2025.3.18
赤目線
バチンッッッ!!!
「……は、」
突然、目の前のモニターが光を失う。
きっと季節が戻ったように降った雪の影響で、ブレーカーが落ちたんだ。
あぁ、まだ作業中だというのに。
最後にバックアップが取られたのはいつだろうか。
どのくらい作業していた?
どこから作り直しだ?
いつになったら再開できる?
う”ぅ”…どんどんフラストレーションが溜まってゆく。
ひとまずブレーカーを上げにいって復旧するかの確認しなければ。そしたらメンバーと今まで会議していた社員に連絡し、て……あれ…?
きんさんって確か……
昔に聞いた話を思い出す。
まずい、思考に時間を取られた。
停電して何分経った?
何分間彼を独りにしてしまった?
ヘッドホンを放り投げて、部屋の出口へと向かう。背後で何か倒れる音がしたがどうでもいい。
はやく、はやく、はやく。
今すぐに彼の所へ。
どこにいる?
リビングにもキッチンにもいない。
二人の寝室…にもいないなら彼の部屋?
……いた。
「きんときっ!!」
「ハヒュッ…ハッハァッッ、ぶるっ…ゲホッゲホッ!」
「ごめん、ごめんね…怖かったよね。」
「ハッハッハァッッハッ…」
「きんさん…お願いだから呼吸止めて。」
僕とさほど変わらないはずの彼は小さくうずくまり、酷く震えていた。
すぐにでもバラバラになってしまいそうな彼を、繋ぎ止めるように抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫だから信じて。」
「ハァッ…ヒューッッ…ハッッハッ……ヒューーッ」
「そう、上手上手。」
「……ッッハァ、ゥア”ッッ……」
「いい子だよ、きんさん。そのまま吐くことに集中して。吸おうとしないで。」
意識が混濁している中、僕の声を聴いて可能な限り応えてくれる。
過呼吸に対して有効な対処方法はいくつかある。例えば呼吸を止める、息を吐く、高濃度の酸素を取り込む。
人間が吐く息には多くの酸素が含まれている。
「ちょっと苦しいよ……ぁむっ」
「んっ!?……んグッ…」
「っはぁ…もっかいね。」
「…ん”っ……ケホッ…」
「んぁ……どう?呼吸落ち着いた?」
「ぅん…ありがと///」
身体の震えも呼吸の乱れもだいぶおさまってきたが、ここで油断してしまったらすぐに思い出してまた苦しむことになる。
原因の感覚を塗り替えないと。
ごめんねきんさん。
もう一回…ほんの少しだけ。
「…さっきまでなにしてたの?」
「う、た…歌、録ってた……そしたら、急にっ、全部っなくっなっ、てっ…ハッ、ハヒュッッ…」
「そっか…視覚も聴覚も失って怖くなっちゃったか。でも、もう大丈夫だよ。まだ暗いけど僕がここにいるの分かるでしょ?ねっ。きんさんは独りじゃないよ。」
「ハァッ、んっ……だいっじょーぶ…だいじょうぶ…」
きっとこの言葉は僕が心配しないように言っているわけではない。自分にそう言い聞かせているんだ。
僕にできる対処は終わった。
これでさっきの出来事を思い出しても、過呼吸になることはないだろう。
「どう?もう大丈夫?」
「うん…ありがとぶるっく。」
「いーえ。弱ってるきんさんも可愛くて好きだけど、やっぱり笑顔でいてほしいからね。」
手足の痺れはまだ残っているが、心は正常を取り戻したようで安心だ。
「ねぇ…」
「ん?なに?」
「やっぱりまだ怖い…から……頭ん中、ぶるっくでいっぱいにして…?」
「んへぇ!?…いいよw僕のことしか考えられなくしてあげる。」
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