「うぅ…さみぃ」
隣をゆっくり歩く、少し厚着をした男が、手を擦り合わせながら呟く。
雪が降り積もる、蛍光灯だけで照らされたスーパーの帰り道。
いつもは色の無いコンクリートの地面が、今日だけ、星の様に煌めく白い絨毯に変わっている。
「何も今日行かなくても良かっただろ…」
冬の厳しい寒さに全く耐性が無い彼が、白い息と共に愚痴を吐く。
そんな彼と裏腹に、クスリと笑いながら俺は
「でも、折角雪が降ってるんだから出かけなきゃ損だろ?」
と、彼と目を合わすため、少し下を見ながら言ってみる。
「下見んのやめろ、別に背低くないのに身長差感じる」
少し怒らせてしまったみたいだ。
だが、その感情が本気の怒りでは無いと知ってる俺は、余裕じみた笑みをしてやった。
まぁ、案の定腹部に一発お見舞された。
「何も腹に決めなくても…」
「兄貴を絶対零度の冬の外に連れ出した罰だよ」
これでおあいこな。と、悪戯に笑う彼に、少しムッとしたのは秘密。
「・・・お?」
突然、俺の方を不思議そうに見つめた。
なんだなんだと思い、視線を辿ると───
「…俺の服がどうした?」
彼の視線の先は、俺が羽織っているロングコート。
俺の灰色で長い髪の毛でも付いていると言うのだろうか。
「いや、正確にはコートじゃなくて・・・」
これだよ。これ。と言いながら、コートの裾をクイッと引っ張られた。
引っ張られた己の裾を凝視すると
「・・・・・・雪の結晶・・・か?」
「そうそう!」
とても小さいが、形が整っていて、光のお陰で白い、 綺麗な結晶。
写真でしか見たことが無かったが、実物の方が何倍も儚く、美しい。
そう何となく思っていると、俺の裾を引っ張りながら、
「・・・すぐに消えちゃいそうだなぁ」
そう、うっとりと……そして、どこか寂しげにポツリと呟く彼。
そんな彼に、ほんの少し、ほんの少しだけ、胸が苦しくなった。
それを察したのか、コートの裾をパッと離して
「ほら、寒いからもう帰るぞ!」
と、明るく、少しうざったらしく言葉を放ち、彼はスタスタと歩き出す。
そんな海のように青い髪を追いながら、
どうか、どうか彼に対する想いが、恋なんてものではありませんように
って、冬の天に祈ってみた。