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始業式から1週間。
俺は、いつも通りの日常を送っている。
の、だが。
「よォ、じゅうとぉ」
「銃兎、居るか?」
よく、左馬刻と理鶯がクラスに訪問するようになった。
「信じらんねぇ・・・・・なんで授業中に来るんだよ・・・・・」
今日の授業はほぼテスト勉強で自習だったのが、幸いだったがな・・・・・。
「いいじゃんかよォ、一緒屋上行こォぜ」
「入ってくんなバカ」
中学一年生も今は自習らしいし、高校一年生も自習のはずだ。その隙を見てこっち来たな、こいつら。
教室にズカズカ入って、後ろから抱きついてくる左馬刻。
「ダメだ。せめて昼にしろ」
俺は、シャーペンは止めずに言う。
「はぁ? お前、昼大体パンじゃん。なら、今日俺様がつくったんだぜ、弁当。食ってくれよ」
「分かった分かった」
返事をして、教室に戻るように言うと、めんどくせェからヤダ、と返ってくる。
舌打ちしそうになるのを我慢しながら、理鶯に笑みを向けた。
「理鶯、あなたは教室に戻りますよね?」
「いや、小官は、少し分からないところがあったのでな。銃兎に教えてもらおうと来た」
「はぁ? あなた高一の特待生でしょう、頭良いはずですよね?」
「分からないところは分からなかったのだ」
「はぁ、分かりました、座ってください」
銃兎は溜息をつきながらも、理鶯に勉強を教え、後ろから抱きついている左馬刻の頭を撫でる。
「銃兎〜甘いよね〜」
「え? 私は甘いでしょうか?」
「いやぁ、甘い甘い! 角砂糖レベル!」
「一二三、それかなり甘くないか?」
クラスメイトは、あの噂の不良たちが自分のクラスにいること、あの“真面目”な入間銃兎に1人は抱きつき、1人は勉強を教えて貰っていること、入間銃兎が2人を気にかけていること、一二三と独歩がニコニコしながらそんな3人を見ていることに驚きつつ、自分たちの勉強に取り組んだ。
さて、このようなことになったのは理由がある。
1週間前。
「意味わかんねぇ・・・・・」
銃兎は、溜息をつく。
一二三と独歩は、さっきまで話していた人物が目の前に現れたことにびっくりしていた。
「銃兎、代表挨拶の件、礼を言う。何かできることがあれば言ってくれ」
理鶯が言うと、銃兎はニッコリ笑って言った。
「では・・・・・屋上の件、何も見なかったことにしていただけます?」
「あ? お前が煙草吸ってたヤツ?」
「そうです」
「あ!? ちょっと、銃兎! 煙草禁止っつったよね!?」
「ちょっと銃兎さん、肺が弱いですよね。禁止、って前言いましたが・・・・・」
「うぐっ・・・・・」
反論できない。
銃兎は生まれつき肺が弱く、両親が無くなってから、肺はもっと弱ってしまった。
しかし、最近は回復の兆しが見えており、運動をしても倒れる、というようなことはおきなくなった。
その代わり、5分程度激しく咳き込むことになるのだが。
「はァ?お前肺弱いのに吸ってたの?」
「いや、まぁ弱いですけど、元気な人と比べたらですよ。
それに、最近は普通の人と同じぐらいには回復してるし・・・・・」
「絶対うそ! ちょっと、碧棺と毒島! 銃兎のヘビースモーカー一緒に何とかして!」
「はァ? なんで俺様が・・・・・」
「今ここで恩を返したら!」
「・・・・・」
左馬刻も恩を感じているようだ。
渋々、というようだが、溜息をつき、頭をかきながら了承の意を示した。
さて、そんなこんなで4人で銃兎のヘビースモーカーを何とかすることになったのだが。
その前に、お腹が空いた、ということで5人でご飯に行くことになったのだ。
「今日は始業式だけだから、もう帰っていいんだよ! 一緒にご飯行こーぜ!」
「ふむ、食事か。どこで食べるのだ?」
「学割使えっとこ!」
一二三が銃兎を引っ張るように連れていく。
「じゅーと」
「あ?」
銃兎は、左馬刻の気だるそうな声で後ろを振り返った。
「・・・・・」
「・・・・・!? ちょ、おまっ何して・・・・・!?」
左馬刻は、銃兎の上着をゴソゴソとしだした。
「ちょ、擽った・・・・・!」
「みっけた」
ヒョイ、と左馬刻が取り出したものは、まだ中に10本ほど煙草が残っている煙草の箱だった。
「・・・・・一言なんか言ってからしろよ・・・・・」
「ちょっと銃兎!? 一言言ったら良いの!?」
「? だって別に私のこと好きとかじゃないなら良いんじゃないですか?」
「銃兎さん、警戒心無さすぎますよ・・・・・」
「・・・・・?」
「銃兎、銃兎! 何食べる?」
「私はなんでもいいです」
「銃兎さんはお肉を食べましょうよ、痩せすぎですよ、銃兎さん」
「そんなに痩せてますか?」
銃兎は、首を傾げうーん、と唸る。
「確かに痩せてんなァ・・・・・、おいじゅーとォ、こっち来いよ」
「はぁ?」
某食事屋に来た5人は、元々安く、学割が使え、味が美味しい店に来ていた。
のだが、そこで銃兎の痩せすぎ問題が出てきたのだ。
「いや、あなたたちも十分痩せてますよ、大丈夫ですか?」
銃兎は4人に向けて言う。
「じゅーとは特に、なんだよ、早く来いや」
左馬刻に腕を引かれ、左馬刻の胸に寄りかかる感じになる。
「いや、は? 急になに・・・・・」
左馬刻は、銃兎の腰を掴むと、脚の細さや、腕、首などの細さを確認する。
「ほッッッそ」
「でしょでしょ、ザーヤク!」
「あだ名つけるのが本当に早いですよねあなたは・・・・・」
「銃兎さん、せっかくだしこの牛丼、食べません?」
「あぁ、いいですよ」
独歩の問いに頷くと、一二三が店員を呼ぶ。
「あ、すいまっせ〜ん! この牛丼の大、4人分!ください!」
「かしこまりました」
「4人分?」
一二三の言葉に疑問を抱いていると、独歩が言った。
「毒島さんと碧棺さんが食べる分じゃないですかね」
「ふむ、小官らは体力作りもしているからな。もう1つ頼んでもいいだろうか」
「いいんじゃないですか? 学割使えるんでしょう、ここ」
「ならば・・・・・これを頼むか」
理鶯が何かを頼み終わり、後は運ばれてくるのを待つだけ、となったのだが・・・・・
「あの? いつになったら解放されるんですか私」
銃兎は、左馬刻の胸にもたれかかったままだった。
「あァ? あー、もうこのままでいいんじゃね?」
「いや、食べれないんですけど」
「それなら左馬刻と小官の間に来るといい」
「はぁ・・・・・良いんですか?」
「もちろんだ」
「では、お言葉に甘えて」
銃兎が左馬刻の膝の上を通り、理鶯の横に座る。
「おぉ〜3人が並ぶと絵になる〜!」
一二三が言うと、独歩も賛同した。
「それは分かる」
「はは・・・・・」
銃兎は、苦笑を返した。
牛丼を食べ終え、5人で帰路についているとき。
「おぉ、おぉ入間さんよぉ」
暗めの道を歩いていると、声をかけられた。
またいつもの輩か、と溜息をつき、声の主の姿を確認する。
「前、俺の下のやつが世話になったらしいじゃねぇか」
・・・・・あ? いつボコったっけ?
「は!? 銃兎、喧嘩したの!?」
「え・・・・・いや、いつしたかな・・・・・3週間前?」
「一ヶ月も経ってないじゃん!?」
「俺らは、言いましたよ? 喧嘩も禁止って」
「・・・・・すみません」
一二三と独歩から怒りの目線を向けられ、どうしようかと考えていると、しびれを切らしたらしい男が口を出した。
「俺が用あんのは、入間だけなんだよ、てめぇらはどっか行けよ」
食後にはあんま喧嘩したくないんだがな・・・・・
肺に関することだがな。
なぜか食後に喧嘩すると、必ずと言っていいほどぶっ倒れる。
そんなことにはなりたくない、今は一二三と独歩がいるから。
「はぁ、行けばいいんですよね」
「ちょ、銃兎!?」
「銃兎さん!?」
「物分りがいいじゃねぇか」
男はニヤリと笑みを浮かべると、暗い路地裏に入っていった。
正直に言うと、すっごい行きたくない。
ため息と舌打ちを我慢し、路地裏に入っていこうとすると、誰かに止められた。
「碧棺さん、離してください」
肩を掴んでいる本人は、離す気は無いらしい。
「あー、左馬刻でいいわ。理鶯も呼び捨てで良いだろ?」
「うむ」
「あと、俺様たちがなんとかするわ、じゅーとはここで待っとけよ」
「はぁ? 私が呼ばれてるんですから、私が行くべきでしょう」
「バカ、オメー顔色悪ぃって。俺と理鶯で殺ってくるから、待っとけ」
「・・・・・殺しはしないでくださいね」
「それで良いんだよ、じゃ、待っとけよ。 理鶯、行くぞ」
「承知した」
さっさと路地裏に入っていく2人を見送って、一二三と独歩は今さっき左馬刻が指摘した銃兎の体調を本気で心配した。
「おぉ、じゅーと、何してんだ・・・・・?」
左馬刻と理鶯が戻ってきた時、銃兎は一二三と独歩に今まで何をしてきたか問われている最中だった。
「左馬刻のせいだが?」
怒りを込めて言うが、左馬刻は反省していない様子。
「はぁ・・・・・なぜ、そんなに構うんです?
今日のことならとっくにお礼、返してもらいましたが」
「あー、なんつーか、放っておけないっていうか」
「は?」
「だってよぉ、無理して元気なふりして、約束もまともに守ってねぇじゃん、そういうの、なんか放っておけねぇんだよ」
「そりゃ、どうも・・・・・?」
「チッ、つーわけだ!
これから、俺様と理鶯と一緒に行動してもらうからな、じゅーと!」
「は? 急展開すぎるだろ、何言ってんだ?」
「言ったまんまだっつの!」
「そ、そうか・・・・・」
なんてことがあり、今は銃兎のひっつき虫と化した2人なのだった。