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⚠BL オメガバース
登場人物
主人公
瀬尾 幸(Ω)せお さち
橘 瞬(α)たちばな しゅん
瀬尾家
瀬尾 双葉(Ω)ふたば(29)
瀬尾 真(α)まこと(31)
橘家
橘 はるか(α)はるか(31)
橘 拓真(α)たくま(31)
橘 花(α)はな(5)
橘 満(α)みち(3)
小学生時代
『あいつの家、おかしいらしいよ』
『知ってる知ってる!あれだろ?いそうろう家族』
『おめがのお母さんが、こころ壊しちゃって家を追い出された子』
『違うよ?いっつも僕たちを幸せにしてくれる優しい子だよ』
『え?何言ってるの?』
『家族と一緒に暮らせない子は、不幸な子なんだよ』
『そうそう、めーわくかけてるんでしょ?』
『実はめいわくだって思ってるんじゃない?』
『そんなこと思ってない!!』
『なにもしらないのに、幸を悪くいわないで!』
『おまえも幸とおなじで、おめがなんじゃ』
ガラ
『帰ろ、瞬』
『え、う、うん』
『ちょっ、待ってよ幸!』
自分の5mほど先に行っていた彼の元へ小走りで向かう。
『なんで、友だちと言い合うの』
『わざわざ仲良い人と喧嘩する必要ないだろ』
『俺のことほっとけばいいじゃん。』
丁度横に並んだ時に彼が言った。
『でも、俺は幸の悪口聞き流すなんてできないから』
『幸の方が大切だよ。』
口論を聞かれていたことも恥ずかしかったが、そんな事より彼が自分のことを悪く言って、下げて見た事に少し腹が立った。
彼は何も悪いことなんてしてないのに。先入観が、憶測が、妄想を肥大化させる。
『瞬まで物好きだって噂が立つ方が嫌。』
『瞬は聞き流してればいいよ』
また、何考えてるのか分からない、無気力な顔。 笑顔も怒った顔もいつの間にか見なくなった。父さんも母さんもそういう時期だって、幸のペースに合わせよって。でも、そうやってしてたら、昔みたいな幸の顔が見れなくなる気がしていた。誰も彼に深くは触れようとしない。壊れ物を扱うように。
そんなの、にんげんじゃないみたいじゃないか。
幸を無視するなんてそんなことできないよ。
『明日、だよね真さん来るの』
『うん』
少し歩くペースが落ちたのが分かる。
真さんは幸の父であり、俺の両親とは高校の時の同級生。それから今に至るまで、家族ぐるみで仲良くしている。
一言で表せば、真面目。話す言葉一つ一つに説得力があって、魅力的な人。
別居している今、父の提案で2週間に1回、土曜日に2人で外出する決まりをつくった。最初こそ楽しみにしていた幸だったが、学校での嫌がらせがエスカレートしていくうちに、真さんの名前すら出さなくなった。
『ただいま〜』
『ただいま』
白いレンガ調の壁で二階建て、少し住宅街から外れたところにある、少し周りの家より大きいこの一戸建てがうち。
『おかえり』
『手洗ってきたら、お夕飯の準備手伝って〜』
リビングにランドセルを置きに入ると一足先に帰っていた母が、買い物袋から野菜やお肉を出していた。
『は〜い』
この家に来て3年が経った。親元を離れて暮らすことに、きっと普通の子どもなら寂しくて1週間持つかどうかだろう。3年は、長いなって。もう、母の顔を思い出せない。
ピンポーン
呼び出しのベルが鳴った。
今日は約束の日。
『いらっしゃい』
玄関で、はるかさんが父を迎え入れている声が聞こえる。
『お邪魔します』
『幸、部屋で準備してると思うから、もう少し待ってて』
『わかった』
準備なんて、とっくに終わってる。でも部屋のドアを開ける勇気が出ない。父の待つリビングの扉が重くて仕方ない。最近はこうなることが多く、父も察しているのだろう。最初こそ様子を伺いに来ていたが、何回も続けば自ら降りてくるのを待っていてくれるようになった。
深く深呼吸をして、全身に酸素を巡らせる。
ガチャ
『久しぶり、お父さん』
リビングのドアを開け、ダイニングテーブルに座っていた父に挨拶した。
急に入ってきたために、少し驚いた顔をしたが、すぐにいつも通りの柔らかい笑顔を向けた。
『久しぶり』
『こっちおいで』
父が自分の隣に座るように、手招いた。
それからしばらく3人で、報告も兼ねた話をした。
『行ってきます』
それから1日父と外出する。
『それじゃあ、いつも通り図書館でいいか?』
『うん』
車に乗りこみ、俺は助手席に座る。どこへ行きたいかと問われても、いまいちよく分からない。自分がどこへ行って、何をしたいのか。分からない。
だから、なんでもわかる図書館に行く。あそこは、なんでも揃ってて面白いんだ。母さんのことも。愛情も。なんでも。
ブーブー
ブーブー
音楽をかけていたが、会話なんて生まれなかった車内に、いきなりバイブ音が響いた。
父は、路肩に車を停めスマホを手に取る。連絡主は、ここからは見えなかった。
少し電話をしてもいいか。と問われたから、承諾すると、路地まで車を進め停車した。
車から出て、電話をする父の声は聞こえないが、表情、口の動き。全体的に見て、直感的に母なんだと、そう思った。
3分話したらほどしたら、車に乗り込んだ。
『待たせてごめんね、それじゃあ行こうか』
『ねぇ、母さんは、なんて言ってたの』
アクセルを踏もうとした父に向かって、そういった。まるで時間が止まったかのよう に、一瞬静寂が訪れた。
『今日はどこに行くの?って』
『楽しんできてねそう言っていた』
楽しんで。
『母さんに、俺のこと話してないの』
今の俺が、この日を楽しんでいるとほんとに思っているのだろうか。
『何も、話していない』
何もって
別居して
迷惑かけて
俺を放っておいて
『…だよ…』
『なにか、言ったか?』
『何がしたいんだよ』
『父さんも、母さんも、何がしたくて俺を瞬たちのとこに置いてもらってんだよ』
『母さんが俺をどう思ってようとそんなのどーでもいいんだよ』
『どうせ、俺の事なんて知る気もないくせに。』
『どうでもいいから!なんで父さんと一緒にいるのが嫌なのか、母さんのことを聞かなくなったのか!聞いてこないんだろ!』
昨日クラスのヤツらが瞬に言っていたことが、今になって効き始める。
ずっと思ってたことだ。
止まらない。止まって欲しくない。
この人に、全てを受け止めてもらわなきゃ
収まらない。
『それは、今俺たちと暮らすのは 』
『誤魔化すな!2人の世界に俺は必要なかったんだろ?母さんが俺がいることに耐えられなかった。ただそれだけの事だろ?なら』
『最初っから子どもなんてつくるなよ』
『もう帰る。』
勢いよく車の扉を閉める。
まっすぐ帰ったって、父が追いかけてくるだけ。少しだけ、寄り道。
それとも、もう帰らなくてもいいのかな。
小学6年生にして知った社会の秩序。
Ωは生きていけない。
Ωの子は幸せにはなれない。
Ωが居なければ。
第三性がなければ。
『俺だって、愛情を受けたい』
学校の裏にある公園。
瞬と学校が終わったら、よく遊びに来る場所。
来る途中で少しずつ冷静になってきていた。
なんであそこまで感情的になってしまったのか。もっと言うべきことが、あったのではないだろうか。
でも、あんな態度を取られるのも、悪口だって、全部あの人たちが悪いんだ。わるいんだ。
溢れてくる涙が止まらなかった。
俺の変化に、気がついて欲しかった。
悪口を言ってくる子達ですら、十分な愛情を受けているのに。俺はなんで。