たくさんの人が歩いて動き回っていたり、あるいは走っている忙しないエリア。
目をつぶっても、その人が歩く振動が響いて伝わってくる。
耳栓をしていても、人々の声が聞こえてくる。
周りを見渡すと、衣装や鏡、照明、カメラがいくつも並んでいる。
今日は、音楽番組よりも、雑誌よりも大切な仕事。
そして、一番大好きな仕事。
――大好きだった仕事。
ライブだ。
好きだけれど、心配事しか今はなかった。北斗は、誰かの近くにいよう、と目を凝らす。しかし、スタッフばかりでメンバーは一人もいなかった。
と、不意に肩を叩かれる。
ビクッとして振り返ると、背後に慎太郎がいた。耳栓を外し、「なに?」と訊く。
慎太郎「準備出来たでしょ? 楽屋行こう。ここガヤガヤしてるから」
北斗「うん?」
慎太郎「楽屋! 行こう」
北斗「ああ、はいはい」
慎太郎「…大丈夫?」
北斗「ん?」
慎太郎「準備中、なんもなかった?」
北斗「うん、なんもないよ。耳栓してたから大丈夫」
そっか、と慎太郎は頷いた。
『控室 SixTONES様』
いつも見ている安心する名前だ。
ライブ前の緊張する時間も、この部屋でみんなと過ごしていると楽になる。
室内に入ると、既に樹と大我がいた。
樹「おぅ、お帰り」
慎太郎「お迎え完了でーす」
北斗「あ、お迎えに来てくれたの?」
慎太郎「そうだよ」
大我「慎太郎が、北斗が心配だって言ってさっき出てった」
北斗「ああ、そうなんだ」
微笑みが漏れる。慎太郎は最年少のくせに、気が利く。
北斗は椅子に座り、耳栓を外した。
代わりに補聴器を着ける。途端に、周りの音がクリアに聞こえるようになった。
北斗「高地とジェシーは?」
慎太郎「さあ。さっきは見なかったなぁ」
樹「多分まだ色々やってるんだと思うよ」
すると、計算されたようにドアが開き、2人が入ってきた。
ジェシー「ああーあともうちょっとだー!」
すぐそばに座っていた北斗は、耳を抑えた。「うるせー」
高地「ああごめんごめん、ちょっとジェシー、あんたうるさい」
ジェシー「AHAHA高地に初めてあんたって呼ばれた」
大我「聞こえてる? 北斗がうるさいって」
ジェシー「〈小声で〉ごめん北斗」
北斗「ん、大丈夫」
慎太郎「暇ー」
樹「なら歌っとけ」
慎太郎「喉は大切に取っときたい」
大我「あぁ~~~」
樹「なんできょもが歌いだすんだよ笑」
大我「練習」
北斗「当たり前みたいに言ってる笑」
大我「まあね。ビブラートは大事だから」
数十分が過ぎ、本番のスタンバイ時刻になった。
それぞれ水を飲んだり、声を出したりしながら立ち上がって出る準備を始める。
各々のイヤモニも、首に掛ける。北斗も自分のイヤモニを付け、深呼吸をした。
だが、歩き出すその一歩が出せなかった。みんなが部屋を出ようとする中、立ち止まっている北斗を振り向く。
高地「北斗?」
ジェシー「どした?」
樹「え、めまいする…⁉」
北斗「あ、いや、なんでもない」
慎太郎「ほんとに?」
大我「…なんか不安なんでしょ?」
北斗は下を向いたまま動かない。
樹「出来るよ。北斗なら出来る」
ジェシー「そうだよ、なあんにも心配することなんてない」
高地「笑顔だよ北斗! 笑顔!」
明るい高地の声に、やっと顔を上げる。
大我「歌っちゃえば不安なんて吹き飛ぶよ。みんなで歌おう」
北斗「…うん」
大我「絶対大丈夫。歌に身を任せて」
そして、大我は北斗に向けて手を伸ばした。
5人は声もなく驚くが、大我は微笑んだままだ。
北斗は徐々に視線を大我の目に合わせる。目があった大我は、ニコッと可愛らしく笑った。
北斗は、ゆっくりと自分の右手を差し出す。二人の手が触れ合った。ぎゅっと握り合う。
北斗も、へへっ、と照れ気味に笑った。
慎太郎「ええ?」
高地「おお~っと、どうした~?」
樹「逆に大丈夫か?」
ジェシー「なんだなんだ」
すっと手が解かれると、
北斗「…さっ、行くか」
すん、と澄ました顔で歩き出した北斗。
大我も素知らぬ顔で「いやー本番緊張してきた」などと言っている。
樹「うわ~お」
ジェシー「すっごい急展開」
慎太郎「な、なにが起こった?」
高地「わかんない」
ただ、北斗の表情は、いくらか涼しげで、不安の色は見えなかった。
大我(俺のおかげかな~)
いよいよライブ本番が始まる。
何曲か歌ったあと、休憩に入る。と、スタッフが心配して北斗に声を掛けた。
「大丈夫ですか? 耳の調子」
「あ全然大丈夫です! 今のところピンピンしてます」
「良かった」
中盤に入り、さらに終盤に差し掛かっても特に違和感は感じなかった。
病気のことなど忘れているようだった。
最後の着替えではけるときに、高地が耳元で言う。
「いける?」
「うん。最後までいけるかも」
「頑張れよ」
高地は持ち前の明るいスマイルを見せた。
北斗も笑い返した。
樹「おっしゃあ! やあーっと終わった」
アンコールが終わり、舞台袖に下りた途端みんなの喜びが爆発する。
ジェシー「うわぁー早く寝たい!」
慎太郎「やめろよ北斗がうるさいだろうから」
J2「あ、ごめん」
北斗「いいよ笑。大丈夫」
樹「でも何事もなく全部出来て、良かったな」
北斗「うん。この調子でオーラスまでやれたら」
大我「…頑張りすぎんなよ?」
北斗「大丈夫!」
6人は控室へ向かう。と、北斗は先を行く大我を呼び止めた。「京本!」
「ん?」
「その、あの…さっきは、ありがとう」
「え?」
「俺を励ましてくれて。京本の言葉がなかったら、多分いつも通りにはやれてなかった。ありがとな」
北斗は、手を差し出した。
先ほど大我がやったのと同じように。
一瞬北斗を見上げた大我は、また笑って手を握る。握手のように、上下にぶんぶんと振った。
慎太郎「うわぁ、また訪れた平和な空気」
樹「俺らの空気感、大体平和だけどな」
高地「さらに平和になったよね」
ジェシー「YouTubeのショートの最後のテロップ『今日もSixTONESは平和です』って、やっぱりぴったしだね!」
手を離した二人も、
北斗「だなw」
大我「やっぱ平和が一番だよね!」
ジェシー「なんかこのライブやってわかったけど、俺らにしか奏でられない音ってあるよね」
樹「ん?」
ジェシー「だってもし、北斗がライブに出れなかったら6つの音は揃わないから」
慎太郎「おお、なるほど」
高地「この6人じゃないと作れないメロディーがあるよね」
北斗「だね!」
平和で楽しいライブを終えた、いつまでも仲良く平和なSixTONESだった。
終わり
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