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声が聞きたい。(2)
帰りの電車。
窓の外に、
またスカイツリーが見えた。
夜の中で、
変わらず輝いている。
近づくわけでも、
離れるわけでもない距離。
掘り起こすつもりは、
ない。
埋め直す気も、
ない。
反対の座席に座れば、
見ずに済んだはずの光の塔。
ただ、
もう一度、
あの場所へ向かうかもしれない。
そんな予感だけが、
胸の奥に残っている。
スマートフォンを握る。
さっきから、
何度も画面をつけては、
消している。
「一緒に行きませんか?」
その一文が、
まだ頭の中で響いている。
嬉しかった。
怖かった。
それ以上に、
自然だと思ってしまった。
順序が、
崩れた。
でも、
壊れたわけじゃない。
文字のやりとりの中で、
ずっと避けていたこと。
触れたら戻れなくなる気がして、
見ないふりをしてきたこと。
それが、
もう隠れなくなっていた。
電車が揺れる。
スカイツリーの光が、
一瞬だけ窓から切れる。
その隙間で、
思ってしまう。
――声が、
聞きたい。
言葉じゃない。
文章でもない。
この人が、
息をして、
言葉を選ばずに出す声を。
墓を掘り返したいわけじゃない。
でも、
もう一度、
あそこへ行くなら。
ひとりじゃなくても、
いいんじゃないか。
彼の言葉の 優しさの、
奥に触れてみたい。
そんな考えが、
静かに浮かんで、
消えない。
入力欄を開く。
前置きは、
いらない気がした。
慎重さも、
もう、
役に立たない。
――大和さんの声が聞きたいです。
送信。
画面が切り替わる。
胸の奥が、
すっと静かになる。
救われたわけじゃない。
答えが出たわけでもない。
それでも。
スカイツリーは、
変わらずそこに立っていた。
夜の中で、
静かに包容力を放ち、
光っていた。