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付き合い始めて、一週間。
ふたりの関係は、誰にも言っていなかった。
いるまは「言ってもいい」と言ったけど、ひまなつが「面倒だから秘密な」と譲らなかった。
大学では、今まで通り。ただの“なんとなく一緒にいるやつら”で通している。
だけど――
「……でさ、そのゼミの先輩、めっちゃ優しくてさ。ノートも見せてくれて――」
「ふーん」
「なにその反応」
「べつに?」
「……おい、いるま」
昼休み、学食。ふたりきりではない。サークル仲間と一緒のテーブル。いるまはスマホをいじりながら、ひまなつの話にほとんど反応しない。
(……あきらかに不機嫌じゃん)
さっき話していた「ゼミの先輩」は男。
内容はただの勉強の相談。でも――
(……嫉妬してんのか、コイツ)
それに気づいて、ひまなつはなぜかちょっとだけ嬉しくなった。
その夜。サークル終わり、ふたりきりになった階段の踊り場。周りに誰もいないのを確認して、ひまなつは言った。
「なあ、いるま」
「……なに」
「さっきからずっとムスッとしてんな。……ゼミの先輩の話、気にしてんの?」
「別に」
「うわ、超わかりやすい。嫉妬?」
「してねぇつってんだろ」
「嘘つけ。おまえ、わかりやす過ぎんだよ」
挑発するような笑い声を聞いて、いるまはついに顔を上げた。その目が、真っ直ぐひまなつを射抜く。
「……じゃあ聞くけどさ」
「ん?」
「おまえは、俺以外とLINEすんな。話すな。笑うな。そう言ったら、守る?」
「……っ」
「俺以外に、目向けるなって言ったら、おまえ、ちゃんと従う?」
ひまなつの胸がドクンと跳ねた。
その目は、冗談じゃない。いるまの奥にある、本気の独占欲がにじんでいた。
「……おまえってさ、いつも強気で余裕ぶってるクセに、そういうとこだけ子どもだよな」
「答えろよ」
「……わかったよ。守る。俺の彼氏、めんどくさいくらいヤキモチ妬くやつだしな。でも学校なんだから最低限の会話くらいはさせろよ。」
「……言ったな?」
「言ったよ。だから、ちょっとくらい安心しろよ、バカ」
その一言に、いるまの表情がやっと緩んだ。
ほんの数秒後、ひまなつは壁に押しつけられ、強引にキスを奪われる。
「っ……おい、ここ階段……っ!」
「誰も来ねぇよ」
「ばっ……ほんとバカ……!」
「大丈夫。バカはおまえしか見てねぇから」
くすぐったいほど熱い声と、優しいキス。
嫉妬の向こうにある“好き”が、ちゃんと伝わってくる。
秘密の関係は、確かに面倒で、めんどくさくて、でも。
ふたりの間には、もう確かな想いがあった。