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「俺が誘ったんだ。そんなこと気にしなくていい」
そう言って、先輩は私の髪にそっと触れた。先輩の細くて長い指に触れられた瞬間、思わず目をギュッと閉じてしまった。
息ができない――
そして、髪の間に指を入れて、すーっと下におろしながら、
「やっぱりすごく綺麗だ」
そう囁いた。
「き、綺麗じゃないです。恥ずかしいです」
「俺が綺麗だって言ってるんだ。今まで触れた中で……1番だ」
「そんなの嘘です……」
「嘘をつく理由がないだろ? 少しだけカットしていい?」
「え……あっ、いいんですか?」
本当に? 私、月城先輩にカットしてもらえるの?
ブラウンの普通のロングヘアを、ただひとつに結ぶだけの手抜きスタイルの髪型。先輩は、そんな私の重めの髪にレイヤーカットを施していった。
レイヤーカットは、全体的に軽めでナチュラルな雰囲気に仕上がる。
私に似合うのかな……
可愛らしい女の子しか似合わないんじゃ……
そんなことを考えながらも、カットのやり方を学びたくて、私はずっと先輩のハサミと指の使い方を注視した。
嘘みたいに、指づかいが滑らかで……
ハサミの動きも無駄が無くて、迷いも無い。
時々、私の顔を鏡を通して見て確認しながら、バランスを調整していく。
その間の会話は無い、だけど、それで良かった。
先輩と会話なんて、私にはもったいなくて。
そして、数分間のカットが終わった。
シャンプー台で流し、ドライヤーで乾かす作業が、淡々と行われていく。
こんな素敵な人に、最高の技術でカットしてもらえるなんて本当に夢みたい。
たった2人だけの空間。
ぜいたくで幸せ過ぎる。
全てが終わって、先輩が私を鏡越しじゃなく、ちゃんと向き合ってから言ってくれた。
「可愛いよ。すごく似合ってる」って。
その瞬間、ドキュン!って、マンガみたいに私の心臓が撃ち抜かれてしまった音がした。
「か、か、可愛くなんてないです。私なんて」
「俺が可愛いって言ったら、誰が何と言おうが可愛いんだ。穂乃果は、もっと自分に自信を持つべきだ」
月城先輩……
目の前でそんなこと言われたら……
「お前が学生の頃から、ずっとその綺麗な髪に触れたかった。今日、それがやっと叶った。俺……」
先輩の潤んだ瞳に吸い込まれそうになる。
「俺、穂乃果が好きだ」
「……えっ……月城先輩?」
あまりに唐突な告白に、その言葉の意味を全く理解することができなかった。
その場に呆然と立ち尽くす私に、「俺と付き合ってくれ」と、追い討ちをかけるように言葉を重ね、私を抱きしめた。
もう何が起こってるのか、何も考えられない。