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家賃を抑えるのが一番のポイントだよなぁ。
今は家があるからいいけど。
お風呂掃除をしながら洗濯機を回す。
離婚をすることにしてから、洗濯物のカゴを二つに分けた。
私用と、旦那用。
それぞれに入れて、それぞれで洗濯する。
干場も二つにした。
「ハンガーで干してそのまま着て行けば、畳む手間も省けるし、自分で管理できるでしょ?」
「…うん」
「離婚して1人で暮らすようになったら、全部自分でやるんだからね、いまのうちにやっておいた方がいいでしょ?」
旦那のためのフリをしながら、本心は自分のため。
離婚までの期間を少しでもストレスなく過ごせるように、少しずつ家事を分けていくことにした。
やりやすいように洗濯から。
洗剤も二つ用意して、名前を書いておいた。
まるでシェアハウスかどこかの単身寮みたいだけど。
それから10日ほど経過して、今朝。
私は少なくても2日に一度は洗濯する。
お気に入りの柔軟剤も買ってあるし。
だから、カゴは空っぽ。
横にある旦那の洗濯カゴは…山積み、わかっていたけど。
リビングでテレビを見てる音がする。
「ねぇ、今日あたり洗濯したら?天気も良さそうだし、心配なら部屋干しでさ…」
「あとでやるから、置いといて」
「こんなに溜め込むと、洗っても簡単には落ちないよ汚れも臭いも」
旦那の洗濯カゴをひっくり返してみた。
まるまった靴下、襟汚れのついたシャツ。
パンツだけで10枚はあった、マジか…。
見なかったことにして、元に戻す。
「私の分の洗濯終わったから、どうぞ」
「あとでやる」
子どもかっ!
「私、午後からちょっと出かけるから、晩ご飯は食べて帰るから適当にすませてね」
「あぁ」
洗濯物を干して、整備士の資格試験に必要なテキストを持って出かける準備をする。
今日は貴君が、勉強を見てくれると言ってくれた。
今度こそ合格しないと。
合格して一泊旅行をしないと。
貴君とのご褒美一泊旅行を想像しながら、ニヤける。
「洗い物、しておいてよ」
遅くに起きてきた旦那が食べた朝ごはんの食器。
まだテーブルにあった。
「あとでやる」
もう聞き飽きた。
落ち着いた喫茶店で、テキストを広げて勉強する。
こんなこと、学生以来でソワソワする。
「そこの数字は…」
「その部品の扱い方は…」
作業着もいいけど、普段の服装もいいな貴君。
2時間ほどみっちり勉強した。
「はーっ!疲れた、こんなに長い時間勉強するなんて学生時代にもなかったことだわ」
「俺も久しぶりにやると、けっこう忘れてるわ。もう一回勉強しようかな?」
「貴くんは経験値があるから大丈夫でしょ?」
「実技はね、でも新しいこといっぱい出てくるから、いつになっても勉強だよ。それに車は人の命に関わるからね」
「やっぱり、真面目!」
休憩して、軽くおやつでも?とホットケーキを注文した。
パンケーキじゃなくてホットケーキ。
ここの昔ながらのしっかりしたホットケーキは、旦那も好きだったなぁとふと思い出す。
「資格もだけど、離婚するって大変じゃないの?結婚もしてない俺が言うのもなんだけどさ」
「私さ…今度離婚したらこれ、2回めなんだよね」
「バツ2?」
「そう、一回めの結婚は、すぐに失敗したってわかったんだけど。だから再婚する時は、絶対幸せにしてくれる人に決めたつもりだったんだよね。それがさ…」
ホットケーキに多めにメイプルシロップをかける。
バターの塩味と相まってあまじょっぱくて美味しい。
「そんな話聞いてると、俺、ますます結婚したくなくなるわ」
「結婚はね、現実だよ。恋愛は夢だけどね」
「それはわかってるつもりなんだけど、そんなふうにはっきり言われると」
貴君がため息をつく。
「でも、結婚はしたいんでしょ?」
「特にしたいわけじゃない、親がうるさいからね、それに」
「それに?」
「今、自分の給料は、何も気にせず車につぎ込んでてさ。この前いくら使ったか計算したら驚いたよ、家買えそうなくらい使ってた。だから、この金遣いを改めさせてくれるような存在が必要なんだよね」
あははと笑う。
私は笑えない。
「貴君、それはダメだわ、結婚に向いてない。愛情よりお金だよ、結婚って。お金がなくなったら、愛情なんて何の意味もないよ」
「え?そうなの?それはイヤだな」
あははと笑う。
貴君は結婚できそうにないなと勝手に思った。
「とりあえずさ、家賃の安いとこ探して引っ越しできるようにしてから離婚するつもり。やっぱりさ、住むとこがないのは不安でしかないから」
「そうだね。俺はずっと実家だからそんな心配したことないから気楽だけど」
それからしばらく勉強して、晩御飯を食べて帰った。
忘れないように復習して、次の試験は合格するように。
「ただいま!」
玄関を入ると、柔軟剤の匂いが立ち込めている。
リビングに入ると、お弁当を食べ散らかしたあとと、転がるビールの缶。
「また、そのままなの?もうっ!」
「片付けるから置いといて」
「言う前にやってよ」
それにしても、柔軟剤の匂いがキツい。
洗濯機のところへ行く。
床に柔軟剤が倒れてこぼれていた。
「あーっ!私の柔軟剤使ったでしょ!お気に入りなのにこぼれてるし。ちゃんと蓋してよ」
洗濯干場に入った。
強烈な柔軟剤の匂いがする。
「どれくらい入れたの?柔軟剤!」
「ダバって入ったから、知らん」
「キャップで計ってよ、絶対入れ過ぎだよ、もうっ!自分のやつ買ってくればいいのに」
できるだけ早く引っ越そうと思った。