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金曜日。午後5時半。
仕事を終えた優香は、珍しく更衣室で化粧を直していた。
麗奈は鏡を見つめる優香の後ろに立ち、嫌味っぽく話しかける。
「あれ〜?優香どうしたの、化粧し直してるなんて?」
「…………今から晶とデート。」
「は?何言ってんの?」
「…………冗談。”別の人”。」
「そりゃそうよ、晶さん、今から私と二人っきりで会うんだから。……てか、別の男?晶さん以外の男と会うなんて、あんた思ってたよりもこすいのね。」
「…………。」
「…………この前のこと、許したわけじゃないからね。」
「…………うん。」
「あれ?下着も何かいつもより派手じゃない?いつも地味なやつにばかり着けてるのに……。はぁ〜、呆れた。百歩譲って、晶さん狙いなのはいいけど、別の男なんてサイテーね。……誰よ、そいつ?」
「…………圭一って名前の人。」
「圭一?知らないね。まぁ、どうでもいいや。頑張ってね〜……。」
悪態をつきながら、麗奈は優香を尻目にオフィスを出ていった。
麗奈が出ていった後、優香は鏡の中の自分と目を合わせた。
まるで自分自身と何かを話すように。
「……………………。」
* * *
午後6時。
一昨日と同じ港公園。
優香は柵に肘をかけながら立っていた。
緩やかな潮風に当たりながら、夕陽に照らされる……お世辞にも綺麗とは言い難い……海を眺めていた。
優香の背後に、足音が近付いてくる。
足音は優香のすぐ側まで来たところで止まった。
「……優香。」
「…………。」
圭一の携帯電話が震える。
麗奈からの繰り返しの着信だった。
「うるさいな……。」
圭一は携帯電話の電源を切って、ポケットに仕舞った。
それを見て、優香も同じことをした。
「…………。」
「…………。」
二人と同じ様に、柵にもたれて談笑する男女達が増えていく中、二人はただ無言のまま、海を眺めていた。
どれくらいの時間が経っただろうか……?
一時間、…いや、数十分……はたまた、数分だったかもしれない。
先に切り出しのは圭一だった。
「俺の生きがいは、ただ春山剛蔵に復讐することだった……。そして、春山剛蔵のことを調べると、やつの娘達がOLとして働いていることを知った。娘達は双子で、まだ結婚はしていないし、彼氏らしき男もいない。しかも、二人は親元から離れてマンションで暮していることも。」
「…………。」
「上手く接触できれば、あいつに復讐出来るって…………。」
「…………。」
「……でも、ここに来て気付いたよ。優香に言ったことも、優香と一緒にいて楽しかったことも…………全部、本当の気持ちだってことが。」
「…………。」
圭一はようやく優香のほうを向くと、優香を抱きしめた。
圭一の心臓は熱く高鳴り、体は震えていた。
「麗奈と二人でいても……他の女といても何も感じない……。でも、優香といる時だけは違うんだ。」
「…………。」
「優香、俺はやっぱりお前が好きだ!」
「…………。」
「今は復讐とか……花崎だとか、春日山だとか……そんなことはどうでもいい。」
「…………。」
「一つだけハッキリしてること……俺は……優香、お前を愛してる‼」
圭一の心臓の高鳴りを感じながら、優香はようやく口を開いた。
「…………花崎圭一は最低な男。ホームレスに私達を襲わせて、信用させてから抹殺しようとした。」
「…………優香。」
「パパや……麗奈に話せばあなたの復讐はすぐに破綻する。でも、なぜか出来なかった。」
「…………。」
「……あなたが麗奈にキスしている姿を見て、なぜか悔しかった。」
「………優香?」
#『彼』の行く末
鐘寺 実昼
375
#オリキャラ
霰❄️
61
79
#短編
QuartoMew
105
「………あなたが本当に花崎圭一だったことが悲しかった……でも、『優香に言ったことは、嘘じゃない。』と言ってくれたことが嬉しかった。」
「………優香!」
「……皆は『双子なのに全然違う性格。』と言うけれど……私も麗奈も辿り着くところは同じ……。」
「…………。」
「…………私も……圭一のことが好き。」
優香は胸の内にある想いを言い終わると、
その細い指を連ねた両手で、かつて九頭竜晶と名乗っていた男……今は花崎圭一と名乗る男の顔を引き寄せると、僅かに両足で跳ねるようにして、自分の唇を圭一の唇に吸い付けた。
2秒…3秒…どれくらい経っただろうか、二人の唇が離れた。
「…………優香!優香!愛してるっ‼」
圭一は叫ぶように言うと、再び優香を抱きしめてキスした。
圭一の声に、周りにいた何人もの男女達が二人を凝視する。
そんなことはお構いなしに、
二人の腕はお互いを引きつけ合い、
逃さないと言わんばかりに締め合う……。
優香と圭一は……まるで飢えに飢えた肉食獣が、お互いを食い合うように……まさしく貪るようにキスし続けていた。
二人がようやく落ち着いた時には、二人を見ていた人達から拍手が送られていた。
「…………場所…変える。」
「…………あ、ああ。」
我に返った二人は俯いて、顔を紅くしてした。
つづく
※次の第8話は性的描写多数のため、センシティブ内容ありの扱いにします。第9話に飛んでもストーリーはわかるようになってます。
コメント
1件
うわあ……ついに来ましたね、この瞬間。優香の「私も圭一のことが好き」という言葉が、ここまでじっくり積み上げてきたからこそ重みがあって、胸が詰まりました。病院のベッドで「優香に言ったことは嘘じゃない」と告白した場面が、まさかここでこんなに綺麗に回収されるとは。それにしても、周りの人から拍手が送られる終わり方、なんか優しい世界だなあと思いました。第8話はセンシティブ内容とのこと、二人の関係がどう深まるのか、すごく気になります……!