テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
新しい景色を見た
新たに創設された営業戦略室
新たに割り当てられたオフィス
そして
新たなメンバー
室長は営業本部長が兼任
以下、主任の私ともう一人
担当の伊藤さん
伊藤さんは営業経験はなく
購買部からの異動
年下で人懐っこい
私にとって初めての後輩
組織上では
私も伊藤さんも桐谷部長の部下
伊藤さんは私の部下ではない
にもかかわらず
主任の私に
一定の敬意を持って接してくれる
立場が変わると
見える景色も変わる
周りの人も変わる
相も変らぬ
同じ会社の
同じオフィス
にもかかわらず
立場が変わると
世界はこんなにも変わって見える
私は今までに経験のない
新しい景色を見ていた
変わるのは何も良いことばかりではない
ランチ女子会の同期の同僚は
私の立場がどこか面白くなさそう
男の嫉妬の怖さも垣間見た
「どうせ間接部署だからね」
「まともに営業経験もなくて勤まるのかね」
引き継ぎの際には
営業メンバーから嫌味も言われた
陰口も叩かれた
夫もそうだ
夫よりも先に役職が付いてしまった私
きっと下に見ていた私が
面白くなかった事だろう
誰からか私の昇進を伝え聞いて尚
祝福の言葉も
労いの言葉も
一切なかった
——半官贔屓
態度の変わった人達は皆
今まで私が哀れな存在だったから
それなりに接してくれていたのだろう
そんな私が自分よりも恵まれれば
状況は一変
妬みの対象に早変わりする
人とはこんなにも変わるものなのかと
人の怖さを痛感した
研修を受けつつ
新たな業務に邁進する
脳死でこなせた
慣れ親しんだこれまでの業務とは違う
新たに学び
156
#ワンナイトラブ
新たに取り組む
新たな業務
そして
増した責任感
この中で
この新たな環境で
結果を出さなければならない
昇進したなどと
浮かれている余裕はなかった
ピコ♪
そんな中届いた一通のメール
管理職以上を対象とした一斉メール
私もそれに含められていた
今後の会社の中核を担う
新たな布陣
それらを一堂に集めた
社長からの激励会
もう蚊帳の外ではいられない
もう傍観者ではいられない
責任ある立場
「社長と会える……」
だが私には
不純な関心しかなかった
あの日以来
どう謝ろうか
どうお礼を言おうか
考え続けるも答えは未だ定まらず
時間だけが過ぎていた
極度の緊張を孕みつつも
あの日以来
会える社長に心弾ませ私は
激励会へと臨んだ
***
「多忙の中、お時間割いて頂き有難う御座います。諸君らは新たな基準、新たな評価制度の下で公平に選任された今後の会社を担って立つ重要な方々です」
「勿論、全社員重要なのは言うまでもありませんが、諸君らが中核となり会社の未来を牽引する立場となります」
「これまで同様の心構えでは困ります。これまでと同じではこれまでと同じ結果しか出ません。新基準に則り、これまで以上の成果を上げて下さい」
「それは、量や時間の事ではありません。結果と質です——」
威風堂々
一人壇上に立ち
雄弁を振るう社長は
正に雲の上の存在
恐れ多くも
私は目に見える所まで辿り着いた
私はそれが嬉しかった
会は手短に締め括られた
自分の立場と
その立場の責任を
再認識させられた会だった
終了後も社長の周りには多くの人だかりが
私如きが接触できる雰囲気でもなく
人の波に紛れて出口へと向かう
社長の目前を通り過ぎようかという刹那
ちょうど社長と話していた桐谷部長が
私を見つけ手招きをした
——ドキッとした
こちらを見る桐谷部長と目が合い
同時に
桐谷部長の目線の先を追う
社長とも目が合った
一瞬体が硬直してしまい
そのまま社長と見つめ合った
醜態を晒してしまった
あの日以来の邂逅
一瞬躊躇したが
邪念を振り払い
責任感を持って前進
私は社長の元へと小走りで向かった
その間も
私の視線は社長を捉え
社長も逸らさぬ私への視線
社長の下へ向かう
ほんの数メートルの距離が
永遠に感じた
駆け寄る私を
見つめる社長
力強く鋭い眼光
目の奥の優しさ
包み込むような包容感
滲み出る熱意
そして
仄かに香る安心する匂い
私の知る社長と
何も変わらない
社長は
あの日のままの社長だった
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