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王立魔法学院の大講堂。その中央の教壇には、水晶が鎮座していた。
触れた者の魔力を吸い上げ、属性と強さを色と数値で映し出す――通称『魔力測定水晶』。
「次、レオン王子殿下!」
「はーい」
名を呼ばれたレオンが、軽やかな足取りで前へ進み出る。そして、水晶へ気だるげに指先を触れさせた――その瞬間。
カッ!!
「わっ!?」
講堂全体が、眩い黄金の光に包まれた。
「な、なんという光魔法の純度……! 測定限界値です!」
教師が驚愕の声を上げる。この国では、魔力の強さは血統に大きく左右される。王族であるレオンが桁外れの魔力を持っているのは、当然といえば当然なのだが――。
「せっかくだし、みんなに入学祝いだよ~」
パチンッ。
レオンが軽快に指を鳴らす。黄金の輝きが、きらきらとした光の粒へ姿を変え、花吹雪のように生徒たちの頭上へ降り注いだ。
「きゃあああっ♡」
「レオン王子殿下、素敵すぎます……!」
「綺麗……!」
黄色い歓声が上がる。当の本人は涼しい顔で、こちらへウインクを飛ばしてきた。
「特に、そこの美しい君にね」
(出たわね、ファンサ過剰王子)
(でも顔面が強すぎるせいで、全部許されてるのが余計に腹立たしいわ……!)
「次、エミリア子爵令嬢」
「はいっ!」
私の隣から、フローラがぴょこんと立ち上がる。そして教壇へ向かう途中、くるりと振り返った。
「ビビお姉さま!」
「ん? 頑張ってね!」
「はいっ! 私のお姉さまへの愛……しっかり見届けてくださいねっ♡」
「えっ?」
(これ、ただの魔力測定よね!?)
フローラが両手で水晶を包み込む。
次の瞬間――。
ブワッ!!
目にも鮮やかな緑の光が、講堂いっぱいに広がった。無数の小さな精霊たちまで姿を現し、フローラの周囲を飛び回る。
「こ、こちらも最高値……!」
「わずか17歳でこの魔力量とは……!」
「さすが飛び級の特待生だ!」
講堂中がどよめいた。
「ビビお姉さまーっ!」
測定を終えたフローラが、満面の笑みで私のもとへ駆け戻ってくる。
「どうでしたか!?」
「す、すごかったわよ! さすが私の推し……じゃなくて、さすがフローラね!」
「……っ!」
ぱあああっ、と顔が輝いた。
「お姉さまに褒めていただけるなんて……生きててよかったですっ♡」
「大げさよ!」
「次――ウィステリア伯爵令嬢」
来た。ついに、私の番だ。周囲から、値踏みするような視線が一斉に突き刺さる。私は制服のスカートを整え、教壇へ進み出た。深呼吸を一つ。水晶へ、そっと右手を添える。
「…………」
シーン……。
水を打ったように、講堂が静まり返った。水晶は光らないし色も変わらない。数値すら――出ない。教師が眼鏡を正し、何度も結果を確認した。
「……魔力、ゼロ」
ざわっ……!
「測定不能ではなく――皆無」
直後。
「あははっ!」
笑い声が上がった。
「やっぱり『無能令嬢』って噂は本当だったのね」
「魔法学院に何しに来たのかしら?」
「ベルシュタイン公爵の婚約者なのに、魔力ゼロだなんて……」
「ただのお飾りじゃない!」
嘲笑が講堂中に広がっていく。
「…………」
私は俯いた。ぎゅっと拳を握りしめ、肩を震わせる。
(……くっ)
(笑っちゃ駄目……!)
(笑っちゃ駄目よ、バイオレッタ!!)
周囲からは、屈辱に震えているように見えるだろう。けれど、私の内心は――。
(無能認定、よっしゃあああああ!!)
(魔力至上主義の貴族社会で、魔力ゼロの公爵夫人なんて前代未聞!)
(これでアレクも『こんな無能な女はいらん!』って愛想を尽かすはず!)
婚約破棄して処刑フラグ消滅。原作のバイオレッタは、魔力ゼロと蔑まれる一方、天才特待生として称賛されるフローラを妬み、嫌がらせをエスカレートさせていく。でも、私は違う。
(魔力ゼロ!? むしろ大歓迎よ!!)
その時だった。
ガタンッ!!
最前列の椅子が、派手な音を立てて倒れた。
「……おい」
それだけで、さっきまで騒がしかった講堂の空気が凍りついた。
「今、バイオレッタを笑ったのは――どこのどいつだ?」
「――――っ!?」
さっきまで笑っていた生徒たちの顔から、一斉に血の気が引いた。
(えっ!?)
(ちょ、ちょっと待って!)
(なんであなたがブチギレてんのよ!?)
アレクはそのまま教壇へ向かい、私の隣に立った。
「ベ、ベルシュタイン公爵……!」
怯えきった教師がおそるおそる声をかける。
「こ、公爵の測定は次ですので、席にお戻り――」
ギロリ。
「ひっ……!」
教師は最後まで言えなかった。
(怖っ!!)
アレクは無言のまま、水晶へ手を乗せる。
パチッ。バチッ……!
不穏な破裂音とともに、赤黒い火花が散った。次の瞬間――。
ドゴオオオオオオッ!!
「なっ!?」
赤黒い魔力が、巨大な獣のように噴き上がった。
「な、なんだこの魔力量は……!?」
「そ、測定値が上限を振り切ってるぞ!?」
メキッ。
「え?」
バキバキバキバキッ!!水晶の表面へ、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。
「ひ、ひぃぃぃっ!?」
「水晶が魔力に耐えきれない! 全員伏せろーーーっ!!」
ドガーーーーンッ!!
魔力水晶が、粉々に砕け散った。
「きゃあっ!」
無数の破片が、きらきらと宙を舞う。
その瞬間。バサッ!
「……っ」
目の前が黒い布で覆われた。アレクのマントだ。
彼は私を庇い、降り注ぐ破片から守っていた。そして眉一つ動かさず、先ほどまで笑っていた生徒たちを一瞥する。
「魔力があるかないかなど――人の価値には何の関係もない。二度と、俺のバイオレッタを侮辱するな」
「…………っ!!」
(いやいやいやいや!!)
(なんで私を全力で庇ってんのよーーーっ!?)
魔力ゼロ。無能認定。これで婚約破棄へ一直線――のはずだったのに。
(これじゃ婚約破棄どころか――)
(外堀コンクリート埋め立て工事じゃないのーーーっ!!)
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