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#溺愛
「公爵邸から専属使用人も既に呼び寄せた。お前のサイズに合わせた最新のドレスも、クローゼットに並べさせてある」
彼は私の肩をレオンから奪い取るようにして、強引に引き寄せた。
(ちょっと待って。いつの間にサイズ調べたのよ!? 仕事が早すぎるっていうか、準備が良すぎて逆に怖いわよ!!)
私の脳内アラームが、平穏な余生(隠居生活)の崩壊を告げる警報をガンガン鳴らしていた、その時。
「王子殿下、公爵様……。淑女を殿方の部屋に入れるなんて、正気ですか?」
不意に、私の反対側の腕に柔らかく、けれど逃がさないという強い意志を持った感触が絡みついた。フローラだ。彼女は冷え切った――もはや絶対零度と言ってもいい眼差しで男二人を射抜き、私の肩にそっと、愛おしげに頭を預けた。
「ビビお姉さまは、魔力が皆無……。つまり、外部の魔力干渉に一番弱い、繊細な状態なんです。私の精霊魔法で、つきっきりのケアが必要なんですっ」
(あれ? フローラの目がちょっと……いえ、かなり据わっている気が? 気のせいよね? 私への姉妹愛が強すぎて、ちょっと目力が強くなっちゃっただけよね?)
「……そこで、学院側と協議したんです!ねえ、先生?」
フローラに促され、脂汗を流した教師がガタガタと膝を震わせながら前に出た。その顔は真っ白で、まるで今から断頭台に上る囚人のようだ。
「あ、ああ……。バイオレッタの魔力ゼロという特異な体質を考慮し、魔力の安定を図るため……女子寮で最高レベルの魔力を持つフローラと『同室』にすることを決定した!」
(ええっ!? フローラと同室!? 推しと同じ部屋なんて最高の贅沢じゃないの!!)
教師は、私の視線を避けるように虚空を見つめ、震える声で付け加えた。
「フローラから……非常に熱心な……学院の将来を憂いた相談(物理的な脅迫)をいただきましてな…………」
【以下、教師の脳内にフラッシュバックする、恐怖の記憶】
フローラ: 「もしビビお姉さまと離れ離れになったら……私、ショックのあまり魔獣狩猟大会(コンテスト)にはとても参加できませんっ……優勝候補の私が出られないとなると学園の予算も削られて、先生の進退に関わるかもしれませんね♡」
フローラ: 「もし同室を認めていただけないのなら、魔力が暴走して、この教室どころか先生まで亡き者にしてしまうかもしれません♡」
(フローラ……! 魔力ゼロの私のことも学院の将来のことも考えて、わざわざ先生に相談するなんて。なんて心優しい子なのかしら! 先生も彼女のあまりの思いやりの深さに感動して、あんなに震えているのね。わかるわ先生。推しが尊すぎて感動のあまり涙が出るその気持ち、痛いほどわかるわ!!)
「――ビビお姉さまと、朝から晩まで、寝る時もずっと一緒なんて。フローラ、とっても幸せですっ……♡」
フローラは私の首筋に顔を埋め、うっとりと頬を染めている。こんなふうに本当の妹みたいに懐かれたら、もうダメだ。
「もう、可愛い……可愛すぎよ♡」
気づけばそんな言葉が漏れ、私は彼女のふわふわの髪をなでていた。
「くそっ! おい、その決定は不当だ!!」
「ふーん。特待生ちゃん、なかなかやるじゃん……」
アレクの怒号と、レオンの目が笑っていない笑い。 そんな二人を、フローラはバイオレッタに見えない絶妙な角度で、「しっ、しっ」と汚物でも追い払うような手つきで挑発した。
***
その日の夜。女子寮棟の影に、二人の男──アレクとレオンが潜んでいた。見上げる先は、最上階。バイオレッタとフローラがいる部屋だ。普段はバイオレッタを巡って犬猿の仲であるはずの二人だが、今、その見解は完全一致していた。
「……あの女、フローラは危険だ」
アレクが低く唸る。
「……あれ、完全に独占スイッチ入ってたよねえ」
レオンも珍しくいつもの余裕の笑みを消している。
今日の昼間の光景が、二人の脳裏に消えないトラウマとして焼き付いていた。
学院の食堂併設のカフェで、一つのタピオカミルクティーを「間接キス」をものともせず二人が交互に回し飲みしたこと。
そして何より――中庭の芝生で、フローラがバイオレッタの膝に顔を埋め、よしよしと撫でられながら、「これ以上近づいたら殺す」と言わんばかりの冷徹な瞳で自分たちを睨みつけていたこと。
「……このまま放っておけば、何をするか分からん」
「うん。普通に危ないよね」
短い沈黙の後、二人はほぼ同時に口を開いた。
「――行くぞ」
「――行こっか」
アレクが壁に手をかけると、レオンが軽く笑った。
「女子寮に侵入とか、普通ならアウトなんだけどね」
「黙れ」
闇と光――決して交わることのないはずの正反対の属性の魔法を無理やり共鳴させながら、二人は女子寮の壁をよじ登り始めた。
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