コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
※この話に出てくる事件や人物、 学校や団体はフィクションです。
<第1話> メランコリックDAY
「リカ~!髙橋に振られたよ”ぉ”ぉ”」「大西が他の女作ってLINEブロックしやがったよ!!」 終業式の休み時間、私は紗江(さえ)と万里奈(まりな)に縋り泣かれた。 今日はクリスマスだというのに、2人とも、どうやら失恋したようだ。街を出歩くとカップルだらけだろうに、2人にとっては見てるだけでも心が痛めつけられるに違いない。 「リカはいいよね~。顔も性格もいいし。この前は有村に告られてたじゃん!」 流石、「恋愛情報屋」と言われる紗江だ。生徒の恋愛事情なら基本、何でも知っている。男女問わず、彼女に情報を求める生徒はいくらだっている。「○○って俺のこと好きなの?」とか「○○くんのタイプってどんな子なの?」と、休み時間に教室の入り口から飽きるほど聞こえてくる。告白代行も頼まれるから、紗江はちょっと困ってるみたいだけど。紗江に聞くんじゃなくて、自分から告ればいいのに。 「確か振ったんだって?有村イケメンなのに。」 相変わらず万里奈は他人事みたいに呟いた。彼女が面食いなのと、有村さんがイケメンだということ仕方がないが、私にとっては性格が第一だと思う。これは本当に綺麗ごとじゃない。だって私は有村さんの上の名前と容姿しか知らない。どれだけ顔が良くても性格やマナーがきちんとしていなかったら嫌じゃないのかな? いや、”友達”という名の”他人”だから、好き勝手呑気に言いたい放題言えるのだろう。自分にはそんなことが起こらないとか、所詮は他人事だから見て楽しんでいるだけだ。楽しそうだけど実際、自信の身にそんなことがあったら、そこまでいいものと思うことはないだろう。 「もう少しでチャイム鳴るから、次の最後の休み時間話そ。」 「おっけー。次、通知表返されるね。」 紗江と万里奈の恋バナもどきの質問から逃げるように、私は急いで自席に座った。
「日向さん、通知表を返すので廊下に来て下さい。」 担任の寺嶋先生の声に気付き、廊下へ出た。そして成績表を貰い、すぐさま自席へ戻った。先生の顔が笑顔だったので、成績自体は悪くないと思う。通知表を開け、成績の書かれた黒枠を目で追った。
国語は4、数学は4、理科は3、社会は4、英語は3、音楽は5、美術は4、保健体育は4、技術家庭は4。
悪くない。理科と英語は前回、とんでもない成績を叩き出してしまったのでかなりほっとしている。紗江や万里奈の質問責めでもやもやしていた心が快晴になったかのように、パッとした気持ちになった。 「起立、礼、ありがとう御座いました。」という委員長の挨拶が終わり、終業式を行う体育館へ向かう準備を、皆が一斉に始める。私は一人、クラスの誰よりも先に体育館へ向かった。
「賞状、優秀賞、日向リカ殿。あなたは文化絵画コンテストにおいて優秀な成績を修めましたので、ここに記します。平成28年12月25日、文化絵画画家、田中康弘。おめでとう御座います。」 絵画コンクールの表彰式だった。絵を描くのは好きだったけど、上手い方ではないと思っていたが、まさかの優秀賞で嬉しさが抑え切れなかった。後輩・同級生・先輩・先生の拍手が体育館に溢れた。今日はなんていい日なんだろう。自分の座っていたところに戻る時、紗江や万里奈、他クラスの友達が「おめでとう!」って言ってくれたのが、尚更嬉しかった。自然と笑顔になっていたのが、自分でも分かるくらいだった。 「これにて平成28年度、川西市立秋原中学校、終業式を終わります。」 こうしてみると、1年間って本当に短いのだと実感した。なんだか、ちょっとした喪失感もあったような気がした。
そして最後の休み時間、何やら教室の入り口辺りが騒がしかった。私の苦手な部類の女子達が皆で集ってキャーキャー言ったり叫んでいる。 「日向リカさんって、このクラスで合ってますか?」 名前を呼ばれたような気がして、席を立ち、 入り口へと向かった。「あの、日向です。」と、集る女子達の間を、背を少し曲げながらのそのそと通った。 「急にすみません、日向さん。実は日向さんに用事があって来ました。」 私を呼んだ生徒は、学年1のモテ(イケメン)男子・小安さんだった。流石の私も目を合わせるのを躊躇してしまうほど顔が整っている。女子曰く「イケメン・イケボ・高身長の三銃士美男子!」との事だったが、まさにその通りだった。
「それで、用事って?」 私は誰もいない図書室前に誘われ、小安さんが用事を言い出すのを待っていた。 「あの…僕、一目見た時から日向さんのことが好きで、ずっと言おうと思ってたんです。…日向リカさん、僕と付き合って下さい!!!!」 「へ!?」
初対面にも関わらず、小安さんの唐突な愛の告白に困惑してしまった。 「お願いします!!僕、人を好きになったの初めてで…。日向さん以外考えられないんです…!!」
…返事はもちろん「NO」。 告白を断った理由はきちんとあった。私は彼のことを全く知らないし、何より話したことすらの記憶がない。いくらイケメンにそう言われてもそれは嫌だ。しかも「一目見た時」と彼が発言した時点で「あ、この人は私のこと何も知らないし、中身なんて見てないだろうな。 」と悟った。
成功すると思ったであろう告白の返事に彼はかなり落ち込んでいた様子だった。 「そうだね。急に言われてもね…。ありがとうね、わざわざ来てくれて。」 …本当にごめんなさい、小安さん。小安さんにとっては精一杯、頑張って告白してくれたのに、こっちはたった一言で傷つけて。
こうやって人を振ると、 罪悪感が一気に心を締め付ける。だから「告白」なんて、大嫌い。
私はよく分からず、放心状態で教室へ戻った。ぼーっとしてたから、恐らく周りからの視線は凄かったと思うが、その時の記憶が全然ない。精神的に大丈夫そうではなかったので、友達と約束していたクリスマスパーティーも断った。先生に賞状を返してもらってから、やけに坂の多い通学路を、何も考えず無心で歩いていた。
─今日はなんて憂鬱で、心がこんなにも痛い日だろう。
<第2話へ続く>