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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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それから少し話をして、詳しくは帰ってからということで解散した。


メアリーは俺が戻るまでカイアさんにお願いすることになった。


だが、家を離れる際、メアリーが服の裾を掴んでなかなか放してくれない。


………………


説得するのに結構な時間を割いたのだが何とか納得してくれたみたいだ。


そして出がけにカイアさんをつかまえ、


「ほんと不躾なお願いになるんですが、メアリーの服と靴、下着といった身のまわりの物をお願いしてもいいですか?」


「フフフッ、もちろんいいわよ~。メアリーちゃんかわいいしバッチリ任せてちょうだい!」


何か、カイアさんの目がキラリと光っている。


「……あ、あのぅ、普通の格好でお願いしますね。普通ので……」


サムズアップして見送ってくれるカイアさんに、俺は一抹の不安をいだきながら半ば強引に金貨を押しつけた。


そして裏庭にでると、誰もいないことを確認して。――トラベル!


何くわぬ顔で広場に戻って、炊き出し作業を最後まで手伝った。


………………


あとかたづけも終わり、いざ解散! ……とはいかなかった。


――ひしっ!


シスターマヤである。


俺の左腕は拘束されている。彼女のやわらかい物によって。


ちょっぴり嬉しさもあるが、毎回本当に勘弁してほしい。


まあ思えば、会いに来るといっておいて散々避けてきた報いかな。


今回は少々放置期間が長かったからなぁ。――やれやれ。


また教会へも行かなければならないし、女神さまに聞いてみたいこともあるし。


無下にはできないんだよね~。






俺は半ば諦めの境地で、シスターマヤをくっつけたまま戻ることにした。


変なうわさが立たなければいいんだけどねぇ。


シロは冷やかすかのように俺たちの周りをぐるぐると回っている。


(シロはいつも楽しそうでいいよなぁ……)


帰りは皆でヨハンナさんの屋敷に寄ってあいさつ。炊き出しの成果などを報告した。


美味しいお茶をご馳走になってシュピール邸をあとにした。


その後、教会では一苦労。


「また明日にでも教会を訪ねますから」


「本当ですね。信じてすから」


ようやくシスターマヤから解放された。


「今日は1日つきあわせてしまったな。本当にありがとう」


赤髪を垂らし、俺のまえで頭を下げているアーツ。


「ハハッ! やめてくれよそういうの。俺も楽しかったし、またいつでも誘ってくれ!」


「そうか……、ゲンはいいヤツだな。では、またギルドで会おう!」


そう言ってアーツとも教会の前で別れた。


俺はシロを連れて中央広場沿いにある繁華街へと向かった。


店をまわっていろいろと買い込んでいこう。


(辛い思いをしたメアリーに美味しいスイーツでも作ってあげよう)






まずは小麦粉からだ。店で一番良いものを見せてもらったのだが……。


手に取ってみると香りは普通だがキメは少し粗いか。


色は……、仕方ないか。


とりあえず1袋 (20㎏) 買う。


”ふるい” はないのかとそこの店主に尋ねてみたところ、木で出来たものならこの先の店に置いてあるという。


教えてもらった店に赴き、目の粗いものと細かいものを購入した。


続いては砂糖だな。


店を探して見つけはしだが。――高い!


一袋 (1㎏) ぐらいのやつが大銀貨1枚って、日本円にしたらおよそ1万円だぞ。


町の食堂なら定食を20回は食べられるぞ!


グダグダ言っててもしかたがないので5㎏分買うことにした。


懐はわりと暖かいのだ。


店のおやじもビックリしていたが、スイーツ作りには欠かせないものだからな。


ミルクは濃い目のやつだがあった。――よかった。


まあ、インベントリーに入れておけば腐らないし20リッターぐらいの樽に入れてもらった。


さてさて問題はコレがあるのかだよなぁ。


――たまご――


そう、鶏の卵である。


だいたい鶏がこの世界にいるのだろうか? 村でも町でも見かけたことがないのだ。


何軒も店をまわって探してく。お店の人に聞いても首を傾げてばかり。






その合間に大きめのボウルや木製の小さなカップなどを揃えていく。


酒屋で果実酒やリキュールなんかも同時に探していく。


すると、2軒目の酒屋で小さい樽に入ったやつを見つけた。


少し舐めてみると、サクランボのような味と香りで意外に濃厚だった。


――もちろん買いだ!


そして『バニラエッセンス』だが。


これも探しているのだが一向に見つからない。


まあ、このバニラというラン科の植物自体がこの世界には無いのかもしれないが。


そこで、気の良さそうな酒屋のおやじに樹木から染みでた蜜のようなものはないかと尋ねてみたのだが……。


――ビンゴ!!


知り合いの店にハチミツと一緒に置いてあるそうだ。


ただ、外国産で少々お高いという話なのだが。


早速その店に行き、例の樹液を確認してみた。


すこし甘みが足りないが香りは『メイプルシロップ』そのものだ。


もちろん小樽で買いましたとも。


ついでだったのでハチミツも買いましたとも。


やはり問題は ”たまご” なんだよなぁ。


これがないと何もできないのだ。






焦ってもしょうがないのだが何とかならないものか。


あの卵だよ。


大安売りなら1パック100円切ることも珍しくないような。


右を向いても左を向いてもない。ない。ない。


(あああぁぁああっ! これはダメなのかぁ?)


頭を抱え諦めかけていたとき、


[マスター、それはコッコの卵ではダメなのでしょうか?]


どこかで聞き覚えのある声が俺の頭に響いてきた。


あっ…………、完全に忘れていたなぁ。


『ダンジョン・サラ』という存在を。


そうか! サラに頼めば大概のことは何とかなるんじゃないの?


(ごめん、サラ。そのコッコとはどんなものなんだ?)


[はい、マスターにも知識としてはあるかと思いますが、このダンジョン13階層で生息している地を這う鳥でございます]


あぁ……、居たなぁコッコ。それに卵もな。


俺はダンジョンによって強制的に植え付けられた記憶をたどり、モンスーターであるコッコのデータをひっぱりだした。


そうなのだ。


ダンジョンからは離れているがこの町の下を地脈が通っているのだった。


(サラ。それならダンジョンでとれるものは直接俺に届けられるのか?)


[はい、勿論です。マスターなのですからお手元にもインベントリーへもお届けすることが可能です]


と、いうことらしい。では試しに……


(コッコの卵を100個。砂糖も抽出して白く精製したものを100㎏。精製したミスリル鉱石を拳大で10個頼めるか?)


[排出先はマスターのインベントリーで宜しいですか?]


(うん、それで問題ない)


そして、すぐにインベントリーを確認するとキッチリその品がリストに表示されている。


凄い! これは凄すぎるだろう。


何がチートかって、コレだよな!


ダンジョンとを結ぶラインの上に居さえすれば、ほぼ無尽蔵に物資が手に入るのだから。


砂糖を少し掌《てのひら》に出して舐めてみた。


あま―――――――――――――い!


うん、これは間違いなく砂糖だな。色も白いし完璧だ。


コッコの卵は家で割ってみるとして。


では、油はどうだろう?


菜種油みたいな植物油は出来るのだろうか?


今度頼んでみることにしよう……。


さて、帰りますかね。


おっと、その前にコレは今買っておいた方がいいだろう。


俺は道で花を売っている少女に声をかけ持っている花をすべて買った。


そして、花をインベントリーに納めるとシロと一緒に家路についた。






家に帰りつくと、裏庭の井戸で手を洗いシロに浄化をかけてもらう。


貧民街 (スラム) に行っていたので念のためだな。


こういうものは自分ではなかなか気づかないからね。


「ただいまー!」


裏口から家の中に入った。


――ひしっ!


メアリーが俺に抱きついてきた。


不安にさせてしまったようだ。


「いい子にしてたか~?」


そう言ってメアリーを抱き上げて腕に乗せる。


――軽いなぁ。


いっぱい食べさせて元気にしてあげないとな。


メアリーを腕に抱いたままシロを連れて2階の自室に入る。


ベッドの上にメアリーをおろして俺もベッドの縁に腰掛けた。


シロは目の前にお座りをして、ゆったりと尻尾を振っている。


俺はメアリーの方へ振り向くと、


「これからは俺たちがメアリーの家族になる。ず~と一緒だぞ」


やさしい声でそう宣言した。


するとメアリーは座っている俺にしがみつき、


うっ、ううっ、うぇ~~~~~~~~~~~~~ん!


大粒の涙で顔をくしゃくしゃにして泣き出してしまった。


「だいじょうぶ、だいじょうぶ」


メアリーが落ち着くまでやさしく背中を撫でつづけた。


しばらくすると、泣き疲れたのかメアリーはスースーと寝息をたてはじめた。


(ああ~、寝ちゃったかぁ。緊張の連続だったからなぁ)






さてと……。


眠ってしまったメアリーをベッドに寝かせないとな。


そう思って俺は立ち上がりかけたのだが、メアリーが服の裾をガッツリ握ったまま離さないのだ。


……しかたがない。起きるまではこのままでいるとするか。


インベントリーから毛布を取りだし寝ているメアリーに掛けてやる。


その間に申し訳ないが鑑定させてもらうことにした。――鑑定!



メアリー・クルーガー Lv1


年齢 5

状態 憔悴

HP 1313

MP 8/8

筋力 4

防御 2

魔防 2

敏捷 5

器用 2

知力 4

【スキル】 魔法適性(光・風・水) 魔力操作(1)

【魔法】 光魔法(1) 水魔法(1)

【称号】 大公の庶子



おっ、えぇ? 家名がある……。


魔法適正は3つもあるのか。


はぁ~! 大公の庶子ってことは大公さんの側室か妾の子ってことだよなぁ。


なんであんなスラムに居たんだ?


でも、この国の大公さんって人族じゃないの?


まぁ、今はどうでもいいけど。


そうだ! スラムの小屋からいろいろと持ってきてるんだった。


俺はインベントリーのリストを開いた。


う~ん、これかな?


出したのは50㎝程の木製の箱だ。


爺さんが眠っていたベッドの下にあったやつだな。


蓋を開けてみると中には書類や手紙の束?


そして、カチューシャ?


いやいや、これは『ティアラ』でしょう。姫様なんかがよく付けている。


それと目を引くのは30㎝程の小ぶりの短刀だけど。


懐剣かな? 鞘は銀製で装飾が見事だ。


これらだけで一財産はあるよなぁ。


普通なら爺さんが死んだ時点で何もかも持っていかれているだろう。


メアリーにはそれを止めるすべはないのだから……。


今日が炊き出しの日で、ほとんどの住民が広場に集まっていたことも幸いしたよな。


「…………」


まあ、不幸中の幸いだと思っておこう。


う~ん、これらはメアリーのお母さんの持ち物だったのだろうな。


だとすると、母親はすでに他界しているのだろうか。


メアリー達はいつからあのスラムに居たのだろう?


お父さんの顔は覚えているのだろうか?


「…………」


考えたところで詮無いことだよな。


まぁ、俺がしっかり育ててやるさ。


一人でも強く生きていけるように導いてやる。


(なーにシロだって居るんだ任せとけ!)


メアリーの頭をやさしく撫でながら、俺はそう心に誓うのだった。

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