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それから三日が過ぎた。
壱月がブリスベンから帰ってくるだけでなく、保育園のお迎えにも来てくれるということで、花斗は朝からご機嫌だった。
朝、登園時に壱月がお迎えにくる旨を姉に伝え、仕事へ。
それから今日は一日中、ソワソワしながら仕事を終えた。
「あれ、店長。いつもは終業後ダッシュで帰るのに」
引き継ぎを終えた水瀬が、休憩室の椅子に座ったままの私に声をかけてくる。
いつもは参加しないから、居酒屋の場所がわからないと壮馬に伝えると、店まで迎えに来てくれると連絡があったのだ。
「ダッシュしてるつもりはないんだけど」
「そうなんですか? いつも必死の形相ですよ?」
水瀬の返答に、ああ、そうなんだと思いながら、いつもの様子を思い浮かべる。すると、つい苦笑いがこぼれた。
言われてみれば、ダッシュしているかもしれない。
だが今度は、壱月はちゃんと花斗のお迎えに間に合ったかな、なんて急に不安になってくる。
「今日はこの後予定があるんだ」
落ち着かない気持ちを誤魔化すようにそう告げると、「へえ、珍しい〜」なんて言いながら、水瀬が売り場へ出ていく。
それとほぼ同時に、休憩室の扉がノックされた。
「お待たせ、大木本さん」
笑顔で現れた壮馬に、違う意味でソワソワし始める。
同期での飲み会なんて久しぶりだ。
壮馬以外の同期に会うのだって、花斗が生まれてからはそんなにない。
立ち上がると、ぶるりと体が震えてしまった。
「ははっ、緊張してる」
「してない!」
思わず言い返すと、壮馬は「ごめんごめん」と笑う。そんな壮馬に連れられ、私は店舗を出た。
*
壮馬が連れてきてくれたのは、駅前の居酒屋だ。
中に入るとすぐ、奥からこちらに大きく手を振る女性の姿が見える。彼女も、同期のひとりだ。
「真田さーん!」
彼女は隣の私にも気がついたようで、こちらにニコっと微笑む。
「わあ、大木本さんだぁ! 本当に来てくれた!」
近くに行くと「久しぶり!」とみんなが盛大に歓迎してくれて、私はほう、と安堵の息をついた。
「息子くん、元気?」
「うん」
申し訳ないなあと思いつつ、そう答える。だが彼女は笑みを浮かべたまま、続けた。
「そっかぁ、会いたかったな」
「え?」
「全っ然連れてきてくれて構わないのに、大木本さん遠慮するから~」
そんな言葉に、つい目を見開く。
「えええー、そうだったの!?」
「そうそう。帰る時間も、もうマチマチだし。家庭ある人も多いしね~」
全然知らなかった。
けれど、私たちももうそういう年頃なんだ。
「二十九だもんね……」
「そうなのよ! それに私、先輩に色々アドバイス聞きたいんだから!」
先輩?と首を傾げたが、彼女はそっと目線を下げ、自身のお腹を愛でる。
「……もしかして」
「全然見えないけどね、実は妊娠五ヶ月なの」
嬉しそうに話す彼女に、自然に笑みがこぼれる。
「へぇ、おめでとう!!」
その言葉が自然にあふれてから、あの頃の私には、みんな気を遣ってこんな言葉かけてこなかったなぁ、なんて思い出して、苦笑がこぼれた。
「息子くん、何歳になった?」
「今、三歳。絶賛イヤイヤ期でさ」
ため息交じりに答えると、彼女が言う。
「そうなんだ、聞いたことあるよ。なんでもイヤイヤー!ってなっちゃう時期だよね。スーパーで床に寝そべって動かないとか……ちょっとかわいいよね」
「まあ、そんな感じ」
ふふっと苦笑いがこぼれた。
世間のイメージからしたら、イヤイヤはかわいいものなのかもしれない。親になって初めて、その心のダメージの大きさを知った。
だけど、今はそれも愛しく感じてしまう。きっと、壱月と出会って、少しずつ悩みを共有してくれるからだろう。
頬が緩んでしまい、なんとなく気恥ずかしくなる。私はそれを誤魔化すように、口を開いた。
「そっちは? 性別とか、もうわかってるの?」
「たぶん、女の子」
「そっかぁ、女の子いいね! 比較的落ち着いてて、大人しいって聞くよ? 一姫二太郎って言うくらいだから、上の子はやっぱり女の子の方が育てやすいのかもね!」
「羨ましいな」なんて話をしていると、頼んだオレンジジュースを壮馬が持ってきた。
「はい、愛音の」
「ありがとう」
受け取ると、壮馬は私の隣に腰かける。
そして、自身のジョッキを私に向かって突き出した。
「俺らだけまだ乾杯してないからさ」
「うん、乾杯」
そう言ってグラスを合わせると、反対隣にいた同期もジョッキを付き出してきた。
「大木本さん、私もー」
「俺もー」
どんどんと集まってくる同期、乾杯の嵐。
なんだろう、この胸の温かくなる感じ。
「モテモテだな、愛音」
壮馬が耳元でそう言って、クスッと笑った。
コメント
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お疲れ様、朝永ゆうりさん! 第42話読んだわ。 愛音が久しぶりに同期との飲み会に行く話、めっちゃ良かった。保育園のお迎えを壱月に任せてホッとしてるのが伝わってくるし、同期の真田さんが妊娠してて「先輩にアドバイス聞きたい」って言ってくるシーン、じんわり来たわ。あの頃の自分には誰も気遣ってそんなこと言わなかったんだな、って振り返る愛音の心境がリアルで刺さる。 壮馬が「モテモテだな、愛音」って耳元で笑うのも、同期の距離感が絶妙でグッときた。続き気になるわ🔥