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「社長、紹介します。こちらが新設した営業戦略室の主任を務める水川さんです」
桐谷部長に呼ばれ
社長の下へ駆けつけた私
「大役を受けられましたね。改めて宜しくお願いしますね、水川さん」
「社長は既にお会いしておりましたか?」
「はい、初日の挨拶周りでも会いましたし、ランチミーティングでも一度」
「それは記憶力が良いですね~、これだけの社員と接していて覚えてらっしゃるとは!」
桐谷部長に呼ばれ
社長の下に駆けつけたものの
ただの紹介と挨拶
そりゃそうか
この状況ならそれしかない
「宜しくお願いします」
長身の社長を見上げ
頭を下げようとする刹那
目前に差し出される社長の手
「期待していますよ、頑張って下さいね」
一瞬躊躇するも
私は
会釈を止め
社長の手を取り
握手をした
大きくて
ゴツゴツとした
男の手
しっかりと握った手を
社長は優しく握り返した
その間の数秒
見つめた社長の瞳
これまでの社長との記憶が
走馬灯のように巡った
「はい、期待に副えるよう頑張ります!」
私の心は
不思議な浮遊感に包まれ
不思議と前向きになれた
「水川さん達にはまずは市場分析を優先的に取りまとめて頂く予定です。これまで各々バラバラだった情報を一元化します」
「ここ数年、競合他社の新規参入が相次いでいて市場が混沌としていますので……営業的に喫緊の課題ですから」
営業部長からの
私の業務に関する説明を聞き
口元に手をあて
一刻考え耽る社長
「……ふむ」
「市場分析レポートは報告の際CCに私も入れて下さい、タイムリーに最新情報が欲しいので。それ以外は営業本部で取りまとめた上で結構です」
「それと営業戦略会議には是非水川主任も出席して下さい」
「……は、はい。了解致しました」
こうして
久方ぶりの社長との出会いは幕を閉じた
私と部長は頭を下げ
その場を離れた
その間僅か2、3分ほど
緊張から解き放たれ
ホッする気持ちと
叶った再会に
満たされた高揚感
微少ながらも社長との接点が出来た
不束者の私には
それが嬉しかった
***
久方ぶりの
同期女子たちとのランチ女子会
そこに私の居場所は無かった
物理的にではなく
雰囲気的にだ
自分の業務に留まらず
伊藤さんのフォローもしなければならない
定時までの限られた時間
昼食を摂りながらの仕事
新たな部署での
新たな業務
新たな接点
営業本部メンバーとのランチミーティング
業務環境の変わった私は
以前までのように
毎日ランチ女子会に同席出来なくなっていた
以前と変わらぬ境遇で
以前と同様に
毎日ランチ女子会に同席する他の同期女子たち
元々大して相手にもされず
恐らく下に見られていた私
その私の変化が気に食わず
癇に障ったのかもしれない
「水川さん久しぶりじゃん!どう、新部署は?」
私の境遇には興味があるらしく
以前よりも根掘り葉掘り質問してくる
が、
聞くだけ聞くと
切望する悲惨な状況ではない事が不満なのか
不貞腐れた顔で話をぶった切り
私の混ざれない話題で盛り上がる
そうなると
以前と同じ状況に逆戻り
愛想笑いを浮かべ
頷くだけのモブ
恐らくこれが
彼女たちにとっての
彼女たちが望む私
それを俯瞰して
客観的に見れてしまう今の私
その光景が
以前の私の境遇が
とても歪で異常な光景に見えた
***
「水川先輩って鈴木さんと仲良いんですか?」
給湯室で
一緒にコーヒーを淹れていた合間
伊藤さんに唐突に聞かれた
伊藤さんは購買部の出身
鈴木さんとは面識があるのだろう
「う、うん、まあね。私たち同期だから」
「だからですか、なるほどですね~」
「……何で?何かあった?」
「いや、特に何がってわけじゃないですけど……ちょいちょい水川先輩の事聞かれるので」
伊藤さんによると
営業戦略室への異動後
しばしば鈴木さんから探りのようなメールが来るらしい
二人は面識はあったが
仲が良かったわけでもないのに
「んー……何となく鈴木さんの心中察してしまいますよね」
「何か女のドロドロした所っていうか……」
伊藤さんはコミュ力が高い
あっけらかんと思った事を口にするが
嫌味を全く感じない
むしろ
人懐っこく好感が持てる
年上に好かれるタイプだろう
「女の嫉妬は怖いですからね~気を付けて下さいね」
「あ、私は特に何も言ってませんのでご安心を。適当に流してます」
「私、頷き2号なんで」
「頷き2号?」
#溺愛