「警察は動かないよ、事件の確証がない限り、本格捜査はしない」
一斉にみんなが入り口に向かって声のする方に振り向いた
そこには黒い皮ジャケットを着た、大柄の男性が立っていた、ジャケットの下は分厚い筋肉が膨れている
スッキリと刈り上げたベリーショートの髪、角刈りと言ってもいい、日に焼けた肌
そして目じりのシワは苦労を滲み出していたが、柚彦君と同じアーモンド色の斜視ぎみの瞳と、端整な顔を一目見た途端分かった
ああ・・・この人は柚彦君に年を取らせたみたいだ、同じ兄弟の中でも、一番この人が彼に似ている、まるで数年先の柚彦君を見てるようだ
ううん・・・柚彦君が似てるのね
間違いない、この人は彼の一番上のお兄さんだ、たしか格闘家を引退して独自で警備会社を経営してるって柚彦君が言っていた
「信兄!」
「信兄!ひさしぶりだな!」
健司さんとレオさんが長男さんに詰め寄った、レオさんは信也さんの肩を叩いたり、突いたりしてじゃれている
そんなレオさんなんかお構いなしに、信也さんはくるりと振り向き、値踏みするように私を見た
私はひるまずその視線を受け止めた、途端に緊張で手が震える、しばらくして信也さんが小さく頷いた
「君が鈴子さんだね 」
穏やかに言う
「ユズのために色々してくれているとは話に聞いている、礼を言うよ、これからもよろしく頼む」
「お礼だなんて・・・」
思わず顔が赤くなりそうになった、それを見て、沙也加さんがニヤニヤしている
「とにかく一息つかせてくれよ、こっちは一晩中新地のいかがわしい場所で仕事をしてたんだ、カフェインと緊張でフラフラさ 」
信也さんがどかっと椅子に座って言った
「まぁ!それじゃ、さらに美味しいカフェインでも飲みながら、作戦会議をしましょうか、鈴ちゃん手伝って」
沙也加さんが嬉しそうに台所に向かった
「ハ・・・ハイ!」
私も彼女に続いた
ガヤガヤとあちこちで話が飛び交っている間、私はみんなの分のコーヒーを入れた
沙也加さんは全員分のトーストにジャムを塗り、簡易的なガスコンロで目玉焼きを作った、稲垣家の人は、よく食べ、よく運動する
そして全員がテーブルについて朝食を食べ終えた頃に、信也さんが口を開いた
「オーケー、はじめよう 何が分かった? 」