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《アメリカ・NASA/PDCO作戦室》
壁一面のスクリーンに、
一枚のシンプルなスライドが映っていた。
ASTRAEA-A IMPACT TIMELINE(暫定)
Day36
予測衝突時刻:
14:23 UTC(±2分)
地上受信時刻:
約+8分(通信遅延含む)
若いフライトダイレクターが説明する。
「オメガとの相対速度、
アストレアAの現行軌道、
最新のTCM-1結果を全部入れて……」
「“14時23分UTC±2分”ってところに
落ち着きました。」
「日本時間だと、
Day37の夜早い時間帯ですね。」
別のスタッフが手を挙げる。
「“±2分”って、
テレビ的には
だいぶブレて見えませんか。」
「ニュースでは
“14時23分ちょうど”って
言いたがると思うんですけど。」
フロアの片隅で、
広報担当が小さく笑った。
「そこはこっちで
うまく“時間の概念”を説明するよ。」
「“宇宙では秒単位のズレも
許されない一方で、
地上から見えるのは
数分後の姿なんです”って。」
「テレビ局向けには、
“IMPACT WINDOW(衝突予測時間帯)”
という言葉で出しましょう。」
アンナ・ロウエルは、
腕を組んだまま
タイムラインを見つめていた。
「……“Xデー”か。」
誰かが呟く。
「メディアは
そう呼び始めてますね。」
「Day36を“オメガXデー”として、
各局が特番を組むって。」
別のスタッフが
タブレットを掲げる。
「ほら、
このテレビ局のプレスリリース。」
そこには、こう書かれていた。
〈全球同時中継
“OMEGA X-DAY LIVE”
〜人類の矢が空を変える瞬間〜〉
「タイトルの付け方、
うちよりセンスありますね。」
誰かが冗談を言うと、
控えめな笑いが起きた。
アンナは小さく首を振る。
「いいタイトルよ。」
「ただし忘れちゃいけないのは、
“これはショーじゃない”ってこと。」
「この“14時23分±2分”の中に、
“何千万人分の生活”が
ぶら下がってる。」
広報担当が真顔に戻る。
「IMPACT WINDOW、
各国宇宙機関、IAWN、SMPAGに共有済みです。」
「JAXAにもデータを渡したので、
あちらは“ツクヨミのシミュレーション”を
更新しているはず。」
アンナは、
画面隅に小さく書かれた文字を見た。
〈NOTE:
IMPACT SUCCESS ⇒ TSUKUYOMI “STANDBY”
IMPACT FAILURE/INSUFFICIENT ⇒ TSUKUYOMI “LAUNCH DECISION WINDOW”〉
(成功すれば“待機”。
失敗すれば“一気に主役”。)
(この6日間で、
世界は“見る側の準備”を進めるんだろう。)
(私たちは、“外さない準備”を
黙って続けるしかない。)
《東京都内・キー局 編成会議室》
長テーブルの上には、
プリントされたタイムテーブルと
スポンサー一覧。
ホワイトボードには
大きくこう書かれている。
〈Day36
OMEGA X-DAY 特別編成案〉
編成部長が指でラインをなぞる。
「14時〜20時まで、
ほぼ丸ごと“オメガ特番”に振る。」
「NASAとJAXA、ESAの共同会見枠、
IMPACT WINDOWに合わせた
カウントダウン中継。」
「スタジオには
宇宙物理の先生と防災の専門家、
それからタレント枠として
“宇宙好き”芸能人を数名。」
若いディレクターが、
企画書を補足する。
「“もしアストレアAが外れたら?”
“もしオメガが割れたら?”の
シミュレーションCGも
用意しておきます。」
「視聴者参加企画としては――」
・“あなたのXデーの過ごし方”投稿企画
・#オメガXデー #人類の矢 アストレア のハッシュタグ連動
・全国各地の“空を見上げる人たち”ライブ中継
「……という形で。」
営業担当が
スポンサー名の入った紙を掲げる。
「すでに
飲料メーカー、保険会社、
ネット配信サービスから
“番組内提供”の打診が来ています。」
「“世界中が見る日だからこそ、
自社のメッセージを重ねたい”と。」
隅に座っていた
若手編成マンが、
意を決して口を開いた。
「あの……一応確認なんですが。」
「これ、
“万が一ひどい結果になった場合”――」
「番組のアーカイブや
スポンサーとの関係って
どうするつもりなんですか。」
会議室が一瞬静かになる。
部長は
少しだけ目を細めて言った。
「それを言い出したら、
“ニュース番組”は
何も作れなくなる。」
「我々がやるのは、
“世界が注目する瞬間を伝える枠”を
用意することだ。」
「“喜びの特番”になるか、
“黙祷の特番”になるかは、
あくまで現実次第。」
別の幹部が
少し柔らかい声で続ける。
「だからこそ、
“はしゃぎすぎないライン”を
守る必要がある。」
「テロップの色、
BGM、
タレントのコメント。」
「全部“生放送で空気が浮きすぎないように”
事前にガイドラインを決めておこう。」
若手は
うなずきながらも、
心の中のざらつきを
拭いきれずにいた。
(“これはショーじゃない”って
分かってるのに、)
(編成表を見てると
どうしても“最大視聴率狙い”の
特番に見えてしまう。)
そのテーブルの端には、
小さくこう書かれたメモもあった。
〈※災害発生時は即座に“報道特別番組”モードへ切替〉
《JAXA/ISAS 相模原キャンパス/ツクヨミ開発室》
モニターには、
さっきNASAから届いたばかりの
「IMPACT WINDOW」のデータ。
その横には、
“TSUKUYOMI CANDIDATE TRAJECTORY”
と書かれた三本の線が
オメガの進行方向に沿って引かれている。
「つまり、
アストレアAが
“どれくらい押せたか”によって、」
「ツクヨミの打ち上げ時期は
この“3本の窓”のどれかになる。」
若手エンジニアが説明する。
「一番早い窓だと、
アストレアAの結果を見て
ほとんど“即決”になります。」
「遅い窓だと、
Day20〜15あたり。」
「どっちにしても
“アストレアAの成功/失敗のニュース”と
世論の反応が
モロにぶつかるタイミングですね。」
白鳥レイナが
椅子にもたれ、
天井を見上げた。
「Day36が
“世界のカメラが空を見上げる日”になって、」
「その数日後には、
“ツクヨミを飛ばすかどうか”の
判断を迫られる。」
「……止まる暇、ないわね。」
別のメンバーが
モニターの隅を指さす。
「これ、
IAWNとSMPAGから来た
コメント付きのメモです。」
『“IMPACT DAYの全世界的な注目は
プラネタリーディフェンスへの
理解を深めるチャンスである。”』
『“ただし、
“ショー化”が進みすぎると
次の危機の際に
逆効果になりかねない。”』
レイナは
苦笑いを浮かべた。
「……世界規模で
同じ悩みを抱えてるってことね。」
若手が、
ノートPCの画面を見せる。
「ツクヨミの
ロゴコンペも、
もう始まっちゃってます。」
「宇宙産業クラスターと
デザイン会社が組んで
“民間参加プロジェクト”として。」
画面には、
スタイリッシュな月のマークや
和風テイストの矢印ロゴが
ずらりと並ぶ。
「いいロゴは歓迎する。」
レイナは
真顔で言った。
「宇宙機は
“覚えてもらえる名前と姿”を
持つことも大事だから。」
「でも、
“ロゴだけが完成して
中身が間に合いませんでした”って
ことにならないようにして。」
「こっちはまだ、
タンクのボルト一本の
検証が終わってない。」
《総理官邸》
会議室のスクリーンに、
民放各局とNHKの
“Xデー編成案”一覧が映っている。
中園広報官が
説明を続ける。
「Day36、
日本時間では夜から深夜にかけてが
IMPACT WINDOWにかかります。」
「各局とも
“世界同時中継”を看板にした
特別番組を
編成する予定です。」
「こちらは民放A局。」
〈OMEGA X-DAY LIVE
〜人類の矢が空を変える瞬間〜〉
「こちらは民放B局。」
〈決戦オメガ
世界は何を見届けるのか〉
「NHKは比較的抑えめで、」
〈特集 オメガXデー
〜地球防衛の最前線〜〉
サクラは
腕を組みながら
一覧を眺めた。
「……タイトルを見るだけで、
それぞれの局の
“らしさ”が出るものね。」
藤原危機管理監が言う。
「問題は、
“演出の温度”です。」
「国民が
“これは希望の祭りなのか、
最後の中継なのか”
判断できなくなるようなトーンは、
避けるべきかと。」
中園がうなずく。
「各局には
“BGMやテロップの色調など
過度な盛り上げ演出を慎重に”
というお願いを出します。」
「一方で、“何もやるな”と言うと
“情報隠しだ”と捉えられるので……」
サクラは
リモコンを手に取り、
一度画面を消した。
「いいわ、中園さん。」
「公式としてのコメントは
こうしましょう。」
彼女は
少しだけ視線を落とし、
言葉を選んで続ける。
「“私たちも、
Day36を
世界と一緒に見届けます。”」
「“ただし、
これは“勝利の花火大会”ではなく、
“人類が恐怖と向き合う一つの節目”です。”」
「“どうかテレビの前で、
ただ騒ぐだけでなく、
自分の明日と周りの人を
少しだけ考えてください。”」
中園はメモを取りながら、
静かに頷いた。
「……分かりました。」
「“祭り”にも、“葬式”にも
しないトーンで。」
「“生きている人の番組”として
各局に伝えます。」
《新聞社・社会部》
桐生誠のデスクには、
各局から送られてきた
「Xデー特別編成のお知らせ」が
山になっていた。
「……これ全部、
記事にまとめるんですか。」
若手記者が嘆く。
「“番組表のお供にどうぞ”的な。」
編集長が
コーヒーを片手に近づく。
「ああ、
“Xデー視聴ガイド”的なやつな。」
「おまえがやれ。」
「“どのチャンネルを見ればいいか”じゃなくて、
“どういう視点で見るか”を書け。」
桐生は
プリントを一枚一枚めくりながら、
内心で舌打ちした。
(“どこを見るか”じゃなくて、
“見るべきかどうか”から
迷ってる人だっているのに。)
「この記事、
タイトルどうします?」
若手が聞く。
「“オメガXデー、
各局はこう伝える”とか。」
桐生は
少し考えてから言った。
「“中継を見るか、
空を見るか。”」
若手が首をかしげる。
「……二択なんですか?」
「いや、
どっちも正解だ。」
桐生は苦笑する。
「テレビを見てる人も、
窓の外を見てる人も、
何も見ないふりをする人も。」
「どれもたぶん、
“普通の反応”なんだと思う。」
画面には、
さっき見た視聴率予測表と
NASAからのIMPACT WINDOWの数字。
(俺は、
その全部を
まとめて“コンテンツ”にしている。)
(それでも
やめるわけにはいかないのは――)
若手が、
何気なく聞いてきた。
「桐生さんなら、
Xデー当日、
どこで何を見ます?」
桐生は、
少しだけ間を置いて答えた。
「……生放送のスタジオ。」
「モニターの映像と、
スタジオの空気と、
廊下のテレビと、
窓の外の空。」
「全部見て、
あとで後悔するつもりだ。」
若手は、
よく分からない顔で笑った。
「変な答えですね。」
「自分でもそう思う。」
桐生は、
新しい原稿ファイルを開いた。
『第6回案:
“Xデーの台本――世界がショーを準備する日”』
Day42。
オメガまで、あと42日。
世界は“6日後の瞬間”に向けて
番組表とロゴと台本を整え、
NASAとJAXAは数分単位の
IMPACT WINDOWと
ツクヨミのシミュレーションを
黙々と積み上げ続けていた。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.
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