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その人混みの中を、異様な組み合わせが歩いている。
白の魔女とバリスハリス王国国王、レオニス・バリスハリス。
「これはなんだ?」
レオニスは露店に並ぶ黒紫の粒を指差した。
「香辛料です。ぶどうのような見た目ですが、中は緑色で。潰すと柑橘系の香りがします」
セレナが一粒つまみ、軽く割る。
爽やかな匂いが、ふわりと立った。
「ほう……肉に合いそうだな」
「ええ。脂の強い料理と相性がいいですね。最近ではお湯に入れるのが流行っています」
レオニスは感心したように頷き、次の店へ視線を移す。
「では、これは?」
吊るされた青黒い干し肉。
「ブルービストという、豚に近い魔物の干し肉です」
「青いな」
「ええ。見た目は最悪です」
「美味いのか?」
「美味しくはありません」
きっぱりと言い切る。
「ただ、不味くもないので。貴重なタンパク源として重宝されています」
「なるほど」
レオニスは腕を組み、真面目に考え込む。
「では兵糧向きだな」
「……王様は市場でも軍備のことを考えるのですか」
「癖だ」
あっさりと答える。
その横顔に、昨日森を焼いた男の面影がよぎる。だが今は、どこか楽しげだ。
ふと、セレナが足を止めた。
「ところで、レオニス陛下」
「なんだ?」
「なぜ、朝一番に私が泊まっている宿へと来られたのですか?」
しかも護衛を最小限にして、レオニスは当然のように答えた。
「それはもちろん、デートというものをしているのだが?」
「……デート?」
「おや」
口元がにやりと歪む。
「白の魔女はデートを知らないのか?」
「それぐらい知っていますよ」
即答。
「ほう、知っていたか。異性同士が親密になるためのイベントだ」
「それを、なぜ私と陛下が、という意味です」
レオニスは満足げに頷く。
「つまり今、俺たちは親密になる時間を過ごしているわけだ。これ以上の説明がいるか?」
「私は了承した覚えがありません」
「今、共に市場を歩いているだろう?」
「それは陛下が勝手に!」
「嫌なら帰ればいい」
さらりと言う。足は止めない。
「だが、ついてきている」
視線だけが、横へ流れる。
「違うか?」
セレナは言葉を詰まらせる。
「違います」
きっぱりと否定する。
「レオニス陛下が『来い』と言えば、私は来るしかない。この国の王の言葉は、私の行動など、容易く縛れるほどに強力なのです」
感情を抑えた声音。
だが、その歩幅は王と揃っている。
レオニスは、ふっと笑った。
「なるほど」
一歩、わずかにセレナへと近づく。屋台の柱に手を置き、凛々しい顔を寄せた。
「では俺は命じない。白の魔女よ、俺とデートしてくれるか?」
「……」
レオニスの直球な言葉に、セレナはパクパクと口を開けては閉じる。手で口を抑え、頬が真っ赤に染まる。
「3」
一拍。
「2」
セレナは端正な顔から視線が逸らせない。
「ッ! なんのカウントですか!」
「それはもちろん。王の俺の時間は貴重だ。早く答えを言え。行くか、行かないかだ」
「行かな……」
「そうか。少ない時間だったが楽しかった」
レオニスはそうぶっきらぼうに言うと、歩き出した。
「本当に王なの」
セレナの心臓がバクバク早鐘を鳴らす。
「白の魔女!」
遠くからセレナを呼ぶ声。
「明日もデートするぞ」
「えっ!?」
市場の喧騒が、遠のいた気がした。