の女優の有恩(ありお)(旧姓)雲雀(ひばり)、その2人の娘だ。
小学生の頃からモデルをしており、中学2年のときに「可愛すぎる」ということで人気に火がつき
大人気モデルとしてテレビに出始め、現在はタレントとしてもテレビに出ている次世代のスターだ。
私が通っている高校、月之光学院。私のようなモデルやタレント
俳優や女優、アーティストやアイドルといった芸能人や芸能人の子どもなどが在籍している高校である。
なのでバラエティ番組で共演した人やドラマで共演した人が同じクラスになることも多い。
現在高校1年生。諸先輩方にも高校に来られないほど人気な俳優や女優の方もいるし
テレビでは見ないことがないほど大人気のタレントの方もいる。
入学式が終わってクラス分けが終わって席につく。
「うおぉ〜。鶴ちゃんだ!」
と話しかけられる。話しかけてきた相手もモデル。樽木(たるき)嶺夜(リヤ)。
彼女は現在、ギャルモデルとしてバラエティ番組でも活躍している。
「あぁ、嶺夜ちゃん」
「撮影でニアミスしたよねぇ〜。あのとき楽屋隣だったみたいだねぇ〜」
「えぇ、あ、そうだったの?」
「そうそう。鶴ちゃんは個室だもんね、楽屋。私らは大部屋だからさ」
「あ、そうなんだ?」
「ま、ご両親がご両親だもんねぇ〜」
よく言われること。父と母の影響力が大きすぎて
ネットでも「親の七光り」「コネでテレビ出てるだけ」と書かれたりしている。
「ま、うん。…」
「ま、テレビ出れてるのは鶴ちゃんのJituryoku(実力)ぅ〜だろうけど」
と言われてなんとなく嶺夜のことが好きになった。
「バラエティで共演できたらいいねぇ〜」
「たしかに。でも求められてるとこが似てない?私たち」
「そおかなぁ〜。私はぶっちゃけを求められてるからなぁ〜」
「そうなんだ?バラエティの埋め枠かと思ってた」
「失礼すぎん?」
と笑いながら言う嶺夜。
「ごめん」
「いや、埋めかな?と思うときはあるけどね?実際昔は埋め枠だっただろうし。
でも私がポツッターでぶっちゃけた投稿がめっちゃ拡散されてさ?
しかも「わかります!」とかいう返信ばっかで
そこから事務所の人がぶっちゃけ方向にハンドル切っていいんじゃね?ってことで
ぶっちゃけ方向に行ったら人気出てさ?だから今は埋め枠じゃなくて
ありがたいことに、私を起用しようとしてくれる番組が増えてね」
「すご。私はまだ自分の武器が見つかってないから羨ましい」
「そお?私なんて本音言ってるだけだよ?若さしか取り柄のないタレントとかモデルが
「いやぁ〜ん。ジェネギャー(ジェネレーションギャップ)で言ってることわかんないぃ〜」とか
言ってるのに対して「いやギャルの私でも知ってるわ。
公衆電話の使い方くらいアニメでもドラマでもやってんじゃん。
衝撃映像とか前に見たやつを初めて見たように振る舞うタレントくらいしょーもないよ?
自分の無知ひけらかして売れようとしてるの自分?今やおバカタレントなんてオワコンの時代に?
鬼ウケるんだけど。ギャルの私以下じゃん。はい乙ー」とかね?」
と言う嶺夜に
「おぉ…。たしかに私とは枠が違うわ」
と認めざるを得なかった。
その後クラスの自己紹介があって、五十音順の席だとあれだということで席を変えた。
幸いなことに嶺夜は近くにいてくれて
「あ!え!?小樹(おぎ)天(あまね)くんじゃん」
近くには俳優の小樹天がいた。
「小灰樹(こはぎ)天唯(あゆ)ね」
「え?」
「自己紹介で言ったじゃん。小灰樹天唯。小樹天は芸名」
「あ、そうなの?ごめんね」
「いや、…別に」
「こないだのドラマ見たよぉ〜。よっ!ネクストブレイク俳優!」
と嶺夜が言うとキッっと睨むように嶺夜を見た天唯。
「おぉっ。地雷かな?」
と嶺夜が言う。
「それやめて」
「なにを?」
「ネクストブレイク俳優っていうの」
「なんでよー。期待されてるってことでしょー?羨ましいけど」
「いや?ネクストブレイクってことは、まだブレイクしてないってことでしょ?
オレはもうブレイクしてるから」
と言う天唯。
「あら。ずいぶんな自信家さんなのね」
「あとあーゆーのって顔の良さとかで、演技の実力とかじゃなくて世間の反応で決めてるやつだから
全然好きじゃないし嬉しくもない。アイドルじゃないんだからさ」
「おぉ、自分がイケメンというのはもう認めてるわけだ」
というずいぶんな自信家の天唯もご近所さんとなった。
「私、来王丘(らおか)風海(ふみ)!The CUTEST in the planetsの最年少!
海王星担当!よろしくね!ご近所さん!」
風海が元気よく挨拶してきた。
「おぉ。よろしく。The CUTEST in the planets?なにそれ。すまん。知らないわ」
苦笑いで本音を投下する嶺夜。
「嘘!?今ちょっと流行ってる曲あるんだけど。”Plane ねっ ねっ ねね ね ね?”って知らない?」
「あぁ〜。聞いたことある」
「私も聞いたことあったわ」
と嶺夜が笑顔で言った後
「あれでしょ?あのくそしょーもないショート動画のBGMとして使用されて
何回も再生されて人気が出たと勘違いしてるパターンのやつね。最近よくあるやつ。
番組の制作サイドも数字しか気にしてないから、再生数イコール人気だと思ってるけど
実際は全然ってやつね。視聴者は全然求めてないやつ」
と笑顔で本音を投下した。
「ひどーい!ひどいよね?鶴たん」
「鶴たん?」
「うどん専門店みたいな呼び方すなよ」
と嶺夜がツッコミを入れた。
「あの…宇盛手(うもで)さんですよね?」
と話しかけてきた男子。
「あぁ、はい」
「僕、簀流島(さるしま)愛夢(あむ)です。
宇盛手さんのお父様とお母様と僕の父が仲良くさせてもらってるみたいで」
「…簀流島って、優吾(ゆうご)さんの?」
「あ、はい」
彼は簀流島愛夢。彼自身は芸能人ではないのだが、彼の父が現役の俳優、簀流島優吾
母が元アイドルで現在女優でも活躍している高木美里(みり)。
「あぁ。こちらこそ、父と母がお世話になってます」
「いえいえ」
「あれ?お兄さんってたしか」
「はい。ここ(月之光学院)の3年です」
「ですよね?俳優の」
「高木愛人(まなと)さんね」
天唯が言う。
「そうそう」
「お兄さんとは共演させてもらったこともあって。その節はお世話になりました」
天唯が愛夢に軽く頭を下げる。
「あ、そんなそんな。自分は」
「簀流島くんは俳優しないんだね?」
嶺夜が言う。
「あ、はい。兄と姉を見てたら学生生活を犠牲にしてたんで、自分にはできないなって」
「なるほどねぇ〜」
「あ、恵瑠(めぐる)さんもよろしくお願いします」
愛夢が話しかける。
「あ、どうも。よろしくお願いします」
「髪色は派手なのに静かそうな男子だ」
と呟くと
「恵瑠(めぐる)絵虎(えとら)くんね。JEWELRY BOYSのエメラルド担当」
と嶺夜がスマホを見ながら言う。
「あ、だから髪色黄緑なんだ」
「らしいね。まあまあファンはいるけど、なんとも言えない感じだね。
リーダーのダイヤモンド担当の人が俳優でブレイクして、最近楽曲も人気とか言ってるけど
それも…なんだっけ?The CUTESTなんちゃらみたいに
しょーもなショート動画で使用されて再生回数が多いってだけで人気が出たと勘違いしてるパターン」
「あぁ〜」
「ねえ!私になんか恨みでもあんの!?嶺夜(リヤ)ちん」
「ひっくり返したらド下ネタになるからその呼び方やめて」
という5人が私の席のご近所さんということになった。
「ま、5人さん、ご近所さんということでこれからよろしくねぇ〜」
と嶺夜が言う。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
「よーろしくぅ〜!」
「よろしくお願いします…」
「よろしくね」
という感じで月之光学院での高校生としての学生生活が始まった。
しかし、言わずもがな、普通の学生生活ではない。
私や嶺夜、小灰樹(こはぎ)くんは芸能の仕事があるため、昼からの登校になったり
朝から高校に行けたときも、午後に仕事が入ってて早退しなければならなかったり。
月之光学院は芸能人が多く通う高校。なので芸能の仕事を優先させてくれる。
受けられなかった授業は映像として残っており
各自学校側から支給される学校で使う教科書などのデータが入っているタブレットで見れるため
仕事の合間や土日などに見たりする。メイクされている間にタブレットで授業を聞いたり。
移動時間、タクシーやロケバスの中でも見ようとしたが、車酔いしてしまうため、移動中は寝ていた。
なので休日も学校にいるような気分になるし、土日でも仕事があるときもある。
土曜日。雑誌の撮影が終わった後、息抜きにゲームセンターにでも行こうと真新宿へと降り立った。
案外人は顔を見ていないので、電車に乗ってもみんなスマホをしているためバレないが
一応伊達メガネと帽子を被って街を歩く。すると
「Excuse me」
と声をかけられた。
一瞬バレた!
と思ったが、英語だったということに気づいてそちらを見る。
すると観光に来たらしい海外の方が数人立っていた。
うわっ。身長高っ
と思った。真新宿には海外の方が多くいらっしゃって
きっと道を聞いてくるんだろうということは予想できた。
「We walked here thinking we were going to this cafe, but is it close by?
(このカフェに行こうと思ってここまでは来たんですが…。この近くにありますか?)」
早すぎて聞き取れなかった。その喋っている海外の方の手にはスマホがあって
画面にはカフェの地図が表示されていた。なにを言っているかはわからなかったが
「Here?」
とスマホの画面に表示されているところに行きたいのだとはわかったので聞く。
「Yes.Is it close from here?(はい。もう近いですか?)」
なにを言っているかわからなかった。私は勉強は好きじゃない。
そもそも勉強が好きな人がこの世にいるのか?と思うほど。
それに加えて芸能の仕事をして、ありがたいことに割と多くのお仕事をもらっている。
なので勉強できる時間も少ない。辛うじて現代文は得意だが、古文なんてからっきし。
ということは母国語でもない英語なんてもっての外である。
あぁ〜どうしよ。えぇ〜っと…
とパニック寸前だった。
「Thank you for watching. Let’s make the peace! See you again〜
(ご視聴いただき、ありがとうございます。では皆さん、またねぇ〜)」
「「See you again!!(またねぇ〜)」」
スマホの録画停止ボタンを押す。
「Okay」
「Did I looks good?(カッコよく撮れた?)」
「Always(いつもでしょ)」
「Youu〜(こいつぅ〜)」
と仲の良いMatt Keith Jeffers(マット キース ジェファーズ)が肩を組んでくる。
オレの名前は空声(くぜ)篤好累(あいる)。
Quacky Ducky Schoolに通うの現在Sophomore(ソフォモア)である。
Sophomoreとは日本の高校でいうと高校1年生ということ。
Quacky Ducky Schoolは日本で唯一といってもいいほど、海外の学校を味わえる高校だ。
Preschool(幼稚園)からHigh school(高校)までがある。大学に関しては日本の大学に行ってもいいし
アメリカやイギリスの大学に行ってもいいように、大学だけは創っていないらしい。
本格的な英語を勉強できる場所といえばインターナショナルスクールを思い浮かべるだろうが
インターナショナルスクールよりも環境が本格的。敷地が広く、芝の敷かれた校庭や整備された道
校舎も、Elementary school(小学校)とMiddle school(中学)はイギリスの高校のような
伝統あるような雰囲気の造りの建物となっているが
High schoolはまるでオシャレなカフェや、クリエイティブな発想のために
オフィスというオフィスがない会社の外観のようになっている。
生徒は日本人、アメリカ人、イギリス人が多く、他の国の方もチラホラといる。
ここには本場の日本語を学びたい海外の人と本番の英語を学びたい日本人が入学してくる。
海外の人は日本のアニメを日本語で見たいという人もいれば
家族が日本旅行に来たときに翻訳アプリなしでスムーズに案内してあげたいという人もいる。
日本人は英語が喋れたらカッコいいという理由や
両親に入らされたという理由、あとは昔から英語に親しんでいたという理由
あとは本場アメリカの雰囲気で、コミニケーション能力がついたり
社交性が上がるという巷の噂から、親が引っ込み思案の子どもを入れるというパターンもある。
オレは昔から海外のアニメを見ていたり、海外の映画、ドラマを見ていたり
海外アーティストの曲を聴いていた。いや、見させられていた、聴かされていたが正しい。
意味もわからず聴いていた両親だが、字幕のおかげでオレは小さい頃から英語はある程度理解できていた。
そこに着眼した両親がここ(Quacky Ducky School)を見つけてきて中学から入学させられた。
小学校から通っている人やオレと同じように中学から入学した人と仲良くなった。
まずは日本人。都亜宇(とあの)流望大(るのお)。
こいつは小学生の頃からいたやつで、もう英語はペラペラ。子どもの頃は引っ込み思案で
人見知り気味にお母さんの後ろとかに隠れてるタイプだったらしいが
「おぉ〜い!篤好累(あいる)ぅ〜!」
このようにその面影はゼロである。
そして菅野尾(すがのお) 瑠姫(るき)。彼女も流望大と同じく小学生からいた組。
彼女は洋楽が好きで、今や邦楽より洋楽のほうが上手く歌える。らしい。
そしてもう1人。野田元(のだもと)大吉留(だいきち)。彼女はオレと同じく中学から入った組。
彼女は流望大と同じで小学生まで引っ込み思案で人見知りだったので
両親にここの入学を勧められて入学してきたらしい。
今も物静かな子ではあるものの、海外の人相手だと英語でコミニケーションを取れている。
ただ日本人相手だとまだ人見知りする感じがする。そしてアメリカ人。先程動画撮影終了時に
「カッコよく撮れた?」
と言っていたMatt Keith Jeffers(マット キース ジェファーズ)。
テンションの高い、ムードメーカー的なやつである。
そしてChristopher Lucas Storm(クリストファー ルーカス ストーム)。
筋肉がスゴいスポーツバカなやつ。
そして女子。Emma Blair White(エマ ブレア ホワイト)。
彼女は大人っぽい雰囲気の学園のマドンナ的な存在だ。
そしてもう1人、Lily Harley Taylor(リリー ハーレー テイラー)。
彼女は学年が1つ下なのだが、元気っ子でEmmaと仲が良く、よく同じグループで行動している。
そしてイギリス組。Barry Alan Thomas(バリー アラン トーマス)。
彼はイギリス紳士という言葉が似合う、大人っぽい雰囲気の人。
Harry Lionel Davies(ハリー ライオネル デイビス)。
彼はAlanに“オシャレ”を足したような人。
基本的に2人とも英国紳士でオシャレなのだが、なぜだかHarryはオシャレだなぁ〜という雰囲気がある。
そして女子。Florence Aria Baker(フローレンス アリア ベイカー)。
彼女は大人を目指しているんだろうなぁ〜というタイプ。大人っぽくはあるが、まだ幼い可愛さがある感じ。
そしてもう1人、Ava Layla Tuner(エイヴァ レイラ ターナー)。
彼女はまるでハリウ○ド女優のような大物のオーラを出してはいるが、オレたちよりも1つ歳が下。
こんな個性溢れる(ま、オレは個性はないが)オレを含めた12人でよく集まって遊んでいる。
さらにオレたち12人はMyPipeで動画を投稿している。
チャンネル名は「English Morons Everyday」意味は「間抜けたちの日常英語」
日常のありふれた疑問や英語でどう表現し、逆に日本語ではどう表現するのか
という日常会話をベースにした、ふんわりとしたチャンネルだ。
仲良くなってから立ち上げたチャンネルで、最初こそ全然見られていなかったが
現在では5万人を越える登録者数がいるチャンネルとなっている。編集は基本的に全員で交代で行う。
ありがたいことにコメントも多くいただいており、そのコメント返しは全員で分担して行っている。
「大吉留(だいきち)、did you watch yesterday’s WEW?(昨日のWEW見た?)」
Mattが大吉留に話しかける。
「Yeah,Yesterday was also a “Awosome”(見たよ。昨日も”イカした”展開だったね)」
「Awoosoome,right?? I knew it,大吉留(オォ〜サァ〜ム、だろ?さすがは大吉留)」
「It’s not big of a deal. Didn’t you Christoph?(そんなそんな。クリストフは見てないの?」
「With Matt. That was awesome.(Mattと見たよ。たしかに最高だった)」
MattとChristoph(Christopher)と大吉留はアメリカンプロレス「WEW Entertainment」が好きで
よく盛り上がっている。他のメンバーは特に共通していることはなく
強いていうならみんな洋楽が好きで聴いてるので
「あのアーティストの新曲聴いた?」とか「あの表現最高だね」とか話すくらい。
「Alright!! Let’s go to Mashinjuku!!(よっしゃ!真新宿に繰り出すぞー!!)」
というMattの発言で12人全員で真新宿へ繰り出した。
「Foo!! It’s still a lively town.(フゥ〜!相変わらず賑わってるなぁ〜)」
「Matt, your voice is loud.(Matt、うるさい)」
なんて話しながら歩いていると海外の、おそらく観光客の人が女の子へ話しかけていた。
ま、今や翻訳アプリもあるし大丈夫か
なんて思いながら通り過ぎようとした。ただ気になってもう一度見てみた。
すると帽子とメガネで目元はハッキリと見えなかったが、明らかに動揺しているように見えた。なので
「Wait(待って)」
と全員に声をかけた。
「篤好累(あいる) ,What’s wrong??(どうかした?)」
Harryに言われる。
「She seems to be in trouble so I’ll go for a bit.(困ってるみたいだから、ちょっと行ってくるわ)」
と告げて小走りで向かった。
「Hi.Can I give you a hand??(なにか困ってますか?)」
と聞こえた。パッっとそちらを見ると私服で黒髪
両耳たぶにリングのピアスをした男子が英語で海外の人に話していた。
「Wow. You speak English??(おぉ。英語話せるの?)」
「Well… a little. If you’re worried, I have some American and British friends.
(まあぁ…多少なら?心配だったらアメリカ人とイギリス人の友達もいるから)」
と英語でペラペラ話して振り向く男子。
「Hi!! sightseeing?(観光ですか?)」
と言いながらこちらに歩いてくる男子の視線の先にいた海外の人。
「Yes. Are you American??(そうです。あなたはアメリカ人ですか?)」
「Yes!! You??(はい!あなたは?)」
「I’m Spanish(私はスペイン人です)」
「oh. Puedo hablar un poco(少しならできますよ)」
「¡Guau! ¿Por qué?(わお!なんで?)」
「Es una materia obligatoria en la escuela.(必修科目なんだよ)」
と英語?で話し続ける海外の人たち。
「あ、ありがとうございます」
そういえば助けてくれた男子にお礼を言っていなかったのでお礼を言う。
「あ、いえ。あーゆーときは翻訳アプリとかで自分の言いたいこと相手に伝えたほうがいいですよ。
なんとなく相手の言いたいことはわかったでしょ?」
「あぁ、はい。そっか、翻訳アプリ。全然思いつかなかった」
「パニクってたんだね。ま、しょーがないんじゃない?英語苦手でしょ?」
「あ、うん。得意ではない」
「オレもスペイン語苦手だから」
「ス、スペイン語!?」
「うん」
「え、スゴ…」
「必修だからね。喋ることないだろと思ったら、こんなとこで…」
もう少し会話をしようとしたところでスマホが鳴る。
「あ、ごめん」
「あ、いや」
スマホを出すと、画面には
桃さん(マネ)
と表示されていた。すぐ電話に出るボタンを押して電話に出る。
「もしもし?」
「あ、鶴ちゃん?今どこ?」
「ん?真新宿だけど」
「あ、あのさ、次の撮影なんだけど、衣装さんが急遽来れなくなったってことで
サイズのこととかあるから少し早めに(現場に)入ってほしいんだって」
「あ、そうなんだ?」
「ま、そこまで急ぎじゃないし、真新宿なら電車でも間に合うと思うけど、一応タクシー乗ってきて?」
「タクシー代あるかなぁ〜…」
「大丈夫(だいじょぶ)大丈夫(だいじょぶ)。それは着いたら私が払うから」
「マジで!?」
「マジです」
「わーい。わかりましたー」
「はい。じゃ、お願いします」
「はーい」
「失礼しまーす」
と電話が切れた。
「ごめん、行か…」
「行かなきゃ」と言おうとしたが、さっきまでそこに立っていた男子がいなくなっていた。
「あれ?」
と見回す。すると男子がタクシーを止めてくれていた。
「え、あ」
駆け寄る。
「タクシー。使うんでしょ?」
「あ、うん。ありがとう」
と言ってタクシーに乗り込む。
「助けてくれてありがとうございました」
改めてお礼を言う。
「いえいえ。じゃ、気をつけて」
「え。あぁ、うん。ありがと」
「あと英語はもうちょい勉強しなよ?」
とクスッっと冗談を言うように笑う男子。なぜかドキッっとした。
「はっ、はい。心掛けます…」
「じゃ」
タクシーのドアが閉まる。運転手さんに行き先を告げて、男子に向かって窓ガラス越しに手を振る。
タクシーが動き出す。
…。カッコ…よかったな…
と思いながら現場へと向かった。
そして朝から丸々高校に行ける日で、ひさしぶりに嶺夜も朝から丸々高校にいる日だった。
「いやぁ〜鶴さんよ。朝から放課後まで一緒とは」
「ひさしぶりだね」
「ね」
「私はー?ねえねえ、私はー?」
「勘違いアイドルは仕事ないんだから、ひさしぶりもなにもないでしょ?」
と笑顔で嶺夜が風海に言う。
「酷い!相変わらず酷いんだけど!ねえ鶴たん」
「あ、うん…そう…だね?」
「ほら。鶴さんもそう思ってるってよ。ずっと泣かず飛ばすだったアイドルを抱えてた事務所が
ショート動画で曲使われて再生数が伸びて、ただBGMとして使われてて
誰もほぼちゃんと聴いてもないのに「曲が人気になった」「うちのアイドルが人気になった」って勘違いして
ここぞとばかりに各メディアにプッシュして金を稼がせて
曲って“自発的に聴く”のと“強制的に聴かされる”ので全然違うというのも知らず
メディアもやたらめったら使うから、一瞬で飽きられる、なんなら嫌われるってのを知ってるのか知らずなのか
今後仮に伸びたら儲けもん、伸びなくても、一発屋でも
あらかた稼いでもらったからもういいや。的な事務所の魂胆も知らずに
芸人さんにおもしろく助けてもらってるだけなのにも関わらず、変に手ごたえ感じて
可愛くもないのに、最近のコンプラ意識とか、あとアイドルにはどんなにブスでも
可愛い、カッコいいって言っとけばいいっていう意識のせいで
出演者とか観覧のお客さんが可愛い、カッコいいって言うもんだから
自分のこと可愛いとかカッコいいって勘違いして
人気者になったと勘違いしてるって鶴さんがおっしゃってるわ」
と相変わらず笑顔で投下する嶺夜。
「い、言ってないし、思ってもない!」
「ほんと酷いわぁ〜」
「でも案外喰らってないのもスゴいよね」
「まあねぇ〜?メンタルは鋼なので!」
と胸を張る風海。
「わーお。無駄なメンタルの強さ」
その嶺夜の「わーお」で思い出した。
「そうだ。こないださ、海外の人に話しかけられてさ」
「おぉ。困った」
「そうなの」
「私なら翻訳アプリ使うけど」
「私もー!」
「そう。使えばよかったんだけどさ、話しかけられてパニクっちゃって」
「なるほど。たしかに。私もパニクルかも」
「私も」
「でもね?そしたら英語ペラペラの男子が助けてくれてさ」
「おぉ。野生の王子だ」
「ポシェモンみたいに言わないでよ」
「日本人?」
「日本…人。なんか海外っぽい顔立ちしてたけど…ハーフかな?友達は海外の人だったよ」
「ほお。国際交流」
「…英語喋れるってカッコいいんだなって思った」
「鶴さんは惚れたと」
嶺夜がニヤッっとする。
「違っ」
「これはスクープですぜ?週刊誌に撮られるぞぉ〜?鶴の青春!お相手は一般人って」
「と、撮られるかな?」
冗談で言った嶺夜が腕を組み
「…あながちあり得なくもないかもね…」
と割と本気で考える。
「たしかに…。鶴たんも今や人気だし、ご両親も有名だから…」
「それも撮られるポイントだよなぁ〜…」
「有名俳優と有名女優の娘、一般人との恋人を認めるか?とか」
「なるほど…あり得るな…」
「いや!そもそも好きではないからね?」
「あ、そうなの?」
「なんで好き前提で話進んでるのさ」
「そう思わん?」
「思う」
謎の連携を見せる嶺夜と風海。
「てか、相手は鶴さんのこと認識してた?」
そう嶺夜に聞かれて思い出す。
「…いや、めっちゃ普通に話してた」
「おぉ。認識してないね。たぶん」
「ま、私もそんなに毎日テレビ出てるわけじゃないし。もちろんテレビも出させてもらってるけど
ネット配信番組とかMyPipeチャンネルの撮影が多いから。あと雑誌」
「それは私も同じよ」
嶺夜が自分を指指して言う。
「私もだよー」
「嘘つけ」
「なんでよー!」
「見たことないわ」
と言う2人と1日を過ごした。しかしその1日、ふとした瞬間にあの男子が脳裏によぎった。
放課後に受けられなかった授業の映像を見ているときも
嶺夜と風海と一緒に帰っているときも、お風呂に入っているときも、寝る直前も。
次の日、その日も朝から学校に行く日。マスクをつけて、一応軽い変装をして登校する。
自分の家の最寄り駅につき、電車を待つ。スマホをいじりながら
明日は朝からって桃さん言ってたなぁ〜…
疲れるなと思いながら首をゆっくり回す。すると見たことある顔が視界に入った。
あれ?英語ペラペラ男子じゃない?え。地元一緒なの?
なぜかわからないが少し嬉しかった。スマホをいじっているその男子に近づく。
「あの」
と声をかけたが反応がない。
「あのさぁ〜。マジで、いや、最初に出てきた人はいいよ?
タトゥーすごい方とか路上喧嘩の王の兄弟のお2人とか。
ぶっちゃけあんま良くないと思うけどね?でもまあ百歩譲っていいとしよう。
でもああゆう方のせいで「悪いことしても武勇伝として有名になれる」とか
「前科あっても、なんなら前科が多いほど、テレビとかネット番組が使ってくれる」とか思う
バカが出てくるわけよ。だから、反省してしっかり社会に出ようとする人はいいけど
暴行事件とかクスリとか犯罪犯して、MyPipeとかメディアで楽して金稼いで
犯罪も犯さず真面目に生きてる人より楽して多くお金をもらうなんてあってはならないでしょ。
だからメディアももうちょい使い方考えな?」
とスマホの中でこちらに向かって言うギャル風の女性。スタジオは大爆笑。
彼女は高校1年生でギャルタレントらしい。こういうぶっちゃけ発言が人気らしい。
オレもスカッっとするというか、心の中で思ってたことを代弁してくれているようで好きなのである。
「あの」
2回も「あの」という声がワイヤレスイヤホンの向こうから聞こえ、もしかして自分なのか?と思い振り返る。
するとマスクをした白い、変わったセーラー服を来た女子が立っていた。
なんか落としたかな
とお尻のポケットとかを確認する。
「あ、違くて」
左耳のワイヤレスイヤホンを外す。
「はい」
マスクをしていた女子が周囲を警戒するようにキョロキョロ見回す。そしてチラッっとマスクを下にズラした。
あ、なんか見たことある
と思った。
「どこかで…」
「あ!覚えててくれました?」
「あ」
いや、全然覚えてないけど…
というのは言わなかった。
「英語で助けてもらった説はありがとうございました」
と言われて
…。どれだ?…。あぁ、直近の人か
と思い出した。正直英語が話せなくて困っている人を助けたことは数回あった。
ただ最近は観光に来ている海外の方たちも、教える日本語も翻訳アプリを使っているので
最近は少なくなったので印象に残っていた。
「あぁ、あの時の」
「え。覚えてなかったんですか」
「あ、…すいません。英語喋れない人を助けたことは数回あったので、いつの人かなって」
「私のこと…知らないですか?」
と言われて頭の上に「?」が浮かぶ。
昔会ってる?昔近所に住んでて一緒に遊んだ…とか?
いろいろ考えるが、幼少期なんて覚えてない。
よく母さんに「初恋のあの子ー」とか言われるけど、点で覚えてない。
仮に初恋の相手が今目の前にいるこの女子だったとしてもピンとこない。
「すいません。全然」
と本当のことを伝えた。
「そ、そうなんですね」
不思議な気持ちになった。まだまだ有名じゃないなぁ〜という、残念というか
もっと頑張らないとなという気持ちと、相手の英語ペラペラ男子が
私のことを芸能人として知らないというほんの少しの嬉しさが混ざっていた。
もちろん私が”とてつもなく有名”だとは思っていない。
最近では嶺夜のほうが有名になっている。だから知らなくても不思議じゃない。
ただなんとなく、自分のことを知らない人って、なんか、いいな。って思った。
「おいくつなんですか?」
「今16ですね」
「16?」
早生まれなのかな?
と思った。4月に誕生日を迎えていれば高1でも16歳の人はいる。
「高、1?」
「はい。高校1年です」
やっぱりそうだった。
「私も!高1!」
「へぇ〜」
「でも…」
その男子は制服ではなくパーカーにTシャツ、ジーンズにスニーカーだった。
「今日学校は?」
「ん?これから登校だけど?」
「え。…制服は?」
「制服はないね」
「え、ないの?どこ高?」
「QDS」
「QDS?QDS高ってとこ?」
「Quacky Ducky School」
「クワッキー…ん?あ、待って。調べる」
スマホでHoogleの検索欄に
QDS
と入れると予測変換に「QDS 評判」「QDS 日本人」「QDS 英語力」などが出てきた。
とりあえず「QDS」だけで検索してみた。
「クワッキー…ダッキー?スクール」
「それ」
「…インターナショナルスクール?」
「ま、違うけどほぼそう」
「インターナショナルスクールってなに?」
「そこからかよ」
と笑う男子。
「インターナショナルスクールは…そうだなぁ〜…英語特化の学校みたいな?」
「へぇ〜。あっ、だから英語ペラペラなんだ」
「そーゆーこと」
「名前は?」
「名前?オレの?」
と言われて頷く。
「くぜ あいる」
「くぜ あいる?すごい名前」
「そうかな?」
「そうだよ。今までで会ったことない」
「ふぅ〜ん。そっちは?」
「なにが?」
「名前」
と言われて言おうか言わまいか迷った。
元々出始めの無名の頃は母の旧姓「有恩」を使って、芸名として「有恩鶴」で活動していた。
しかし中学2年で人気になったところで
俳優の宇盛手 真二(しんじ)と女優の有恩(ありお)雲雀(ひばり)の娘だということがバレ
旧姓で活動していると「離婚」だのなんだの変な噂が出るようになったので
現在は本名の「宇盛手鶴」として活動している。
くぜくんは私の顔を見てもピンと来ていなかったし大丈夫だとは思うけど
名前だけ知っているパターンもあり得る。なので言おうか迷った。
自分のことを有名人、芸能人だと知らない人と
ただの高校生同士、同級生同士で楽しめるかもしれない。それを壊したくなかった。
「ん?」
くぜくんが不思議そうな顔をする。
「あ…」
心臓が、緊張でもなく、でも忙しく動く不思議な感じがした。
ただの高校生同士、同級生同士なら名前を呼び合って、笑って…。
それを考えたら名前を言わないなんて選択肢はなかった。
「う…」
「う?」
「う、宇盛手鶴」
意を決して名前を言った。
「宇盛手鶴?…」
くぜくんが考える様子を見せた。もしかしたら名前だけ知っていたパターンだったかもしれない。
そうなったら私のただの高校生同士、同級生同士で楽しむというには夢と消える。
「つる…つる…あぁ!Craneか」
「クレーン?クレーンがどうしたの?」
「あぁ、いや、鶴ってそうか。あの鶴ね。いい名前じゃん」
と笑うくぜくん。その様子からどうやら本当に私のことを知らないようだった。
「そっ、そうかな?」
「綺麗な名前じゃん?」
「あ、ありがとう…。くぜくんは地元ここなの?」
「ん?そうだよ?鶴も?」
ナチュラルな名前呼びにドキッっとした。
「そっ、そう!」
と話していると電車が来る。
「電車来た」
「あ、そっか。そっちなんだね」
「そ。でも地元ここなら、また朝会えるかもね」
「だ、だね!」
電車のドアが開き、くぜくんが電車に乗る。
「じゃあね鶴。see you again〜」
と微笑みながら手を振るくぜくん。手を振り返す。電車が発車して見えなくなる。
くぜくんか…。また会えたらいいな…
これが私の好きな…いや、カッコいいなと思った男子と出会った日の話。