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盛大に泣きじゃくったあと疲れて眠ってしまったメアリー。
そして俺は目の前にお座りいるシロに視線を向けた。
おもむろに頭を撫でてやりながら、
「シロもごめんなぁ。勝手に決めてしまって」
『いっしょ、うれしい、できた、あそぶ、まもる、いもうと』
俺のそんな言葉にシロが念話で答えてくる。
「そうかぁ妹か……。そうだな、しっかり守ってやろうな」
何度も頷きながら尻尾を振ってくるシロ。本当に嬉しいようだ。
まあ、メアリーは犬人族でもあるし、妹分として面倒を見てくれるということかな。
俺はつい嬉しくなり、シロをわちゃわちゃともふり倒した。
それから……、
(サラ、聞こえているか?)
[はい、マスター。お呼びでしょうか]
(よし、範囲内だな。今居る所がこの町での俺の拠点になる。記録しておいてくれ)
[はい、マスター。了解しました]
………………
「……おじいちゃん?」
ちいさな声が耳に入ってきた。メアリーは少し寝ぼけているようだ。
そして、ハッ! となって俺に気がつくと恥ずかしそうに俯いてしまった。
「眠ってスッキリしたかぁ? 爺さんは明日みんなで見送ってやろうな」
すると、小さな頭をコクんと振って頷いてくれた。
「さて、俺は今から裏庭に出て剣の素振りをするが、一緒に来るか?」
メアリーに問いかけると服の裾をそっと掴んでくる。
「そうか、じゃあみんなで行こう!」
そういって俺はメアリーを抱えると剣をもって裏庭にでた。
バスターソードを鞘から抜いて、一振り一振り気合を入れながら打ち込んでいく。
キッチリ200回振り終えて納刀する。
首筋の汗を拭いながらメアリーの方を見やると、シロと仲良く遊んでいたようだ。
そして……、あっ!
メアリーが可愛い服を着ていることにようやく気づいたのだ。
薄い黄色のワンピースだ。
尻尾が出せるようちゃんと加工もしてある。
茶革の靴も可愛いがしっかりしている物のようだ。
って靴? さっきまで履いてなかったよな。
話を聞いてみると、
俺が剣を振っている間に、カイアさんが裏口から顔を出して『おいで、おいで』されたのだという。
なるほどそうだったのか。 後でカイアさんにお礼を言っとかないとな。
その後の夕食はメアリーの歓迎会ということもあり、料理の品数も多くとても賑やかものになった。
最初は緊張していたメアリーだったが、同じぐらいの年のミリーがいたお陰か自然と馴染んできたみたいだ。
食事の後はリビングに移りミリーとメアリーに昔話 (はなさか爺さん) を聞かせてあげた。
すると、シロがポチのまねをして前足で土を掘る動作をしてはリビングに居たみんなを笑わせていた。(芸達者なやつである)
しばらくすると、ミリーとメアリーは二人で頭をくつけて眠ってしまった。
カイアさんがミリーを抱え部屋から出ていく。寝室へ向かったのだろう。
メアリーには毛布をかけ、しばらくソファーに寝かせる。
俺はマクベさんと二人で話をした。
メアリーをこのまま引き取っても大丈夫なのか?
何か手続きをしなければならないのか? など、いろいろ尋ねてみることにした。
なんでも、孤児院の場合は手続も多いのだが、引き取るまでそれなりに時間が掛かってしまうという。
その間に受け入れ側の人柄、財産、仕事などを調べられたりもするそうだ。
(う~ん、そりゃそうだよな。犬猫を引き取るわけではないんだし)
それがスラムからの引き取りになると人身売買などの犯罪行為でなければ特に問題になることもないのだという。
(割とガバガバなんだな。どのみち問題を引き起こすお荷物なので、居なくても問題ないということか)
故にそのまま引き取っても問題になることはないのだが、住民登録は小さいときにやっておいた方がいいとのことだ。
登録料もさることながら、生まれた時から住民税が課せられているからだそうだ。
(なるほど、住民税も安くはないのだろうが、その年その年親たちが必死に払っているのだろう。それが10年分とか15年分とかになれば普通は払えないよな)
それからメアリーが着ていた服についてなのだが、どうもミリーの服を譲ってもらったらしい。
年齢はメアリーのほうが1歳年上になるのだがスラムでの生活のためか成長がすこし遅れ気味なのだ。
それでミリーの服をそのままメアリーに着せてみたらしい。
あとはブラシなどの日用品に下着や靴などを購入したということだった。
お釣りはしっかりと返された。
部屋代も今のまんま、1日あたり200バースでいいそうだ。
若干だが食費も増えるというのにマクベさんには本当にに頭があがらない。
それと、冒険者ギルドに依頼を出してきたので忘れずに受けておくようにとのことだ。
そうか、もう4日後だったよな。
行商の付き添いは問題ないのだが、メアリーはどうしよう?
どうしてもの時はマクベさんに相談するしかないよな。
俺はスヤスヤ眠っているメアリーを抱きかかえ部屋に戻ってきた。
あとは寝る前の日課である魔力操作の訓練だ。
メアリーを隣に寝かせ、座禅を組み瞑想していく……。
ぺしぺし! ぺしぺし!
『おきる、いく、いっしょ、あそぶ、さんぽ、はやく』
「ふぁ~ぁ、おはようシロ」
俺はあくびをしながら木窓を開けた。
(うん、天気は良いみたいだな)
そのあとメアリーも起こして、顔を洗ったら朝の散歩である。
みんなで朝食をとったあとはメアリーを連れて家をでた。
まずは冒険者ギルドだな。
昨夜話していたが、マクベさんが出した護衛依頼を受けにいくのだ。
――ううっ!
相変わらずおっさん臭が目にしみる。
入ったとたんに顔を顰めたくなるがここは我慢だ。
仕方なくカウンターに並んだ。
メアリーを腕に抱いているせいか奇異の目で見られるが、流石にCランクの冒険者には絡んではこない。
そのままカウンターにて護衛依頼の受付を済ませ冒険者ギルドをでた。
(さて、……次は教会だな)
メアリーを腕抱きにしたままシロを連れて教会の扉をくぐる。
シスターマヤが笑顔を浮かべて俺の前までやってくる。
しかし、メアリーを抱いている俺を見て少し戸惑っている様子だ。
「お祈りをさせてもらうよ」
俺は構わず大銀貨を渡して礼拝堂へと進んだ。
そこでメアリーを床に下ろし、
「みんなで女神さまに祈りを捧げるよ」
そうすると、メアリーも俺の隣で跪き胸の前で両手を組む。
静かに祈りを捧げていると、ススゥ――と周りの景色が変わっていく。
――いつもの場所だな。
そして目の前には女神さまが顕現なされる。
「みなさん息災にお暮らしのようで何よりですね」
「はい。いつも見守っていて下さり感謝しております。今日はシロに妹ができましたので連れて参りました」
『できた、うれしい、いもうと、あそぶ、まもる、いっしょ』
「それは良きことです。仲良くですね」
「今回、女神さまにお聞きしたいことがあったのです。よろしいでしょうか?」
「あまり時間はとれませんが簡単なことなら答えることができます」
「この世界において、あくまでも俺の手の届く範囲になるのですが……、貧しい子供や厳しい因果にある者を俺の判断で救っていっても構いませんか?」
「こちらからは、ある特定の人物に何らかの制限や定めといったものは科しておりません。『皆が幸せに暮らす』 これこそが望むべきものなのです」
「そうですか。では、やり過ぎない程度にやっていこうと思います」
「そろそろ時間のようですね。最後に一つだけ、”スキップ!” これで短距離の瞬間移動ができます。それでは、またいつの日か……」
周りの真っ白な景色が元の礼拝堂へと戻る。
そして俺はゆっくりと立ち上がる。
――ひしっ!
シスターマヤである。
「おおおぉぉおお 神よぉ!」
お構いなしに涙と鼻水を擦りつけてくる。
おいおい、今回光ってたのは隣りにいるメアリーだっただろ?
……いや、”スキップ!” を授けられた時に俺も光ったのか?
お座りしているシロをみると、目をとじてコクコクと頷いている。
「…………」
それにしたって、ホントにこやつは…………。
しかし今回は我慢だ、このあと尋ねたいこともあるからな。
シスターマヤをなんとかなだめて、並んでいる長椅子にメアリーと腰掛ける。
「人を一人弔ってやりたいのだが何処か案内はできるか?」
問いかけるとシスターマヤは涙と鼻水をハンカチで拭い、
「すぐにでしょうか?」
その言葉に俺は無言で頷く。
「少し待っていてください」
そう言い残してシスターマヤは出ていってしまった。
仕方がないので、メアリーと一緒にシロをもふりながら待つことにした。
それからしばらくしてシスターマヤは戻ってきた。
後ろにもう一人女性を伴っているので代打を頼むのだろう。
シスターマヤが今から墓地へ案内してくれるという。
………………
そして俺たちは今、シスターマヤに案内され町中を北門へ向かって歩いていた。
すると、目の前を進んでいたシロが途中で止まってお座りをする。
そこは串焼き屋。薬草採取の折にいつも寄っている馴染みの店なのだ。
シロは屋台の正面にお座りしてブンブン尻尾を振っている。
(これは買うまで動かないだろうな)
……仕方ない。
俺はシスターマヤに断りを入れると串焼き4本買って小休止することにした。
「ゆっくり食べろ。ほれっ、ちゃんと水も飲むんだぞ」
「うん!」
水筒を出してメアリーに水を飲ませる。幼い子がいるのだから水分補給はこまめにしていかないとな。
もちろんシロにも器を出して水を入れてやる。
そうして北門を出た俺たちは、右に曲がって城壁沿いを進み途中から細い小道へと入った。
その道を10分程登っていくと小高い丘の上に墓地が見えてきた。
周りは簡単な木の柵で囲ってあり、入口には古い小屋が建っている。
俺たちは木でできた門を潜り墓地の中を進んでいく。
しばらく行ったところでシスターマヤは立ち止まった。
「こちらへどうぞ」
その場所を掌で示してくれている。
「メアリー、ここでいいか?」
俺はやさしくメアリーに問いかけるが……。
その顔にはすでに大粒の涙があふれており、まともに答えることができそうにない。
メアリーをシスターマヤに預けると、俺はインベントリーから鍬 (くわ) と手箕 (てみ) を取りだした。(手箕:農作業で使う竹ざる)
そして穴掘り作業を黙々とこなしていった。