テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
誰の為
画面に表示された通知を見て、
一瞬、
時間が止まった気がした。
――大和さんの声が聞きたいです。
短い。
言い訳も、
前置きもない。
だからこそ、
逃げ場がなかった。
胸の奥で、
何かが静かに崩れる。
罪だと、
ちゃんと分かっている。
家庭がある。
守るべきものがある。
これ以上踏み込めば、
戻れなくなることも。
それでも。
指は、
止まらなかった。
抵抗は、
驚くほどなかった。
躊躇も、
迷いも。
もう、
前の段階で使い切っていたのかもしれない。
――僕も、話してみたいです。
――いつなら大丈夫ですか?
送信。
胸が、
わずかに軽くなる。
怖さよりも、
安堵が先に来たことに、
自分で気づいてしまう。
このアプリで、
ここまで来ることは、
正直、
珍しい。
課金をしても、
言葉を重ねても、
大半は、
途中で途切れる。
だからこれは、
「勝ち」なのかもしれない。
でも、
そんな言葉は、
今の大和には、
しっくりこなかった。
欲しかったのは、
勝敗じゃない。
この、
限定された箱庭の中から。
自分の日常と、
彼女の日常を、
少しだけ、
溶かしてみたかった。
文字だけの関係では、
もう、
足りない。
だから、
続けて打つ。
――もしよければ、
LINE、交換しませんか。
言い切りだった。
遠慮も、
様子見も、
ない。
送ってから、
画面を伏せる。
罪を、
認めたつもりはない。
正当化も、
していない。
ただ、
選んだ。
この先、
嘘を重ねることになるだろう。
誰のためかは、
考えない。
考えた瞬間に、
壊れてしまう気がしたから。
そして、
胸の奥に、
微かな棘の感触だけが残った気がした。
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