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柔道部の部室は、汗と畳の匂いが混ざった重苦しい空気で満ちていた。
畳の上で黙々と準備運動をする陣。身長は高く筋肉もあるが昔、その瞳には影が差していた。誰も陣を見ない――いや、正確には、見てはいるが、誰も助けないのだ。
「おっ、陣、今日もやる気ねえな」
同級生の陽斗が笑みを浮かべ、肩を組みながら上から目線で言った。
陣はちらりと目を向けるだけで無言。
陽斗は自分の部活がある日は控えめだが、ない日は高飛車かつ挑発的だ。陣がやる気を出していないと、特に目を光らせる。今日もそれだ。
「俺が本気でやらせてやるかな?」
言いながら、わざと投げる技の角度を変え、陣の体勢を崩す。陣は冷静に耐えるが、胸中の苛立ちは消えない。
遅刻してヘラヘラ登場する勇気は、口だけで助ける気もなく、陣を見て嘲笑う。
「お、今日もひとりぼっちっすか〜?やばくない?」
遅刻しても無責任に笑う勇気の態度に、陣はただ拳を握る。
先輩たちは相変わらず傍観するだけで、何の助けもない。
さらに、莉玖は陣の投げ技にわざとタイミングを外し、技がかからないように妨害する。
「ほら、やる気出せよ。俺たちの邪魔すんな」
わざと技を避けて、にやりと笑う莉玖。陣は目の前で挑発されても、言い返せない。怒りと疲労が重なり、胸が痛む。
顧問の小谷先生は、女子部員には甘く優しく指導するが、男子には冷たい態度を崩さない。
「陣、動きが鈍いな。もっとしっかりしろ」
同じことを女子に言うときは手取り足取り教えるのに、男子には無言で見下すだけだ。
孤独感、苛立ち、屈辱――陣はすべてを飲み込み、黙々と練習を続ける。
ある日の練習試合。陣は疲れで動きが鈍っていた。陽斗はすぐに反応する。
「お、やる気ないな。じゃあ俺が本気でやってやるよ!」
普段高飛車な態度で陣を挑発し、わざと技をかけて邪魔する。
莉玖は故意に体をそらして妨害し、勇気はヘラヘラ笑いながら無意味に声をかけるだけ。
「おーっと、陣くん、まじヘタだねw」
それを見て、顧問はやはり女子だけに笑顔で指導。男子は冷遇。先輩は傍観。
陣は目を閉じて深呼吸する。怒りや屈辱を力に変える瞬間だ。
一瞬の隙をつき、技を決める――莉玖の妨害も陽斗の挑発もかわし、見事に相手を投げた。
部室に静かなざわめきが起こる。
「……す、すげえ……」
普段高飛車な陽斗も、思わず息を飲む。
勇気はヘラヘラしながらも、軽く頷く。莉玖は黙ったまま。
孤独の中で自分を証明する――それが陣の柔道の道。
部活はまだ居心地が悪く、いじめも続く。顧問は女子優遇、男子冷遇。先輩は傍観者。陽斗・勇気・莉玖は手段を選ばず、陣を挑発する。
だが、陣は確かな歩みを進めていた。
畳の匂い、汗、静寂。孤独の中で存在を示す日々が、陣の心を少しずつ強くしていた。