先にこっちだけ書かせてクレメンス……
短いけど許してん……
ーーー
ロヴィーノは、まだ温もりの残る弟の身体を抱きしめたまま、動けなかった。
フェリシアーノの血が指先を伝って落ちていくのを、ただ見ているしかなかった。
「……なんで、だよ……なんで、こんな結末しか……」
返事は来ない。
どれだけ呼んでも、揺さぶっても、兄と呼んでくれた声はもう聞こえない。
魔王城を満たしていた闇の魔力は消え、世界は救われた。
英雄は誕生した。
ただし――たったひとり、最も愛した弟の命と引き換えに。
ロヴィーノはフェリシアーノの胸にそっと額を押し当てる。
「お前……最後まで俺のこと考えて……
死ぬ時まで、俺を庇って……馬鹿野郎……」
涙が止まらない。
呼吸をする度に胸が締めつけられ、心臓が痛む。
そのときだった。
かつて魔王軍だった小さな精霊が、怯えるように近づいてきた。
『……勇者さま。魔王さまは、最後にこう言っていました』
ロヴィーノは顔を上げる。
涙でぐちゃぐちゃの目で、精霊を見る。
「……なんて言ってた……?」
精霊は、震える声で言った。
『“兄ちゃんの手で終われるなら、怖くない”と』
その瞬間、ロヴィーノの中で何かが崩れ落ちた。
涙と一緒に嗚咽が漏れる。
もう止められなかった。
「フェリ…ごめん…ごめんな……!!
俺、お前を……助けられなかった……!!守れなかった!!
兄失格だよ……!!」
城に、勇者の声だけが響き続ける。
やがてロヴィーノは、静かに弟の体を抱き上げた。
「帰ろうな……フェリ。家に帰ろう。
お母様にも……お父様にも……ちゃんと……」
まるで眠っている弟を運ぶように、優しく、崩れないように。
――世界を救った英雄は、誰にも誇らしげな顔を見せなかった。
城を出るその背中は、とても弱く、
ただひとりの弟を失った兄の姿そのものだった。
けれど。
胸の中に眠るその身体を
最後まで抱きしめ続ける腕だけは、
誰よりも強かった。







