テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
花月夜れん
2,246
ひより
5,242
#主人公最強
伊織
41
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
5,644
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
粉々になった魔力測定水晶を前に、講堂は静まり返っていた。
「まったく……派手に壊したねえ」
レオンが呆れたように肩をすくめる。いつもの爽やかな笑顔。だがその背後では――。
黄金の光が、鋭い矢のように形を変えていた。
「僕もさ。バイオレッタを笑った人たちには、ちょっと言いたいことがあるんだけど」
「ひっ……!」
さっきまで笑っていた生徒たちが、さらに青ざめる。
「……私も同感です」
今度はフローラ。さっきまで可愛らしく飛び回っていた精霊たちが、巨大な茨へ姿を変えた。
「ビビお姉さまを笑った方々……」
スッ――。瞳から、ハイライトが消える。
「今すぐ私が、まとめて綺麗に『お掃除』して差し上げましょうか?♡」
「ひぃっ!?」
(ちょっと待って待って!!)
(なんで本人より周りがブチギレて治安悪化させてんのよーーーっ!?)
「み、皆の者! 静粛にーーっ!!」
教師の悲鳴にも似た声を遮るように、レオンが軽快にパチンッと指を鳴らした。
キィン――。
「え?」
床に散らばっていた水晶の破片が、黄金の光に包まれる。
破片は次々と宙へ浮かび――。
カチッ。カチカチカチッ!
まるで映像を逆再生するように、元の水晶へ戻っていった。
「おお……!」
「なんて強力な修復魔法……!」
「さすがレオン王子殿下!」
講堂の空気が、一瞬で変わった。
「僕の光魔法じゃ、人の傷は治せないんだけどね」
レオンがさらりと髪をかき上げる。
「でも、壊れたモノを直すのは得意なんだ」
そして生徒たちへ、笑顔を向ける。
「大切なものを壊して困った時は、いつでも僕のところへ持っておいで?」
「きゃああああっ♡」
「レオン殿下、素敵です!」
「私のブローチもお願いしますっ!」
(さすが王子……)
(たった数秒で空気を完全にハックしたわね)
(この鮮やかな人心掌握術……前世で営業成績上位だった私でもとても勝てる気がしないわ)
***
魔力測定が終わると、正面の黒板へ魔法の文字が浮かび上がった。
『新入生・寮部屋割り一覧』
(来たわね!)
私は期待に胸を膨らませる。なんといっても私は――。魔力ゼロ。無能認定を受けたばかり。
(どうせ女子寮の端っこの、目立たない部屋に放り込まれるはず!)
アレクとも物理的な距離を取れる。レオンにも絡まれない。ひっそり静かに暮らしながら、推しのフローラを遠くから愛でる。
(私の勝ち組スローライフが始まったわ!!)
ところが。
「あれ?」
上から下まで何度見ても――。
「……私の名前、ないんだけど?」
「バイオレッタ」
「っ!?」
突然、耳元へ甘い声が落ちてきた。レオンだ。
「君の部屋、まだ決まってないんだって?」
「そ、そうみたいね……」
「じゃあ、ちょうど良かった。僕の王族用特別室においでよ」
「…………は?」
「ワンフロア全部僕の部屋なんだけど、広すぎてさ。使ってない寝室がいくつもあるんだよね」
さらっと、とんでもないことを言いやがった。
「家具もカーテンもドレスも、君の好みに合わせて全部揃えてあげる」
「いらないわよ!!」
(同じフロアで一緒に暮らすってことでしょ!?)
(それもう、ほぼ同棲じゃない!!)
(あんたの相手はフローラでしょうが!!)
「……ふざけるな、レオン」
(うわ)
(今度は別方向から激重の空気が……)
アレクだった。
「バイオレッタは俺の婚約者だ」
「だから?」
「ベルシュタイン家用の特別室へ来い。空いている部屋はある。専属使用人も既に呼び寄せた」
「…………え?」
「お前のサイズに合わせたドレスも、クローゼットへ並べさせた」
「ちょっと待って!?」
(いつ私のサイズ調べたのよ!?)
(仕事が早いっていうか、準備良すぎて逆に怖いわ!!)
「俺のもとへ来い」
「僕のところのほうが何倍も快適だよ?」
「貴様は黙れ」
「嫌だね」
(私の入居希望アンケートはどこへ消えたのよ!?)
平穏な隠居生活崩壊を告げる警報が、脳内でガンガン鳴り響く。その時。
「王子殿下。公爵様」
凛とした声が割って入った。
「淑女を殿方のお部屋へ連れ込もうとなさるなんて……正気ですか?」
二の腕に、ふわりと柔らかい感触が絡みつく。フローラだ。彼女は私の肩へ甘えるように、コテンと頭を預ける。男二人を見据える瞳だけは、完全に凍りついていた。
「ビビお姉さまは、魔力が皆無なんですよ?」
ぎゅっ。
「つまり、外部からの魔力干渉に弱い可能性があります。ですから念のため、私の精霊魔法で朝から晩まで、つきっきりでお守りする必要があるんですっ♡」
(あれ?)
(フローラの目がちょっと……いや、かなり据わっているような……)
でも。
(私のことを、そんなに心配してくれてるのね!)
(なんて姉思いなの、フローラ!!)
「そこで私!」
フローラが誇らしげに胸を張った。
「学院側にも相談しておきました!」
満面の天使スマイルで、教壇の教師を見上げる。
「ねえ、先生?」
「ひぃっ……!?」
教師の肩が、ビクッと跳ね上がった。なぜか額から滝のような脂汗を流し、膝までガクガク震えている。
「あ、ああ……」
教師は引きつった顔で告げた。
「ウィステリア伯爵令嬢については……魔力ゼロという極めて特殊な体質を考慮し……」
「女子寮で最高レベルの魔力を持つエミリア子爵令嬢と――同室にすることを決定した!」
「えええええっ!?」
(フローラと同室!?)
(推しと朝から晩まで一緒に暮らせるってこと!?)
(何それ最高すぎるんだけど!!)
「ビビお姉さま♡」
フローラが私の腕へ、さらにぎゅうっと幸せそうにしがみついてくる。
「これで朝起きた時も、お食事の時も、お勉強する時も……」
ほんのりと頬を染める。
「眠る時まで、ずーっと一緒ですねっ♡」
(かわいいいいいい!!)
一方。教師は今にも失神しそうな顔で呟いていた。
「子爵令嬢から……非常に熱心な相談を受け……学院の経営と将来について、大変深く……深く配慮していただきましてな……」
「まあ!」
(フローラったら!)
(私のことだけじゃなく、学院の将来まで考えてるの!?)
(どこまで有能で立派な妹なのよ!!)
その時。教師の脳裏に――数時間前の恐怖の『相談』が鮮明に蘇っていた。
***
「もし、ビビお姉さまと別の部屋に引き離されるようなことがあれば……」
フローラは長い睫毛を伏せ、悲劇のヒロインのようにため息をついた。
「私、精神的ショックのあまり、今期の『魔獣狩猟大会』への出場を辞退せざるを得ないかもしれません」
「な、なんとっ……!?」
「総合優勝候補の私が欠場すれば、当然、我が校の対外評価にも影響しますよね?」
にこっ。
「そうなれば、次年度の王室からの予算も削減されて……責任者である先生の進退問題にも関わってくるかもしれませんね?♡」
「…………っ!」
「それに」
バチバチバチッ……!!フローラの指先から、緑の魔力が不穏に瞬く。
「お姉さまと引き離された悲しみと絶望で、もし私の魔力が暴走してしまったら……」
パキッ。
「……え?」
目の前にある教師の机へ、小さな亀裂が入った。
「教室どころか、職員室ごと跡形もなく吹き飛んでしまったり……たまたま近くにいた先生まで、巻き添えになってしまったりしたらと思うと……」
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?」
フローラは悲しげに眉尻を下げた。
「私、とっても不安なんです……」
「…………っ!!」
そして両手を胸の前で、祈るように重ねる。聖母のような、この世で最も美しい微笑み。
「ですから――私とビビお姉さまを同室にするのが、みんなにとって一番平和だと思いませんか?♡」
***
「…………」
教師は遠い目をしていた。目元には、うっすら涙まで浮かんでいる。
(分かるわ先生!)
(推しが尊すぎて感動のあまり涙が出るその気持ち、痛いほど分かるわ!!)
「ビビお姉さまと同室なんて……」
フローラが私の肩へ、すりすりと頬を寄せてくる。
「私、幸せすぎて天に昇ってしまいそうです♡」
「もう……」
駄目。可愛すぎる。
「可愛い……可愛すぎよ♡」
「きゃっ♡」
たまらず、フローラのふわふわした髪を優しく撫でる。
「……っ♡」
瞳が、一気に輝いた。
「……くそっ!」
アレクが吐き捨てた。
「その決定は不当だ!」
「ふーん」
レオンは笑みを崩さない。ただし――。目だけは、まったく笑っていなかった。
「特待生ちゃん、随分と用意周到なんだね~」
「ふふっ。何のお話でしょうか?」
フローラは何食わぬ顔で私へ向き直る。
「さあ、行きましょう。ビビお姉さま♡」
「どんなお部屋か楽しみね」
「はいっ」
***
そして――。フローラが一瞬くるりと振り返った。
しっ、しっ。まるで害虫でも追い払うように、男二人へ手を振った。
「…………っ!」
「…………」
アレクのこめかみに青筋が浮かぶ。レオンの笑顔も、ぴくりと引きつった。
当然――。バイオレッタは何ひとつ、気づいていなかった。