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その日の私は、どこか不安定だった。
朝から撮影が押して、衣装もメイクもバタバタで、
メンバーにも心配されるほど顔色が悪かったんだと思う。
JO「妃夏ちゃん、大丈夫?」
JOが声をかけてくれたけど、笑って誤魔化すだけ。
「平気だよ。ありがとう」
本当に具合が悪いわけじゃない。
ただ、胸の奥がずっとざわざわしていた。
理由は分かっている。
……ユウマくんのせいだ。
最近ユウマくんは、練習でも撮影でもずっと忙しくて、
前みたいに話す時間が減っていた。
目が合っても、打ち合わせで急にどこかへ行ってしまう。
「今日は帰り一緒に帰れる?」
昨日も聞けなくて、今日こそ聞こうと思っていたのに──
YM「妃夏、先行っててええ?俺、あとからスタッフと話あるねん」
それだけ言って、ユウマくんは靴紐を直しながら背を向けた。
胸の奥が痛くなる。
ちょっとのことなのに、どうしてこんなに苦しくなるんだろう。
「……ユウマくん、最近冷たい」
そう思ってたら、声が勝手に漏れた。
YM「え?」
ユウマくんが振り返る。
その顔は本当に驚いていて、逆に胸がチクリとした。
YM「別に冷たくしてへんやん。忙しいだけやろ」
「忙しいのは分かってるよ。でも……」
喉がつまる。
言いたいことが溢れすぎて、どれを言えばいいか分からない。
YM「妃夏、なんなん?はっきり言ってや」
少しだけ苛立ちを含んだ声。
その言い方が、私の心に火をつけた。
「ゆうまくん、最近ずっと私のこと後回しじゃん!」
YM「後回しとか言うなや。仕事やねんで?」
「それでも……前はもっと優しかった。手もつないでくれたし、夜だって連絡くれたし……」
本当は言いたくなかった。
言ったら子どもみたいで格好悪い。
でも抑えきれなかった。
ユウマくんは眉を寄せて、少しだけ目をそらした。
YM「……妃夏がそう思ってたん、気づかんかった」
「気づいてよ……彼氏なんだから」
その一言で空気が変わる。
ユウマくんの喉がコクンと動いた。
YM「……妃夏」
ユウマくんの声が低くなる。
YM「俺は……俺なりに守っとるつもりやった。妃夏のこと、余計な噂とか立てへんように、距離置いてただけや」
「距離なんて置かないでよ!私、ユウマくんに離れられるのが一番嫌なのに……」
言った瞬間、涙がにじむ。
恥ずかしいほど本音だった。
ユウマくんは一瞬、動きを止めた。
それから大きく息を吸い、近づいてくる。
YM「……ひなつのこと嫌いになったことなんか、一回もない」
声が震えていた。
YM「ほんまに……好きやから、怖かっただけや」
「怖い?」
YM「妃夏のこと好きすぎて、周りに見られんように気をつけすぎて……逆に妃夏のこと傷つけてたんかもしれへん」
私は唇を噛んだ。
ずっと胸の奥に溜まっていた苦しさが、一気にほどけていく。
「……ユウマくん」
YM「妃夏、ごめん。俺、もう後回しとか絶対せぇへん。ちゃんと向き合う」
気が付いたらユウマくんの袖をつまんでた。
「……なら、許す」
泣き笑いみたいな声。
ユウマくんがくしゃっと笑って、そっと優しく私の頭を撫でる。
YM「ひなつ怒ってるとき、めっちゃ可愛いで」
「怒ってないし……もう」
YM「はいはい。俺が悪かった」
ギュッと抱き寄せられる。
その瞬間。
喧嘩の痛みよりも、
その痛み以上の“愛しさ”が胸いっぱいに広がった。
初めての大喧嘩は、
私たちの心を確かに近づけた。
けれど──
このあと訪れる“大きなすれ違い”には、
まだ誰も気づいていなかった。