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かくよ
文化祭が終わった。
さっきまで賑やかだった校舎も、少しずつ静かになっていく。
後夜祭に向かう生徒たち。
片付けをする先生たち。
そして僕――湊は、写真部の展示室で最後の荷物をまとめていた。
特別賞。
まだ実感がない。
けれど、胸の奥がじんわり温かかった。
「先輩」
隣で蓮が笑う。
「本当におめでとうございます」
「蓮も頑張ったじゃん」
「でも一番人気は先輩でした」
「そんなことないって」
「ありました」
即答だった。
思わず笑ってしまう。
その時。
「終わったか」
聞き慣れた声。
悠真だった。
「お前まだいたの?」
「待ってた」
さらっと言う。
待ってた?
誰を?
僕を?
「帰るぞ」
当然のように言う悠真。
すると。
「え?」
蓮が反応した。
「先輩とですか?」
「そうだけど」
「なんでですか?」
「帰り道同じだから」
「俺も送ります」
「いらない」
「いります」
「いらない」
また始まった。
僕は頭を抱えた。
◇
結局。
三人で帰ることになった。
夕暮れの道。
文化祭帰りの生徒たちがちらほら歩いている。
「先輩」
「ん?」
「打ち上げ行かないんですか?」
「写真部は明日らしい」
「じゃあ暇ですね」
「暇ではない」
「暇です」
勝手に決めるな。
そんなやり取りをしていると。
少し前を歩いていた悠真が振り返った。
「蓮」
「なんですか?」
「お前さ」
悠真の目が細くなる。
「湊に近すぎない?」
沈黙。
僕も止まった。
蓮はきょとんとしている。
「そうですか?」
「そう」
「普通ですよ」
「普通じゃない」
即答だった。
蓮が少し笑う。
「あれ」
「何」
「もしかして嫉妬ですか?」
空気が止まった。
僕の心臓も止まりそうになった。
「は?」
悠真が眉をひそめる。
「違う」
「絶対そうです」
「違う」
「じゃあなんで気になるんですか?」
蓮がぐいぐい攻める。
やめてくれ。
お願いだから。
しかし。
悠真は黙った。
珍しく。
言い返さない。
その沈黙に。
今度は蓮の方が驚いた顔をした。
「……あ」
僕も固まる。
まさか。
そんな空気になった。
◇
「じゃあ先輩!」
最寄り駅が近づいた頃。
蓮が立ち止まった。
「俺こっちなので!」
「うん」
「また明日!」
そして。
僕の方を見て笑う。
「負けませんから」
「何が?」
「全部です」
意味深な言葉を残して。
蓮は走って行った。
元気な後ろ姿が小さくなっていく。
静かになる帰り道。
残ったのは僕と悠真だけ。
◇
夕焼けが街を赤く染めていた。
しばらく無言。
でも不思議と気まずくはない。
昔からこうだった。
隣を歩くだけで落ち着く。
「今日」
悠真が口を開いた。
「良かったな」
「うん」
「嬉しそうだった」
「嬉しかったから」
「そっか」
短い会話。
だけど優しい。
そして。
悠真は少しだけ視線を逸らした。
「……俺さ」
珍しく歯切れが悪い。
「ん?」
「お前が他のやつといると」
そこで言葉が止まる。
僕は待った。
悠真は数秒黙って。
そして。
「いや、なんでもない」
そう言った。
でも。
その顔は少し赤かった。
「なんだよ」
「忘れろ」
「気になる」
「忘れろ」
「無理」
思わず笑う。
すると悠真も少しだけ笑った。
◇
駅の前。
別れる場所。
「じゃあな」
「うん」
僕が手を振ろうとした時だった。
悠真が僕の頭に手を置く。
ぽん。
文化祭の時と同じ。
でも。
今度は少し長かった。
「……頑張ったな」
低くて優しい声。
胸がどきりと鳴る。
悠真はそれだけ言って。
照れ隠しみたいに背を向けた。
「また明日」
「……うん」
去っていく後ろ姿。
夕焼けの中。
なぜか目が離せなかった。
そして僕はまだ知らない。
悠真が言いかけた言葉の意味も。
蓮が宣言した「負けない」の本当の意味も。
知らないまま。
少しだけ速くなった心臓の音を聞いていた。
おわりんちょす
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