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ドアから出るとそこには床に引かれた
ラインがあった。
壁に点灯する矢印。
ただそれに従って歩け、
と言わんばかりの一本道。
罠もない。
音もしない。
警告も、選択肢もない。
……あまりにも、親切すぎる。
(おかしい)
すちは歩きながら、足取りをわずかに
遅くした。
今までのゲームは違った。
必ずどこかで疑わせて、焦らせて、
奪わせる。
そうやって人間を削るのが、
このデスゲームのやり口だ。
それが――
ただ歩くだけ?
(ルートが決められてるってことは……)
考えが、自然と最悪の方向へ向かう。
「…なんか、変へない、?」
みことが小さな声で言う。
さっきまでの取り乱しが嘘みたいに、
静かだ。
「……うん」
すちは短く答える。
なつといるまは黙ったまま進んでいる。
二人とも、ラインから一歩も外れない。
(“考えるな”って言われてるみたいだ)
このルートは、安全だから用意されて
いるんじゃない。
考えさせないために用意されている。
すちは立ち止まり、床と壁、
天井を一度ずつ見る。
何もない。
――何も、見えない。
(見えないだけ、か)
胸の奥に、じわりと嫌な感覚が広がる。
「……この先、急に来るよ」
誰に向けたわけでもなく、そう言った。
「何が?」とみことが聞く。
「選択」
それだけ答えて、また歩き出す。
何も起きない時間が、
一番人を油断させる。
すちはそう知っていた。
28回も、生き残ってきたから。
(次は……“歩いてきたこと”自体を、
後悔させる)
そんな確信だけが、
静かな通路に重く残っていた。
ーーー
結局何もなずにドアまでのルートが
あるだけだった。
ドアを開けるとそこには
古びたエレベーターがある部屋だった。
(……やっぱり来たか)
すちは一番に中へ乗り込む。
床を踏み、壁を叩き、天井を見上げる。
異常なし。
「……大丈夫。乗って」
その言葉に、
みことが恐る恐る入ってくる。
次に、いるま。
「なつ、大丈夫…来い」
なつが一歩、エレベーターに足を入れた――その瞬間。
ビービーッ、ビービーッ
耳障りな警告音。
天井のランプが、赤く点灯する。
全員が、同時に固まった。
(……来た)
すちは表示パネルを見る。
何も書かれていない。理由は示されない。
人数オーバーか。
それとも、体重か。
どちらにしても――
誰かが、降りなきゃ止まらない。
みことの呼吸が浅くなるのが分かる。
いるまは無言で、なつを背にかばうように
半歩前に出た。
(数字は見せない……選ばせる気だ)
すちは、ゆっくりと警告音を聞きながら
考える。
ここまで“決められたルート”を歩かせて、
最後に突きつけるのが、これ。
(選択の理由すら、与えない)
エレベーターの赤い光が、
全員の顔色を均等に染めていた。
「……さて」
すちは、低く息を吐く。
「誰が降りるか、だね」
「は? まさか……ここで殺し合いでも
すんのかよ?」
いるまの声が、
警告音にかき消されそうになる。
「するわけないでしょ」
すちは、赤く点滅するランプから
目を離さずに答えた。
「……武器だらけの部屋に
放り込まれたなら、そういう発想も
出てくるけどさ」
いるまが歯噛みする。
「じゃあどうするんだよ」
一拍、間を置いてから、すちは言った。
「全員が“同じ重さ”になればいい」
いるまが眉をひそめる。 「……は?」
「人数か体重かは分からない。
でもどっちでも、調整はできる」
その言葉に、
みことの肩がびくっと跳ねた。
「冗談だろ……そんなの、できるわけない」
「それができるかどうかじゃない」
すちはようやく、いるまを見る。
「“できない”って思わせるところまでが、
このゲームだよ」
「大丈夫…できるいたくないようにするし
ちょっと切断されるぐらい慣れときな」
そして、視線をなつに一瞬だけ向ける。
「それとも何?
隣にいる“大事な人”を、
少しも危険に晒したくないとか?」
「……っ」
いるまの反応で、
確信するには十分だった。
「安心して」 すちは声を落とす。
「無茶なことをするつもりはない。
ちゃんと考えて、ちゃんと“処理”するから」
優しい言葉のはずなのに、
それはなぜか、
救いよりも恐怖に近かった。
警告音は、まだ止まらない。
ーーー