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第13話 さらば。
「ふざけないで……全部あんたのせいよ!」
光希の腹が刺された。
「光希さんっ!!」
佳代が叫ぶ。
その瞬間、彼女の中で何かが崩れ落ちる音がした。
「やめてええええツ!!」
全身から迸る衝動が佳代を包み込む。
彼女の足元に黒い様が広がり、空気が熱を帯びて震える。
だが、制はできない。
彼女の内に眠る”本能”が、怒りと共に牙を剥いた。
「やっ…..ううっ、ああああ!」
暴走は始まった。
蒼い炎のような気が辺りを覆い、木々を焼き、瓦礫を砕く。
安東ですらわずかに後退し、その顔に驚愕の色が浮かぶ。
「これが……本物の、悪魔の力…..?」
「佳代!落ち着け…僕は無事だ。
お前がそんなふうになるのを…..見たくない」
倒れたまま、光希が力を振り絞って呼びかける。
血に染まった彼の手が佳代に伸びる。
けれど、佳代の瞳は、もはや彼を映してはいなかった。
「…..やめてよ、やめてよおおおおおおお!!」
爆発にも似た衝撃と共に、周囲が赤黒い光に包まれたーー
「うっ…..くそっ、動け!」
日向は崩れ落ちた瓦礫の中から、歯を食いしばって立ち上がる。
背中には安東との戦闘で受けた深い裂傷が走り、呼吸ひとつにも痛みが付きまとう。
それでも一一仲間を止めなきゃいけない。
「佳代っ、目を覚ませぇえッ!!」
叫びは届かない。
暴走した佳代の身体を包む黒い気は、彼女の感情も記憶も、すべてを塗り潰しているかのようだった。
圧倒的な魔力の奔流が周囲を吹き飛ばし、木々が燃え、地面は裂ける。
救護班の実里と蒼唯が西円寺を庇いながら後退する。
「これ…..私たちの力じゃ抑えきれない……!」
実里の声が震える。
目の前で、あの優しかった佳代が、まるで別人のように無差別に破壊を繰り返していた。
そのとき、銃声が響いた。
「頭冷やせ、佳代!」
第4部隊の林が、冷静に距離を計って放った麻連弾が佳代の脚を撃ち抜く。
だが、その瞬間、気が弾丸を飲み込んだ。
「効かない……!?あれが悪魔の血ってやつか……!」
林が舌打ちをしたとき、佳代の手が虚空に浮かび上がった術式を握り、鋭利な刃と化して日向へと向かって放たれる。
「ッ……日向!!」
光希が叫ぶ。だが、日向はその刃を正面から受け止めた。
「お前が……こんなことで終わってどうする!」
切り裂かれた腕から血が噴き出す。
それでも、日向は一歩、また一歩と佳代に近づく。
「お前の中にある怒りも、悲しみも、全部….わかってやれる仲間が、ここにいるだろ……!」
佳代の目がわずかに揺れる。
けれど、その時一ー
「うわぁぁぁあっ!!」
佳代が爆発するように力を放ち、日向を吹き飛ばす。
その体が大地に叩きつけられると同時に、血飛が弧を描いた。
「日向ッ!!」
西円寺が悲鳴を上げる。
だがその刹那、光希が、立っていた。
「…..もう、いい」
足元が震える。それでも、彼は刀を抜き、佳代の前に立った。
「これ以上……仲間を傷つけるなら、俺がお前を止める」
「ーーツ!」
でも、西円寺は反論した。
「光希!
あんたその傷で戦ったら…死ぬよ!?」
佳代の黒い気が、刃のように伸びる。
「っ、危ないっ!」
光希はそれを一閃、真っ向から切り裂いた。
そして、その瞬間光希から大量の血が流れ落ちた。
「やっぱりー、」
「いい、いく。」
「帰ってこい。佳代。」
「光希さん…?」
佳代は視界がぐにゃりと歪んだ。
頭の奥がずきんと痛む。
「ーーうっ……」
佳代はよろめき、地面に崩れ落ちる。
黒い気が徐々に消え、代わりに涙が頬を伝った。
光希は佳代を安全な場所に連れて行った。
「もう大丈夫。一人にしてごめん…。…..よく、戻ってきたな」
光希も佳代もボロボロだった。
光希はその場で倒れた。
すぐに緊急搬送された。
もう安東はその場から消えていた。
でも、そのことよりも仲間を救い出せたことにみんなは歓喜の声を上げた。
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