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時間を、少し前に巻き戻す。
「次、レオン王子殿下」
教師の声に、レオンがマントを翻して前に出た。彼が水晶に触れた瞬間――。 講堂全体がホワイトアウトするほどの、眩い黄金の光が溢れ出した。神々しく、そして暴力的なまでの輝き。
「ひっ……! なんという光魔法の純度……。そ、測定限界値です!」
この世界において、魔力は血の濃さと身分に比例する。 王族を頂点とし、その血縁が近ければ近いほど、魔力は絶対的な力を持つのだ。
(王子であるレオンが、生まれながらに「測定限界値」なのは摂理なのよね)
周囲からは感嘆の声が漏れた。レオンは余裕の笑みを崩さず、さらに指先を優雅に弾いて光の粒子を雪のように降らせてみせた。
「皆に僕からのプレゼントだよ。……特に、そこの美しい君にね」
レオンは完璧なウィンクをしてみせた。
(……出たわね、ファンサービス過剰なチャラ王子。でも顔面偏差値優勝レベルだから嫌味が一切ないのが腹立たしいわ!)
続いて、フローラが凛とした足取りで教卓へ歩み寄った。
「ビビお姉さま……見ていてくださいね。私の、お姉さまへの愛を……っ」
彼女が水晶に触れた瞬間、無数の緑の精霊が集まり、幻想的なエメラルドの光を放った。
「こちらも最高レベル! 特待生の噂は本物か!」
――そして、私の「魔力ゼロ」という結果を経て、今に至る。
「お前たち、よほど命が惜しくないと見えるな」
アレクが水晶に触れた瞬間、パチリ、と鼓膜を刺すような不穏な音が響いた。
それはすべてを飲み込み、光さえも焼き尽くす赤黒い炎。この国の『身分=魔力』という掟を、圧倒的な破壊力で凌駕する――王国史上最強の、戦闘特化型闇魔法だ。
王族すら凌駕するその闇魔法の力ゆえに、アレクは幼い頃から先代公爵と共に、国王の『猟犬』として戦争や魔物討伐の最前線へと駆り出されてきた。
敵を圧倒的な力で、跡形もなく焼き尽くすことから、いつしか人々は彼を――人の皮を被った怪物、『野獣公爵』と呼ぶようになったのである。
周囲の生徒たちが、ヒッ、と短い悲鳴を上げて後ずさる。私を嘲笑っていた生徒たちの顔から、血の気が引いていた。
バキィッ……バキバキバキッ!!
「ひ、避難しろ! 水晶が耐えきれない!!」
ドォォォォン!!
凄まじい爆発音と共に、最高硬度の魔法水晶が粉々に砕け散った。アレクは、呆然とする私の肩を強く抱き寄せた。
「……測定不能だ。バイオレッタに魔力がないのではない。この程度の器では、お前の価値を測りきれなかっただけだ」
(いやいやいや! 無茶苦茶よ! 水晶を物理的に壊したら評価も何もないじゃない!!)
周囲を見渡すと、レオンとフローラの瞳にも不穏な光が宿っていた。
「あはは、面白いねえ。そんなに派手に壊しちゃって」
レオンの背後に、光が弓矢のように形を変え、攻撃的な威圧感が立ち昇る。
「……お姉さまを笑った下衆な者たち。今すぐ私が全部『お掃除』して差し上げますね?」
フローラの精霊が巨大な茨に変貌し、周囲を威嚇し始める。
(ちょっとみんな!! 私は大丈夫だから! 誰かこの連鎖を止めて!!)
「み、皆の者、静粛に!!」
教師の叫びを遮るように、レオンが楽しそうに指を鳴らした。
彼の手元から溢れた光が、磁石に吸い寄せられるように破片に集まる。逆再生の映像のように、水晶が元通りに組み上がっていった。
「……流石は、レオン殿下」
「なんて強力な再生魔法……」
周囲がうっとりと見惚れる中、レオンは髪をさらりとなびかせ、困ったように笑った。
「僕の光魔法は生物は治せないんだけど、大抵の『モノ』なら元通りにできるんだ。……形があるものなら、ね」
彼は女子生徒たちに視線を送る。
「もしみんなも大事なものを壊して困ってたら、いつでも僕のところへ持っておいで?いつでも直してあげるから」
「キャアアアア!! カッコいい!!」
「殿下ぁ! 私のブローチも見てくださいっ♡」
「ちょっと私が先よ!」
「抜け駆けは許さないんだから!」
(さすが……一瞬で空気をハックしたわね)
その後、黒板に「寮の部屋割り」が魔法の文字で浮かび上がった。
(魔力ゼロの私は、一番端っこのボロい寮に放り込まれるはず。そこなら、面倒な公爵からもおさらばよ!)
私が勝利の笑みを浮かべようとした、その時。
「バイオレッタ、君の部屋、まだ決まってないんだって?」
背後からレオンが距離を詰め、私の耳元で囁いた。
「僕の王族用特別室はさ、広すぎて部屋が余ってるんだよね。寂しいからおいでよ。君専用の部屋も、とびきり可愛いドレスも、今すぐ用意させるからさ」
(……はあああ!? なんで当たり前のように同棲に誘ってんのよ!! あんたの相手はヒロインのフローラでしょーー!!)
「……ふざけるな、レオン」
アレクの声が響く。
「バイオレッタは俺の婚約者だ。当然、俺と同じ部屋にする」
#溺愛