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夏の穂||フォロバ|低浮
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第4話 あの雨の日のあとで
あの冷たい雨の夜から、僕の心は死んだも同然だった。
カイザーに「俺の影から出ろ」と言われてから、僕は必死で前を向こうとした。彼を見返したくて、自分のフットボールを探して、がむしゃらにピッチを走った。けれど、どんなに走っても、胸の奥にある底なしの孤独は消えてくれなかった。
夜、一人でベッドに入るとき。ふと右側を振り返っても、そこには誰もいない。カイザーが触れてくれた頬も、耳元で囁かれた「愛していたよ」という声も、思い出すたびに鋭い刃物になって僕の心をズタズタに引き裂いた。
「嘘つきだ……。僕を置いていくなら、あんなに優しくしないでよ……!」
誰もいない部屋で、枕に顔を押し付けて何度も泣いた。
カイザーがいない世界は、息をするだけで苦しかった。彼に必要とされない僕は、ただの空っぽの殻だった。寂しくて、辛くて、消えてしまいたいくらい、彼のすべてが恋しかった。
そんな地獄のような日々が始まって、2年が経った頃。欧州のオールスターが競うチャリティマッチの会場で、その運命の瞬間は訪れた。
控室へと続く薄暗い廊下。前方から歩いてくる、見慣れた、だけど前よりもずっと大きく、逞しくなった背中。
「……ッ、カイザー……!」
声が勝手に漏れていた。カイザーは足を止め、ゆっくりと振り返った。その青い瞳が、まっすぐに僕を捉える。
「……ネスか」
その少し低くなった声を聞いた瞬間、僕の中で2年間張り詰めていた何かが、音を立てて派手にぶち壊れた。気づけば、僕は彼の胸に思い切り掴みかかっていた。
「 どうして……どうしてそんなに平気な顔をしてるんですか!?」
「ネス……?」
「僕は、苦しくて、寂しくて、毎日死にそうだったのに! カイザーは僕を捨てて、一人でどんどん遠くへ行って……! 僕の気持ちなんて、これっぽっちも考えてくれなかった……!」
涙がボロボロと溢れて止まらない。掴んだ彼のユニフォームが、僕の涙で濡れ ていく。
2年分の、泥臭くて、惨めで、痛々しい感情のすべてを、僕は彼にぶつけた。カイザーは反論しなかった。ただ、感情を吐き出しながら泣きじゃくる僕を、じっと見つめていた。
そして、彼の手がゆっくりと僕の背中に回され、力強く引き寄せられた。
「……すまなかった、ネス。お前を突き放せば、俺への執着を捨てて楽になれると思っていただが……俺の浅知恵だったな 」
耳元で聞こえる、懐かしい心音。
「俺も、地獄だったよ。お前のいないピッチは、どれだけゴールを決めても、酷く退屈だった」
そう言って僕の涙を大きな指で拭うカイザーの瞳には、かつてないほどの熱い光が灯っていた。離れた時間が、二人の愛をより深く、狂おしいものに変えていた。