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2週間が経ったある日のこと。
「あいつと何話してたんだよ」
突然の言葉に、ひまなつは立ち止まった。
キャンパスの裏手。人通りの少ない場所で、いるまの目は真っ直ぐだった。
だがその奥にあるのは、いつもの余裕じゃない。
――焦りと、不安、そして嫉妬。
「は? 何いって……」
「この前話してただろ。待ち合わせだとか、なんとか」
「……っ、全部ゼミ関係だよ」
「それ、本当に“だけ”か?」
言葉が鋭く刺さる。
(信じられてない……?)
「……何それ。俺が浮気してるって疑ってんの?」
「……違う、けど……俺、おまえのこと、好きすぎて……。自信、ねぇんだよ」
一瞬、鼓動が止まった気がした。
いるまが――あの強気で、自信家で、誰より余裕のあるいるまが、いま、震えている。
「おまえって、誰とでも話せるし、愛想いいし。俺といるときより、楽しそうに笑ってんの見たら、……わけわかんなくなる」
「……バカじゃねぇの」
「……は?」
「自信ねぇとか、俺に言ってんなよ。こっちはずっと……おまえの目ばっか追ってんのに」
「なつ……」
「俺だって、めっちゃ不安だったよ。なのにおまえはいつも余裕ぶってて……それが、ムカついて……」
気づけば、拳をぎゅっと握っていた。
でももう、意地を張るのがバカらしかった。
「……俺、浮気なんてするわけねぇだろ。おまえが好きで……怖くて……でも、大事にしたいって思ってんのに」
その瞬間、強く抱きしめられた。
「……ごめん。俺が悪かった。信じてやれなかった」
「……もういいよ。ちゃんと、伝わったから」
ふたりの距離は、心からも、身体からも、もう逃げられないくらい近くなっていた。
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【その夜】
いるまの部屋。
再び重なるであろう身体。けれど今回は、まったく違っていた。
「……手、震えてるな」
「……悪ぃ、ずっと……怖かったから」
「……俺のほうが怖かったわ」
「……おいで、こっち来いよ」
ベッドの端に腰掛けたいるまが、優しく手を伸ばす。
その指先を見ているだけで、ひまなつの心臓が跳ねる。
(こんなに、触れられたかったなんて)
言葉なんかいらない。
ゆっくりと近づいて、そっと抱きついた瞬間、いるまの腕が強く、でも優しく背中を抱きしめた。
「……ほんとに、好きだからな」
その低い声が、耳元に落ちる。
心に火がつくように、全身が熱くなる。
キスは深く、呼吸を奪うほどに。
舌先が絡まり、濡れた音が静かな部屋に響く。
ひまなつは、されるがままじゃなかった。
むしろ、じっとしていられないほど、熱を持て余していた。
「……もっと、くっつきたい……」
「我慢すんな。欲しいなら、ちゃんと伝えて?」
「……ほしい、いるまの全部……」
言った瞬間、服を脱がされる感覚。
肌と肌が重なって、ぴったりとくっつく。
少し冷たい指が、背中をなぞるたびに、震えが走った。
「……なつ、めっちゃ綺麗……」
「な、バカ……見んな……っ」
「見る。今日だけじゃねぇ。これから何回でも」
囁くような声。熱っぽい吐息。
いるまのキスはどこまでも深くて、意地悪なくせに、誰より優しい。
肌をなぞる指、熱を与える唇、耳元で名前を呼ばれるたびに、ひまなつの理性はとろけていった。
「……はぁ……っ、や、っ……気持ち、いい、のに……泣きそう……」
「泣いてもいいよ。ちゃんと、俺が抱きしめてるからな」
いるまの動きがひまなつの中に静かに、でも確かに入り込んでくる。
それは重く、逃げ場のない圧迫感を伴っていて、ひまなつは思わず息を呑んだ。
「……っ」
声にならない声が漏れる。
身体はぎゅっと緊張しながらも、いるまの熱に溶かされていく。
「大丈夫、怖くないからな」
いるまの低く優しい囁きが耳元で響く。
その言葉が、焦りを少しだけ和らげ、ひまなつの心に静かな安心を灯す。
いるまの動きが、ひまなつの内側を満たしながらも、時に強く締めつけていく。
身体の奥で圧迫感が波のように押し寄せ、ひまなつはその感触に思わず声を漏らす。
「……っ、あぁ……いるま……」
熱い吐息が震え、心臓が早鐘のように打つ。
手のひらがベッドのシーツをぎゅっと握り締め、足先までじわじわと震えが走る。
だが、圧迫される感覚は時に強く、ひまなつは小さく眉を寄せて顔を歪めた。
戸惑いと切なさが混ざった複雑な思いが胸を締めつける。
「怖いなら言え。無理すんなよ」
いるまの低い声が、揺れる心を捕まえる。
ひまなつは目を伏せ、息を整えながらも体を預ける。
「……怖いけど……離れたくない」
声はかすれ、震えていた。
身体は熱く燃えながらも、戸惑いの波に揺れていた。
いるまの動きは緩急を織り交ぜ、強く締め付ける瞬間と優しく包み込む瞬間を絶妙に交互に繰り返す。
そのたびに、ひまなつの全身が反応し、筋肉の奥まで響く快感と、逃げられない圧迫感のせめぎ合いに震えた。
「もっと……深く……」
ひまなつの声は甘く、時に切なく震えながらも求めていた。
涙がひとすじ、頬を伝い落ちる。
いるまはそれをそっとぬぐい、唇を重ねた。
その瞬間、ひまなつの中の不安が溶けていき、ただただ、いるまだけを感じていた。
二人の呼吸は乱れ、時間は静かに溶けていった。
夜の闇に包まれた部屋で、二人はただ互いの存在を確かめ合いながら、深く結ばれた。
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朝の光がカーテンの隙間からそっと差し込み、柔らかなオレンジ色に部屋を染めていた。
ひまなつはゆっくりと目を開けると、隣にいるまの穏やかな寝顔が視界に入った。
「……いるま」
静かに名前を呼ぶと、いるまはまぶたをゆっくりと開けて、眠たげに微笑んだ。
その笑顔は昨夜の濃密な時間を思い出させ、ひまなつの頬がじんわりと熱くなる。
「おはよう、なつ」
声はまだ眠りの中で少しかすれているけれど、どこか優しくて温かかった。
腕の中で感じるぬくもりに、ひまなつは安心し、ゆっくりと身体を寄せる。
「昨日のこと、変じゃなかった?」
ちょっとだけ不安そうに尋ねると、いるまはくすっと笑ってから答えた。
「変じゃねぇよ。俺も、お前も、あれが俺たちの一歩だ」
その言葉にひまなつは胸がじんわりと温かくなり、少しだけ自信が持てた。
ふたりの距離はまだ少しぎこちないけれど、確かに繋がっていることが感じられた。
そっと唇を重ねて、朝の静けさのなかで新しい一日が始まった。