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「……それは、どうでしょうか。賭けなんて、本当に、私は部長が思われてるような存在じゃありませんから……ご期待に添えそうにありません」
謙遜しますねぇ、と。どこか感心したような口ぶりのあと、高柳は小さなスーパーの駐車場に入り、やけにゆっくりと車を停車させた。
そして、真衣香としっかり視線を合わせ、聞き流すなと言わんばかりに問いかけてきた。
「ところで、話は変わりますが。最近、俺はよく君の姿を見かけましたけれど、君はどうでしょう」
「え?」
「立花さんは俺を見かけましたか?」
問われて記憶を辿るけれど。
「い、いえ……。私は」
高柳とは、杉田とともに呼び出されて以降顔を合わせていない。
「でしょうね。坪井と話しているときに視線を感じて、その先を見れば大体君がいたので。俺のことは見えていなかったでしょう」
「……そ、それは」
「何か心に引っかかるものがあるから、君の目は無意識にでも姿を探して追ってしまうのでは?」
唇を噛み締めた。
きっと図星だから、反論の言葉さえ見つけられない。
「弱みを知られたくなければ、感情の揺れも他人に見せてはいけませんよ。俺が言うのもどうかと思いますが」
「あの、高柳さ……ん!?」
高柳の名を呼ぼうとした時だ。静かな空間にまたもや大きく鳴り響いた着信音。
油断していた真衣香は驚きのあまり大きな声を出した。
その反応を見てクスクスと笑った後「すみません」と、短く真衣香に断りを入れる。そして画面をタップして高柳は着信に応えた。
「ああ、思ったよりも早くてよかった。今ちょうど、店の前にいる」
言いながら真衣香を見る高柳の口が、弧を描く。
それが随分と優しく映るようになってきた真衣香。こういう安易な考えが、優里や八木を心配させるのだろうか?