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第14話 新たな一歩
あの日から、三日が経った。
戦場だった横浜の一角は、まだ完全には復興していない。
第一、第四、第五部隊は療養棟に戻り、それぞれが深い傷を癒していた。
負傷者の多さ、そして安東の裏切り一一組織はざわつき、落ち着かない日々が続いていた。
療養棟・第一区画、特別個室。
光希はベッドに横たわっていた。
腹部には厚い包帯が巻かれ、その上から防御用の簡易装具がつけられている。
蒼唯の治癒術と医療班の手当てにより命に別状はないが、深く抉られた傷はまだ完治には遠い。
「…..あれから、大丈夫?
傷の具合は?」
その声は柔らかくも、奥に痛みを含んでいた。
相当の深傷を負ったらしい。
「はい……」
佳代はベッドの横に立っていた。
いつもとは違い、落ち着いたグレーの療養服。
両手をぎゅっと握りしめて、言葉を探している。
「ほんとに、ごめんなさい。…..光希さんを傷つけて、日向さんまで…..」
「….謝らなくていい」
どんなに深傷を負っていても光希の目は、相変わらずまっすぐだった。
「お前が悪いんじゃない。術の影響だったってわかってる」
「でも……!あのとき、頭の中、真っ黒で…..止めようとしても止まらなくて…..!
私、また誰かを傷つけるかもしれない。そしたら……」
佳代は言葉を飲み込んだ。
泣きたくなかった。でも声が震えるのを抑えきれない。
「そしたら、光希さんは、また私を止めてくれますか?」
静かに問いかけると、光希はほんの少し目を細め、答えた。
「もちろん。…..何度でも、俺が止める」
「……!」
「お前が、どれだけ暴れても、どれだけ壊れても一ー僕は絶対に、お前を見捨てない。
なんせ、佳代は僕の舞台の一員だから。」
その言葉は、まるで鎖を解く鍵のようだった。
佳代の目に、ぼろりと涙がこぼれる。
「……ひとりじゃ、ないんですね」
「うん。」
光希は、口元をわずかに緩めた。
「佳代には仲間がいる。
僕も、日向も、西円寺も、好葉たち救護班も…..みんなお前のことを、必要としてる」
「…..はい」
佳代は何度もうなずいた。
しばらく、二人の間に言葉はなかった。
ただ、ゆっくりと流れる時間の中で、どこか張りつめていた心の糸が、少しだけほどけていく。
その穏やかな時間の中で、光希がポツリと呟いた。
「…..それにしても、僕、動けなくなってるってのに、藤原さんに『来週には隊に復帰するように』って言われてさ〜」
「え!?は、早すぎませんか!?」
「…..だよな。正直驚いた。」
「まあ、でも一番最初は会議って言われてるからまだマシ。」
光希がため息をついた。
そんな、なんでもないやり取りに、佳代は初めて、クスッと笑った。
その小さな笑い声に、光希も微かに笑みを返した。
この静けさの中で、二人の絆は確かに深まっていた。
次の日。
司令部。
緊迫した空気が張り詰める中、佳代は各部隊の面々とともに中央の円卓を囲んでいた。
そこには機関の長,藤原もいた。
「今からー。」藤原が話し始めた。会議が始まる。