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(wki目線)
元貴がピリピリしてるのは良くある事で。
制作期間に入るとそれは特に分かりやすくなる。
(けど、何ていうか… 今日は、 そういうのとは ちょっと違うんだよな…。)
声のトーンとか。
目線とか。
ちょっとした仕草とか。
みんなの前では笑ってたけど。
アレは追い詰められてる時の顔で、 何年か前にも見たそれと同じだった。
打ち合わせが残ってた元貴を残して先に涼ちゃんとスタジオを出てきたが、どうにも落ち着かない。
『もう帰ってる?』
2時間前に送ったLINEは未読のまま、0時を過ぎた。
「………。 くそっ。 」
それは自分自身に向けられた言葉だ。
先に帰らず元貴を待つべきだったのに。
あんなに…泣きそうだったのに。
俺はコートを引っ掛けると、足早に自宅を出てタクシーを拾った。
元貴のマンションのインターホンを押したけど反応は無くて、預かってたカードキーを忘れなかった事に心底自分を褒めた。
「いつでも勝手に入ってていーよ」
そう言ってニヤリと笑ってキーを俺と涼ちゃんに渡した時の元貴の顔を思い出す。
元貴は誰よりも寂しがりやだ。
部屋の前でも何度かインターホンを押したけど返事は無くて、ためらいがちにキーをかざしてドアをそっと開けた。
「もと…き…? いる?」
玄関のオートライトに元貴の靴が照らされて、どうやらいるらしい事がわかる。
「元貴?若井だけど! 入るよ!」
少し大きめの声で呼んだけど返事はなくて、仕方なくすっかり冷えてる廊下を進むと、ランドリールームのドアの向こうから水の音がする。
「良かった…」
とりあえず元貴がちゃんと帰ってた事と、会えるって事に安堵して思わず声が漏れた。
「リビングで待ってようか…それでもいきなりいたら驚かせちゃうかな…でも帰るのもな…。」
ボソボソと独り言を言いながら、その場を通り過ぎリビングに向かうと同時に『ガタンッ』と背後から大きな音が響いた。
フツーの音じゃない。
「え…もと、き?」
思わず戻ってバスルームのドアを叩いた。
「元貴、オレだけど!
大丈夫!? ねえ!
あの…開けるよ!?」
洗面台にあったバスタオルをつかんでからドア を開けた。
湯気と熱気がすごい。
シャワーが湯船に注がれてお湯が溢れてる。
元貴は足元に座り込んで、ぼんやりと宙を見つめていた。
「熱ッ…ちょっ 何してんのっ 」
バスタオルでくるんでやると、やっとこちらに気づいてオレの顔を見る 。
「あ…… わ、かい?」
「ごめん、勝手に入って。
でもしんぱ……んっ、 」
言い終わるよりも前に突然引き寄せられたから、 オレの襟元をグイとつかんで引き寄せる元貴の濡れた手と、重なる唇に気づくのに少し時間がかかった。
「…ちょっ…も、とき…んッ」
元貴の整った唇から舌がねじ込まれる。
俺のシャツを握ってた手が緩んだと思ったら、すぐさま腕が首にまわされて、髪を掴まれた。
「ふ…ッ、わか、い。」
元貴は体を擦り付けながら、舌を絡ませては俺の名前を何度も呼ぶ。
ザーザーと熱いシャワーが水面に当たる音と、重なった唇の端からもれる吐息が昔の記憶を蘇らせる。
初めて元貴と体を合わせたのも、ザーザーと雨音が大きく響く夜だったっけ。
もう何年も前の事だけど、良く覚えてる。
活動休止を決めてから、元貴はずっと不安定だった。
「も…とき? どう、した…の?」
何とか唇を離してたずねたけど。
「どうしたの?」なんて愚問だ。
元貴がつらいって分かってて来たくせに。
そんな俺の滑稽な問いに、元貴が濡れた瞳を潤ませて伏し目がちに呟いた。
「…ひどく…」
「え…?」
まさか答えるなんて思ってなかったから、思わず聞き返す。
「…ひどく…してよ。若井…」
予想外の答えに息が止まりそうになる。
「…ッ でもー」
元貴の顔をのぞき込んだら、ふぃとかわされて俺の耳元でかすれた声がした。
「お願いだから…。 ひどく、し…ッ」
最後まで聞く余裕なんかあるわけ無くて、
元貴の唇を無理やりこじ開けて指を入れる。
「あッ…や、わか…ふッ」
胸の小さな突起に舌を這わせると、元貴はがくがくと両膝を震わせた。
(後編に続きます…)